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DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 5-8」(詳細版)

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 だいぶ前に告知していた「この作品」を再紹介します!

 今回も長い記事になるので、お暇な時に読んでくださいね!





1.はじめに

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 今回は、DJ MURO(ムロ)さんが作られたミックステープ「Super Disco Breaks」の第2弾にあたる「Super Disco Breaks Lesson 5-8」を紹介します。

 まず、この作品は2000年4月にリリースされた2本組のミックステープで、1998年にリリースされた第1弾「Super Disco Breaks Lesson 1-4」が人気だったことから、続編として作られた作品になります。
 ジャケットは第1弾が銀色なので第2弾は金色になり、それに伴い中身もパワーアップし、最高のミックステープになっています。

 そして、この作品は、2009年4月に当ブログで紹介しており、再紹介の作品になります。

 ちょうど、昨年の4月に銀色の第1弾を再紹介していることもあり、その流れから金色の第2弾を聞き直したらすっかりハマってしまい、昨年の夏ぐらいから集中的に聴くようになりました。
 通勤時に聴いていることが多かったですが、第1弾と同様に、段々とこの第2弾で紹介すべき点が多いことに気付くようになり、昨年の年末ぐらいからはこの作品の研究も開始しました・・・なかなかハードな研究でしたよ・・・

 そして、研究を深める内に、今回紹介する第2弾は「なかなか評価されづらい作品」だと思うようになりました。
 それは、第1弾と同様にトラックリストが付いていない作品だったり、選曲やDJミックスが複雑だったりすることが大きく、特に、第2弾が第1弾の選曲とDJミックスの方向性を継承しつつも、様々な面で進化していることから、第1弾以上に評価されづらい部分があると思いました。
 
 そのため、この作品の詳細までしっかりと紹介して、皆さんにその素晴らしさをお伝えしたいと思い、今回の記事の準備を進めました・・・

 いつもと変わらない理由ですが、こんな思いがあり、この作品を再紹介することになりました!


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 なお、この作品の背景、そしてMUROさんがこの作品に込めた思い等は、前述した第1弾「Super Disco Breaks Lesson 1-4」と重複する部分があるため、以下のリンク先の記事を読んでいただければ幸いです。
 こちらも長い記事ですが、作品紹介におけるスタート部分は詳しく書いてありますので、併せてお読みください。


● DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 1-4」(詳細版)


<参考記事>
・DJ MURO MixTape 作品リスト
・DJ MURO MixCD 作品リスト
・DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 5 - 8 」(旧記事・2009年)
・「Super Disco Breaks 1-4 & 5-8」トラックリスト公開



<備考>
・この記事の紹介をもって2009年の紹介記事は旧記事とさせていただきます。ただし、この作品の全容をコンパクトに紹介し、かつ当時の私の思い等を紹介していますので、ご興味があれば、該当記事をご一読ください。
・この作品はトラックリストが付いていない作品でした。そのため、2010年に公開した記事では、私が調べたトラックリストを紹介しました。ただ、この記事の公開に伴いトラックリストの全体的な見直しを行い、該当記事にトラックリストの修正版を掲載しました。本記事では修正後のトラックリストに準じて作品を紹介します。
・この作品は、作品ジャケットを見る限りだと、どこにも「第2弾」や「Lesson 5-8」とは書いていないため、人によって呼び方が異なる作品になります。そのため、この記事では、第1弾を踏襲し、作品タイトルを「Super Disco Breaks Lesson 5-8」として紹介させていただきます。なお、これも長い名称になるので、この記事では、Lesson 5-8を「第2弾」、Lesson1-4を「第1弾」と記載します。
・本記事で紹介している収録曲のBPMやピッチアップの可変数は、筆者が手集計で計測したものになります。そのため、実際の収録内容と多少異なる可能性があります。





2.この作品の背景

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 では、作品の細かい内容を紹介する前に、この作品の背景を整理し、選曲やDJミックスのポイントとなる点を紹介したいと思います。

 まず、この作品は、第1弾で魅せた世界観を引き継いだ内容になっており、約2年後の作品だけあり、選曲面・DJミックス面とも大幅に進化した内容になっています。

 この作品は「MUROさんの現場でのプレイを凝縮した作品」と言われることが多いのですが、その点はしっかりと引き継がれ、様々な面で進化しています。
 特に、第1弾の紹介で指摘した『この作品が「Double Dee & Steinski / Lesson 1, 2 & 3」にインスパイアされて作ったミックステープではないか』という点は、この作品の根幹でありながら、さらに進化しています。

 Double Dee & Steinskiの曲には、Hip Hopで言うところの「サンプリング精神」が根底にあり、DJの自由な発想で様々なジャンルの曲を切り貼りして、Hip Hopらしいノリノリなグルーブを楽曲に落とし込むことが表現されています。

 そして、MUROさんが作った第1弾は、MUROさんが楽曲を作る代わりに、自由な発想で様々なジャンルの曲を選曲し、それらの曲を自由な発想でDJミックスした「ミックステープ」になります。

 この第2弾では、こういった背景を踏まえつつ、私としては「自由な発想」という部分が大きく進化していると感じており、選曲面、DJミックス面の両面で大きく進化していると思っています。
 この自由な発想は、この第2段を深く聴けば聴くほど分かることで、ほんと2000年の時点でこんなに自由なミックステープを作られたことに驚きを隠せません!

 しかし、なぜ「自由な発想」が大きく進化したのでしょう・・・

 それは、この第2弾が、第1弾から2年後の作品、それも20代のMUROさんがアーティスト/DJとして成長していた2年後の作品であることが大きいと思います。

 以下では、こういった進化を支えたMUROさんの成長や変化があったと思われる部分を、紹介させていただきます。



(1)MUROさん自身の変化について

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 ここではMUROさん自身の活動から、どのような変化があったかを紹介したいと思います。

 まず、第1弾をリリースした1998年以降の作品リリースの流れを見ていると、この頃のMUROさんの中で大きいのは「メジャーデビュー」になるでしょう。

 1999年にメジャーレーベルであるToy's Factoryと契約し、同年にミニアルバム「K.M.W. (King Most Wanted) 」を発表、そして2000年にはフルアルバム「Pan Rhythm: Flight No. 11154」をリリースし、今まで以上に多くの人がMUROさんのことを知ったかと思います。

 個人的には、メジャーに行ったというよりも、自身のレーベルであるIncredible Recordsがメジャーにフックアップされたイメージがあり、結果的にストリートとメジャーを上手く使い分けながら、「MURO(ムロ)」という世界観を表現していて、当時のMUROファンとしては安心してメジャーでの活動を応援できたとの記憶があります。

 そして、メジャーに進出したことで、私としては、MUROさんの中でさらに「音楽の幅が広がった」と思っています・・・


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 それこそ、Incredible Recordsより1998年頃からリリースしていた12inchの楽曲では、ジャジーな雰囲気な楽曲が多いですよね・・・

 例えば、現在のMUROさんのラジオ番組「King of Diggin」のテーマ曲として使われている「Han-Tome」は、Latin Jazzの名サックス奏者であるEddie Pazantを招いた楽曲として有名です。

 また、2000年リリースのフルアルバムからカットされた曲はもっと幅が広がり、バンド形式でHip Hopを奏でていたStetsasonicのカバー曲「Hip Hop Band」は、ブレイクビーツ感とラテン~サンバ的なアッパーさが加わった名カバーに仕上げており、今でも最高の1曲です。
 カバーだと、有名レゲエ・グループInner Circleの70年代にリリースされたアルバムに隠れた名曲「Jah Music」を、盟友Booさんに歌い直してもらった曲もありますよね・・・この曲には仰天し、いつかオリジナルを買おうと誓った1曲になりました。


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 さらに、こういった音楽の広がり方があったからか、Remixの仕事、それもHip Hop以外からのRemixの依頼が増えていて、この第2段がリリースされた2000年頃に作られたRemixは多いです。

 それこそ、Club Jazzシーンからの依頼は多く、国内であれば「United Future Organization / Good Luck Shore (Muro Mix)」から始まり、今でも大名曲な「Sunaga T Experience / It's You (It's Muro Mix)」等のRemixを作られています。
 また、海外からの依頼もあり、「Truby Trio / A Go Go (DJ Muro Remix)」や「Tony Touch / I Wonder Why? (Dance And Shake Your Boosty Remix)」等のClub Jazz~Breakbeats~House寄りなRemixを作られています。

 これらのRemixは、パッと聴くと「Hip HopのRemix」ではないかもしれません・・・ただ、確実に「MUROさんのRemix」になっています。

 それこそ、Tony TouchのRemixは、第1弾で選曲された「Universal Robot Band / Dance And Shake Your Tambourine」をネタにしたRemixで、この時期の「MUROさんの音楽」が外部のRemix仕事にも反映されていることが伺えます。

 つまり、MUROさん自身の音楽も広がっているし、活動する音楽シーンの幅も広がっていることが分かります。

 この音楽の広がり方は、日本語ラップ、いやHip Hopの枠を超えて、もはや「MURO(ムロ)」というジャンルを開拓していたことに尽きるでしょう・・・

 日本のHip Hopシーンにおける1999年を振り返ると、Rhymesterが3枚目のアルバム「リスペクト」を発表したり、その一方でDragon Ashが「Grateful Days」を発表して物議になる等、色々な意味で日本のHip Hopが広がった時期かと思います。
 その中で、Microphone Pagerとして日本語ラップ/日本のHip Hopの中心的存在だったMUROさんは、こういった流れに乗りつつも、独自のスタンスで音楽の幅を広げていったと思います・・・


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 一方で、MUROさんのミックス作品に目を向けると、1999年にリリースしたミックステープ「Diggin' Ice 99」では、Hip HopやR&Bを選曲しながら、前述したLatin JazzやReggaeのような、夏らしい気持ちいい曲を上手く選曲しています。

 また、この第2弾のリリース後に、同じSuperシリーズの名前で2000年9月リリースしたミックステープ「Super Samba Breaks」は、当時流行っていたSamba HouseやDeep HouseをMUROさん流に気持ちよく選曲しています。
 さらに、Superシリーズであれば、その次の作品として、2001年8月にミックステープ「Super Funk Breaks Lesson 1-4」をリリースし、Super Disco Breaksで表現したHip HopとDiscoの融合という試みを、当時流行し始めていたDeep Funkに置き換えて、Hip HopとDeep Funkの融合を表現しています。

 よくMUROさんのインタビュー記事を読んでいると「ネタとして掘ったら、そのジャンルのことが好きになっていた」といった旨を発言されることがあります。

 MUROさんのDJを考えた時、ほんとDJのために様々なジャンル、様々な時代のレコードを掘っておられます・・・

 それは、MUROさんのDJを聞くリスナーを喜ばせ、そのリスナーを踊らすために「掘っている」ことなのかもしれません・・・


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 それこそ、この頃のMUROさんは、週末はDJのお仕事で埋まっていて、メインDJだったラジオ番組「Hip Hop Journey - Da Cypher - 」でのDJや、全国津々浦々のクラブでDJを行っていました・・・

 その中では、渋谷のHarlemのような大箱だったり、新宿のOTOのような小箱だったり、様々なタイプのクラブでDJをされたこと、それも全国各地のクラブを回ってたことから、自然と「その場にいるリスナーに合う選曲」が身に付いたのだと思います。
 
 ただ、そこは「King Of Diggin’」ですよ・・・

 こういった選曲においても「掘る」という姿勢は忘れずにいて、その結果、MUROさん自身の選曲の幅がさらに広がったのだと思います。

 つまり、このように音楽の幅が広くなった背景を考えると、MUROさんが「DJ」という職業を真剣に取り組んでいたことが一番大きいのかもしれません・・・



(2)この作品での選曲について

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 次に、(1)で紹介したMUROさん自身の変化を踏まえて、この作品での選曲の方向性を大まかに紹介したいと思います。

 まず、全体的には第1弾の選曲の方向性を引き継ぎつつ、第1弾の選曲のコアとして機能していた「B-Boy Disco」をさらに推し進めた選曲が中心になります。
 つまり、「Disco/Breakbeats」を範疇とする70年代~80年代中期までの曲と、「Hip Hop」を範疇とする80年代初期~80年代後半ぐらいまでの曲を上手く繋ぎ合わせ、B-Boyでもつい踊ってしまう「B-Boy Disco」を表現した選曲になっています。

 ただ、第2弾の選曲を細かく調べていくと、(1)の紹介に沿うような変化が若干見られます。

 例えば、「Disco/Breakbeats」のラインであれば、ブレイクが立っているDiscoを多く選んでいたり、Rare Grooveっぽい曲を増やしていたり、細かい変化が確認できます。

 Rare Grooveっぽい曲の中では、それこそOrgan Bar等でプレイされそうなJazzやRock等、様々なジャンルの曲を選曲しており、いわゆる「ネタを掘っているからこそ出会えるジャンルの曲」が増えていて、なかなか興味深いです。
 個人的には、ラテン~サンバ的なテイストの曲は、Hip Hop的な視点で選びつつ、後のSuper Samba Breaksに繋がっていくようなグルーブもあり、大変興味深いです。

 さらに、この作品では、Rare Grooveの範疇でFunkっぽい曲も多く選曲しており、この作品の中でもDeep Funk的なものを多く選曲しています。
 この部分は、もちろん、後のSuper Funk Breaksの流れに繋がっていくのでしょう・・・

 また、「Hip Hop」のラインであれば、Old School~Middle Schoolの曲を中心としながら、ネタ感やブレイクが際立った曲やCut Up系の曲も上手く選曲し、この作品を大いに盛り上げています。
 ドマイナーな曲もあれば、まさかの定番曲もあったり、選曲やDJミックスの工夫によりHip Hopの曲を上手く活用しています。

 さらに、Cut Upのイメージをより進化させたからなのか、いわゆるマッシュアップの曲を多用していたり、R&B/UK Soul的な曲の中からブレイクビーツが際立っている曲等を選曲してきたり、Hip Hopの中でも選曲の幅を広げています。

 つまり、前述した「Double Dee & Steinski / Lesson 1, 2 & 3」へのオマージュを基礎としながら、結果的にMUROさんだけにしか作れない、様々なジャンルの曲を内包した「B-Boy Disco」を選曲しています!

 うーん、選曲の全体的な説明としては不十分ですね・・・ただ、まとめると「B-Boy Disco」としか言いようがない選曲になっています!



(3)この作品でのDJについて

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 次に、DJミックスで変化した点を紹介したいと思います。

 ただ、この部分は、確証が得られない内容が含れることをご了承ください。

 まず、DJのスタイルについては、第1弾と同様にアグレッシブなHip Hopスタイルで進めていますが、第2弾を細かく聴いていると「ある変化」に気付きます。

 それは、「一人では難しいDJミックス」が増えていることです。

 例えば、アナログのレコードでDJをしていると、次の曲に移る時は以下の作業が必要になります。

 ①プレイしていたレコードの針を上げ、プレイしたレコードを持ち上げる
  ↓
 ②そのレコードと次にプレイするレコードを交換する
  ↓
 ③次にプレイするレコードに針を置く


 この一連の流れは、普通に1曲1曲をプレイするなら支障がないことですが、次の曲を「すぐにプレイ」したい時はこの一連の動作をスピーディーに行う必要があります。

 特に、②の部分はかなり時間がかかるため、一人でDJをする時は次のレコードを裸で横に置いておく等、様々な工夫をしていることが多いです。

 ただ、どうしても一人でDJしていると動作に限界があるため、プロのDJの中ではこのスピーディーさを確実にするため、次の方法を選択していることがありました。

 それは「レコード係」を用意することです。

 レコード係・・・明確な名称はなく、海外ではローディー(roadie)と呼ぶこともあります。

 レコード係のことを分かりやすく説明すると、「DJがプレイしたレコードを受け取り、次の曲のレコードを渡す係」になります。

 この写真を例えにするのは大変失礼であることは承知していますが、上記写真はMUROさんがCaptain VinylとしてNoriさんとDJをしている姿になります。この写真を例にとると、ターンテーブルを操っているMUROさんがDJ、後方にいるNoriさんをレコード係が動く位置になります。この写真の構図を踏まえながら、レコード係のことを以下で説明します。

 もし、『MUROさんがDJをしていて、左のターンテーブルでプレイしていたAという曲を終わらせ、右のターンテーブルでBという曲をプレイし始めたけど、Bという曲を2小節程度で切り上げ、Cという曲をすぐプレイする』とすると、Bのレコードをプレイした直後に、Aのレコードを左のターンテーブルから持ち上げてどこかに置き、Cのレコードをすぐに左のターンテーブルに置き、さらに目的の場所に針を置く必要があります。これは、上記の①②③の流れになりますが、10秒ぐらいだとかなり難しいことになります。

 そこで、DJの後ろにレコード係を配置させることで、②の動作をスピーディーに行うことが可能になります。

 例えば、Bをプレイし始めた後、プレイし終わったAのレコードをMUROさんがレコード係に渡し、レコード係からCのレコードを手渡すことで、大幅に時間短縮ができます。また、もっと高度になると、MUROさんがBの曲に移行する動作をした直後に、音が鳴らなくなったAのレコードをレコード係が取り上げ、レコード係がCのレコードをセットし、前述の動作が終わったMUROさんがプレイする場所を探し、すぐにCをプレイする・・・みたいなこともできます。

 レコード係を明確に説明できる分かりやすい写真や動画が見つからなかったので、あえて言葉で説明しました・・・説明が長くてすみません・・・


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 そして、この第2弾のことに話を戻すと、この第2弾では一人では難しい「クイックミックス」を様々な面で多用しています。

 それも流れるようなDJミックスが多いことから、ちゃんと聴いてないと聴き逃してしまう、いや、聴いている人に気付かれないクイックミックスが多いです。

 そのため、こういったクイックミックスを実現させるために、MUROさんはレコード係を活用していたと思います・・・

 今となってはあまり知られておりませんが、実は、MUROさんがレコード係を活用していた時期がありました。

 例えば、2005年頃のMUROさんのDJ、特にロングセットのDJでは、MUROさんはレコード係を帯同し、クイックミックスを多用した最高なDJを披露されていました。

 最高なDJ・・・

 私は、この時のMUROさんの「最高のDJ」を体験できたから、今があるのだと思います。

 写真は、2005年頃、MUROさんがDJをしたパーティーのフライヤーで、私が実際に参加したものになります。
 渋谷のHarlemで不定期開催をしていたロングセットパーティー「Back To Old School」、新木場ageHaで開催していた「Fever」、そして新木場ageHaで開催されたMUROさんの活動20周年を祝うパーティー等、懐かしいですね・・・

 そして、これらのパーティーでは必ずレコード係が帯同しており、レコード係との連携により、一人のDJでは難しい素早いDJミックスが披露されていました。

 レコード係は、いわゆるKODPクルーの若手のDJまたはMCが担当していて、あまり名の知られていないお方が多く、一部の方はMUROさんのお店「SAVAGE」で店員をされていたと記憶しています。

 そして、実際のDJでは、選曲の順番(ルーティーン)が決まっていることが多いのか、MUROさんの指示に沿って次の曲、また次の曲とレコードが手渡されていました。

 このことにより、スピーディーな選曲と、それを支えるDJミックスが可能となり、クラブの現場で今回紹介する「Super Disco Breaks」の世界、つまり「B-Boy Disco」の世界を大爆発させていました。

 当時のMUROさんのDJのことを改めて回想すると、こういったプレイによりMUROさんがスピンするレコードたちが躍動し、フロアーの盛り上がり方と言ったら最強でしたね!

 当時25歳ぐらいだった私は、このMUROさんのプレイを通して、クラブのフロアーの上では「普段の自分」を捨てることを覚えました・・・
 MUROさんの音楽に酔いしれ、声をあげ、踊り狂っていました・・・これがあったから、今の自分がいると信じています!


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 なお、この作品は2000年に発表された作品になるので、私がMUROさんのレコード係を目撃した時よりも5年前に作られた作品になります。
 そのため、この2000年に作られた第2弾がレコード係を従えて作った作品なのかは定かではありません。

 ただ、2000年の頃もKODPクルーは存在していたし、若手のDJやMCがパーティーに帯同していた可能性は高いことから、ここで長い指摘をしました・・・

 KODPクルー・・・私たち世代には「憧れ」でしたね。

 写真は、2002年にリリースされたMUROのアルバム「Sweeeet Baaad A*s Encounter」が発売された時に配布されたフライヤー(筆者が一部加工)で、このアルバムがKODPクルーの大半が参加していたことから、アルバム参加者を中心にトレーディングカード風に撮影したものがフライヤーの写真になっていました。
 MUROさんの他にも、SuikenやS-Word、Macka-Chin、Gore-Tex等のニトロ勢や、DJ Viblam、DJ Shimone、DJ Tus-One等のDJ勢、そして、Joe-ChoやGorikiといった若手等、主要メンバーが勢ぞろいしててカッコいいフライヤーでしたね!

 この写真が2002年頃のものなので、今回の第2弾では、もしかしたらJoe-ChoさんやGorikiさんといった若手、いや、こういった写真の被写体になれなかった若手のMCやDJが担当していたかもしれません・・・

 例えば、2005年頃に私が見ていたKODPクルーであれば、MUROさんのお店で店員をしながらMC活動をしていたHico(ヒコ)さん等がレコード係をしていたり、サイドMCをしていたり・・・実際にはあまり知られていない方がレコード係を担当していので、この第2段の頃もそういった若手が担当していたと思われます。

 話がだいぶ脱線しましたが、第2弾の「レコード係がいないと成立できないDJミックス」は、このような若手がいたからこそ成立していたと思います・・・


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 そして、DJの変化は他にもあります。

 例えば、DJミックスの中で「DJ用のエフェクター」を使用していることです。

 このことは、実際にMUROさんがエフェクターを使用している姿を見ていないので確証が持てないことですが、この作品を聴く限りだと、次の曲に繋げる前に、プレイしている曲に「ディレイ」や「エコー」を使ってから次の曲にカットインしている部分が数か所かあります。
 
 今となっては、パイオニアのDJミキサーのように、最初からエフェクターが備わっているDJミキサーが主流なので、こういった技が標準的になっているかもしれません。
 ただ、2000年頃を考えると、1998年にパイオニアのEFX-500が発売されたり、その翌年ぐらいにKORGよりKaoss Padが発売されたり、良質なDJ用のエフェクターがやっと世に出回り始めた時期になります。さらに、これらのエフェクターがDJミキサーの外付けになることから、全てのDJが使っていたとは言えない状況でした。

 その中でMUROさんは 個人的な記憶を辿ると、割と早い時期からエフェクターを使っていたと思います・・・

 例えば、MUROさんがDJを担当されていたラジオ番組「Hip Hop Journey - Da Cypher - 」でも、たまにDJミックス中にエフェクターを利用したプレイを披露していました。
 このことを詳しく紹介すると、1998年頃のMUROさんのDJを私が特別編集した「Da Cypher's Choice Vol.4」では、1時間02分を過ぎたところで「New Birth / Never Can Say Goodbye」にエフェクトをかけて、カットインで「Opaze / Reminde Me」を選曲していることが確認できます。

 また、エフェクター以外のDJミックスを越えたことは、他にも確認できます。

 例えば、DJミックスの中で独自編集の声ネタをフレーズ的に入れてきたり、MUROさん自身が編集して作ったと思われる曲(?)を入れてきたり、いわゆる「2タンテ×1ミキサーではできないこと」も、第2弾の中で広く活用されています。
 これらのフレーズや曲を実際にどのように入れているかは分かりませんが、MUROさんは意識的に「2タンテ×1ミキサーを超えたDJ」を考えて、この作品を作られたと思います。

 まとめると、MUROさんが思い描いた「B-Boy Disco」は、こういった方法で作ることが最良であると考えたから、前述したレコード係の導入だったり、エフェクターの利用、フレーズ使いがあったのだと思います。



(4)作品紹介の前に

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 第1弾と比べて変化した点を中心に書きましたが、結構ヘビーな紹介になってしまいました・・・すみません。

 これから先は、Lesson 5からLesson 8を4つに分けて紹介します。

 その中で、「選曲」に関する部分は、実際の選曲順に、私の知識の範囲で詳しく紹介したいと思います。
 なお、今回も私が持っているレコードを中心に紹介するので、所持していないレコードの曲は詳しく紹介できないことをご容赦ください。

 また、DJミックスの素晴らしい部分も沢山ありますので、詳しく紹介していきます。
 特に、第1弾で指摘していた「さりげないBPM操作」「大胆なピッチアップ」「カットイン&ショートミックスの効果的な使い方」等のDJミックスの技は、この第2弾でも大変光っており、この点もできる限り紹介していきます。

 そして、ミックス作品だからこそ生まれる化学変化と言うのでしょうか、選曲の組み合わせと最高のDJミックスによって、この作品では「プレイした曲が光り輝き、誰もが踊りだしてしまうグルーブやストーリー」が生まれています。
 このことも、選曲の流れに沿って、MUROさんが求めるグルーブやストーリーの詳細を紹介したいと思います。

 自分で書いていて意味不明な部分もありますが、以下の本編もどうぞお読みください!





3.Lesson 5

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【トラックリスト】
01 Queen / We Will Rock You (Ruined By Rick Rubin)
02 DJ MURO / Super Disco Breaks 5-8 Theme (※1)
03 Afro Cuban Band / Something's Gotta Give
04 Omega Force / You Can Make It
05 Lee Austin / Tutti Frutti
06 Banbarra / Shack Up
07 Stretch / Why Did You Do It
08 Shinehead / Chain Gang (Rap)
09 TD Records (Mr.K) / Feelin' James
10 Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey
11 TD Records (Mr.K) / Feelin' James
12 Chill Rob G / Let Me Show You (Ultamix Vocal Remix)
13 Claudja Barry / Dance, Dance, Dance
14 Disco Twins & Starchild / Do That Right
15 The Real Roxanne with Hitman Howie Tee / Bang Zoom ! (Let's Go-Go)
16 Roxanne Shante / Have A Nice Day
17 Diana Brown & The Brothers / Hot Pants
18 Kid Capri / Joke's On You Jack (Remix Inst)  (※2)
19 Just The Two Of Us / Most Valuable Poet (M.V.P)
20 Cold Cut / Say Kids What Time Is It ?
21 Big John Hamilton / Big Bad John
22 Blowfly / Sesame Street
23 The Marvelous Three & The Younger Generation / Rappin All Over
24 Fresh Band / Come Back Lover

(※1)この曲は、「Tears For Fears / Head Over Heels」と「Biz Markie / Make The Music With Your Mouth, Biz (Dub Version)」を使ったMUROさんのオリジナル曲をプレイしていると思われます。そのため、DJ MUROのオリジナル曲として掲載します。詳しくは本文をご参照ください。
(※2)このRemixのインストはプロモのみに収録と思われますが、1か2のどちらかを使用しているかは調査不足で分かりませんでした。



【1曲目~2曲目】

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 では、Lesson 5から紹介しますね。
 Lesson 5は、全体的にブレイク感が前に出た選曲になり、ファンキーなB-Boy Discoが弾ける内容になっております。

 まず、1曲目はQueenのレア・リミックスからゆっくりと始まりますが、個人的には2曲目がボムでした!

 この2曲目、一般的には「Biz Markie / Make The Music With Your Mouth, Biz」と認識されており、この作品が発表された時に出回ったとされるトラックリストを見ると、確かにBizのこの曲が書いています・・・

 ただ、この2曲目をよく聴くとBizの曲と言い切れない部分があります。
 そのため、今回の記事の作成のために色々と調べた結果、もっと深い曲であることが分かりました。

 まず、この2曲目の出だしは80年代のヒット曲である「Tears For Fears / Head Over Heels」のピアノリフから始まり、「♪Super, Disco, Breaks, Hey ! Five, Six, Seven, Eight・・・」とのボイスフレーズの繰り返しがあり、その後にBizの同曲の後半でTJ Swanが歌っている部分になります。
 ただ、このTJ Swanの部分は、写真の12inchには収録されていないものになり、調査した限りだとYou Tubeにはアップされている「Dub Version」が近い音源で、実際に何を使用しているのかは分かりませんでした。

 これらを整理すると、この2曲目は「MUROさんが独自に作った曲」になると判断し、上記のトラックリストでは「02 DJ MURO / Super Disco Breaks 5-8 Theme」と勝手に設定しました。
 前述した「2.この作品の背景」で紹介したように、この第2段では純粋な2タンテ×1ミキサーを超えたDJを行っている部分が多いことから、こういったオリジナルの曲を用意することは十分に理解できます。

 ただ、どういった意図で、この曲を入れたのかは、MUROさんにお伺いしないと分からないです・・・

 恐らく、第2弾の最初の最初なので、「♪Super, Disco, Breaks, Hey ! Five, Six, Seven, Eight・・・」と、これからこの作品が始まることを印象付けるために、こういった曲を入れたのでしょう・・・

 それにしても、BizのDub Versionは謎ですね・・・本当にこの音源を利用しているかどうかまでは分からなかったので、詳しい情報をお持ちの方がおられましたら、ぜひ、ご指摘ください!


【3曲目~7曲目】

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 2曲目のテーマ曲が終わり、3曲目「Afro Cuban Band / Something's Gotta Give」からLesson 5が実質的に始まります。
 3曲目はDiscoラインの曲ではあるものの、ファンキーなブレイクが前に出た曲で、段々と首を振ってしまいます・・・さりげなく、1998年リリースのKid Capriのサンプルネタなのにもグッときますね!

 そして、3曲目のBPM96程度の速さから、4曲目、5曲目、6曲目と徐々にBPMを100ぐらいまでに上げていき、絶妙なタイミングで7曲目「Stretch / Why Did You Do It」にカットインします。

 まず、この辺りの選曲で上手いなぁと思うのは、6曲目の「Banbarra / Shack Up」のようにブレイクが強い曲を上手く挟んでいくことで、聴いている側を気付かないうちビートに乗せていることです。
 その上で、聴いている側が気付かないようにBPMを上げているのが上手いです・・・MUROさんはこういったグルーブの乗せ方、聴いている人に気付かせないBPMアップがほんと秀逸ですね!

 そして、7曲目は、6曲目のブレイクを活用しながら、7曲目のイントロの太いベースラインを活用したカッコいい入り方だ・・・
 さらに、出だしの曲に入るところの歌い方(♪I’ve been thinking about what you have done to me~)だったり、中盤のフォーンフレーズだったり、B-Boyの胸に熱いものを呼び起こす、素晴らしい選曲になっています。

 ただ、7曲目の「Stretch / Why Did You Do It」は、原曲は70年代のイギリスのロックの曲でもっとブルージーな歌い方です・・・
 一方で、MUROさんのミックスを聞くと、ブレイクが前に出て、ボーカルもファンキーな歌い方に変わり、躍動感にある曲になっています・・・

 はい、ここでMUROマジックが発動しています!

 この曲では、MUROさんの伝家の宝刀の一つである「ピッチアップ」を施していて、なんとピッチ+8.0でのプレイでした!

 そのため、全体的にファンキーな色合いが強い曲に変わっていたのですね・・・また、心なしかベースラインも分厚くなっていて、EQ調整も行っている可能性もあります。
 
 なお、3曲目のAfro Cuban Bandもピッチ+4.8です・・・というか、この第2弾では、強烈なピッチアップが多く、それが「B-Boy Disco」を上手に演出しています!

 もはや、強烈なピッチアップがこの第2弾の裏テーマと言っても過言ではないぐらい、ピッチアップを多用しています・・・
 ただ、どのピッチアップも的確で、プレイした曲の躍動感がさらに輝く、素晴らしいアレンジとなっています!


【8曲目~10曲目】

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 そして、8曲目では有名レゲエDeeJayのReggae meets Hip Hopな曲を挟み、10曲目ではMUROさんクラシックの「Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey」を選曲します!

 まず、ここで上手いなぁと思うのは「クイックミックス」を活用していることで、選曲した曲のブレイク感をさらに輝かしています!

 例えば、9曲目では、Danny Krivitが制作したCut Upの名曲「TD Records (Mr.K) / Feelin' James」の中で出てくる「♪One, Two」というボイスフレーズが光ったブレイクを4小節だけ挟み、ボイスフレーズがアカペラで「♪One, Two, Three, Four」と入ったところで10曲目「Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey」のイントロをカットインします。
 その後、10曲目のビートレスな部分で、子供のクセになるボイスフレーズで首を振りながら、ドラムネタの「Funkadelic / You'll Like It Too」のブレイクが始まり、もー、大爆発です!

 この構成はホント上手いですね!

 なんでしょう、ちょっと暗かったクラブのフロアーが、一瞬だけ真っ暗になったけど、10曲目のYou'll Like It Tooのブレイクが鳴った瞬間、フロアーがまばゆい光に囲まれて、皆で「わー」となっている感じがします・・・
 こういった効果を演出するため、9曲目でブレイクを4小節だけ挟み、10曲目を光らせていたのですね。

 そして、当時は殆ど知られていなかったドマイナー曲「Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey」を、ここまで上手く光らせてくれたことも最高です!

 MUROさんって、自身が気に入った曲は、有名・無名を問わず、まるで自分の曲のようにパワープレイすることが多いですよね・・・

 それこそ、第1弾だと、Lesson 1の「Kev-E-Kev & AK-B / Listen to The Man」がそうで、MUROさんのパワープレイを通して、聴いた人がやっとその曲の良さに気付きます。
 ただ、そのパワープレイの中では、MUROさんにしか出せない「マジック」が施されており、これが非常に大きいです。

 それこそ、この10曲目もピッチ+2.2のピッチアップをしていて、この曲が最も光る方法で聴かせてくれます・・・これはほんと、MUROさんの「マジック」としか言いようがないです!

 そして、MUROさんがプレイする10曲目を聴いて、多くの人が「Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey」を探しましたよね・・・

 2000年代前半はこの曲は幻級の1枚で、値段も結構しましたね・・・
 粗悪なブートで我慢していた人もいたでしょう・・・そして、頑張ってオリジナルを探してゲットした人もいたでしょう・・・

 この話、実は私のことで、だいぶ後になり、この曲のオリジナルを手に入れることができました。
 オリジナルを発見した時の感動といったら・・・これはMUROさんの背中を追っている者でないと分からないことかも知れませんが、最高の一言です!


【11曲目~12曲目】

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 そして、10曲目のドラムネタを繋げる形で、11曲目として「TD Records (Mr.K) / Feelin' James」の中で「Funkadelic / You'll Like It Too」を使用した部分を上手く選曲します。

 まず、11曲目もクイックミックスのために選曲されており、You'll Like It Tooのブレイクの中で「♪One, Two・・・」とアカペラでカウントする部分を上手く使い、そのタイミングで次の12曲目「Chill Rob G / Let Me Show You」にクイックで繋いでいきます。
 それも、実際に11曲目でプレイしたのは1小節だけで、恐らくレコード係と連携しながらクイックミックスを行ったのでしょう・・・このサクサクとした展開は非常に気持ちいいです!
 
 ただ、ここで指摘したいのは、ある曲の「一部」を上手く切り取り、選曲の流れの中で効果的に活用している点になります!

 11曲目の「TD Records (Mr.K) / Feelin' James」はCut Upの曲なので、様々なブレイク、様々なネタが飛び出す曲になり、指摘したYou'll Like It Tooのブレイクが出る部分は曲の中盤の2分30秒前後の所で登場します。
 さらに、「♪One, Two・・・」とアカペラでカウントする部分も、You'll Like It Tooのブレイクの途中で登場します・・・そのため、意図的に「この部分を使う」と考えていない限り、この1小節は選曲しないでしょう。

 つまり、次の曲への繋ぎをスムースにするために、この部分がパーツとして最適と考え、僅か1小節だけ選曲したのでしょう。

 こういった「ある曲の一部を上手く切り取り、選曲の流れの中で効果的に活用する術」は、他の部分でも上手く活用しており、この作品の魅力の一つとなっています!

 なお、このFeelin' Jamesのような一部だけ切り取っている曲は、前述したトラックリストでは割愛されています。あまりにも細かい選曲になるので、トラックリストに記載しなかったのだと思います。


【13曲目~16曲目】

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 そして、12曲目のChill Rob Gの元ネタ曲である13曲目「Claudja Barry / Dance, Dance, Dance」を絶妙なタイミングでカットインします。
 この頃にはBPMが106位までに上がっており、13曲目のファンキーだけど踊りやすいグルーブに乗せられ、気づいたら踊ってしまいます。

 この11曲目の辺りになると、段々とHip Hop的なグルーブからDisco的なグルーブに変更していきます・・・

 その中で、Hip HopとDiscoの橋渡しを、MUROさんは「ネタ繋ぎ」で違和感なく繋いでいきます。

 ネタ繋ぎ・・・このことも、この作品の大きな魅力の一つになるでしょう。

 この作品では、この12曲目~13曲目のようなネタ曲繋ぎ、さらにはカバー曲繋ぎや同アーティスト繋ぎ等、いわゆる関連曲を繋いでいく選曲を多用していて、MUROさんの選曲力の高さが伺えます。
 ただ、その多くは、MUROさんにしか編み出せない「高度なネタ繋ぎ」が炸裂していて、大変素晴らしいです。

 例えば、その後の15曲目では「The Real Roxanne with Hitman Howie Tee / Bang Zoom! (Let's Go-Go)」を選曲し、その次の16曲目は「Roxanne Shante / Have A Nice Day」を選曲・・・名前を見れば一目瞭然で、ここは「Roxanne」で繋いでいます。

 この繋ぎについては、言わずとしれた「Roxanne Wars」を意識した繋ぎになりますが、MUROさんが凄いのは、15曲目のプレイする場所等を工夫することで「ネタ繋ぎに聴こえないネタ繋ぎ」を行っていることです。

 実は15曲目は、The Real Roxanneが中盤で歌っている部分のみを上手く切り取るような形で選曲しています。
 この曲はイントロのフレーズが声ネタとして有名で、一般的にもラップ曲として有名ですが、ここだけ切り取ると80年代らしいR&Bの曲になりますね。

 さらに上手いのが、その歌の部分に躍動感を足すために、なんとピッチ+8.0でプレイしています・・・このようなアレンジを施すことで、15曲目が全く別の曲になります!

 このような関連曲繋ぎをしつつ、選曲する場所やDJミックスの工夫を重ねることで、全く別のカッコいい曲に仕上げています!

 なかなか説明が難しいですが、単純なネタ繋ぎの域を超えたネタ繋ぎが、この第2弾では炸裂していますよ!


【17曲目~22曲目】

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 そして、17曲目「Diana Brown & The Brothers / Hot Pant」を選曲し、以降はファンキーなグルーブを高め、BPMを段々とアップしていきます。

 この辺は、手持ちのレコードが無いため説明を割愛しますが、後のSupe Funk Breaksに繋がるようなHip Hop meets Funk的な選曲とDJミックスをしていて、大変上手いですね。
 
 例えば、20曲目で「Cold Cut / Say Kids What Time Is It ?」で、James Brownの声ネタ等がコラージュされているブレイクを1小節だけ入れて、すぐに21曲目「Big John Hamilton / Big Bad John」を選曲し、イントロブレイクで熱い2枚使い・・・
 21曲目は、言わずとしれたBig Daddy Kaneの「Warm It Up, Kane」ネタのFunk45で、B-Boyならこの2枚使いにグッときますよね!

 11曲目の「TD Records (Mr.K) / Feelin' James」と同じように、Cut Up系の曲の中で勢いがある部分を上手く利用することで、次の曲のファンキーさを加速させていて、本当に上手いですね・・・
 
 うーん、それにしても、この辺の選曲のレコードも、ちゃんと買っておけば良かったなぁ~


【23曲目~24曲目】

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 そして、ファンキーな流れを引き継ぎ、レアOld Schoolな23曲目「The Marvelous Three & The Younger Generation / Rappin All Over」に繋ぐことで、この曲のスペーシーなグルーブを前に出し、Lesson 5の最後の曲として24曲目「Fresh Band / Come Back Lover」を選曲し、Lesson 5は気持ちよいエンディングに向かいます。

 特に、Fresh Bandが持つ「80年代のNew YorkらしいGarage感」というのでしょうか、DiscoとHouseの間の時期にあった特別なグルーブが気持ちいいですね・・・MUROさんはピッチ+4.0でこの曲をプレイすることで、躍動感を前に出したアレンジを施しています。

 うん、この選曲は絶妙だ・・・

 まず、これまでHip Hop~Funk的な選曲を中心に進め、Disco的な流れが少なかった中で、上手い具合にこの曲を選曲して、Disco的な煌びやかなグルーブを前に出し、綺麗に終わらしていくのが上手いです。

 このLesson 5の全体を見ると、このまま終わらすと「B-Boy Disco」における「B-Boy」ばかりが際立ってしまい、「Disco」という部分が前に出なかったと思います・・・

 ただ、この曲を入れることで「Disco」という部分は当然輝きますが、この曲の持つ「永遠と続くような気持ちいいグルーブ」を生かすために、最後の最後に選曲してくるのが一番上手いと思いました。

 きっと、MUROさん自身、この曲が相当好きだから、最後の最後で綺麗に選曲したのでしょう・・・

 なお、偶然なのか、この記事を書いている途中の2023年1月に、なんとMUROさんはこの曲のRe-Editをリリースされました。
 20年経っても好きな曲だったなんて・・・素敵な話ですね!





4.Lesson 6

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【トラックリスト】
01 Audio Two / I Like Cherries
02 5 Star Moet / Let Me Love You
03 Mr. X & Mr. Z / Kick It Wicked
04 Kevie Kev (Waterbed Kev) / All Night Long (Waterbed)
05 Earth, Wind & Fire / On Your Face
06 The Electric Power Band / Sugar Daddy
07 Ultimate Ⅲ / I Want You Back
08 The Mafia / ABC
09 G-Force / ABC
10 Hi Skool Prods. (McCray & Mazda) / Where Is He DJ ? (※3)
11 Owen Gray / Groove Me
12 Baba Yaga / Too Cool To Be True
13 Double Dee & Steinski / Lesson 3 (History Of Hip Hop Mix)
14 Tongue 'N' Cheek / Encore
15 Gary Criss / Amazon Queen
16 Erasmo Carlos / Se Voce Pensa
17 Mickey Mouse Disco / It's A Small World
18 McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now
19 Unlimited Touch / I Hear Music In The Streets
20 McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now
21 Instant Funk / I Got My Mind Made Up
22 McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now
23 Al Hudson & The Soul Partners / You Can Do It
24 Kool & The Gang / Ladies Night ('83 Remix) (※4)
25 Forrest / Rock The Boat
26 Shirley Bassey / Copacabana

(※3)第2弾の発売時に配布されたトラックリストを調べる限りだと、「Hi Skool Breaks Vol. 1」というLPに収録された曲と思われます。そのため、アーティスト名はセンターレーベルに書かれたアーティスト名を記載します。
(※4)このRemixは、1983年にUKのPromoのみでリリースされた12inchに収録されていて、1979年にリリースされたオリジナル曲と比べるとイントロにブレイクが入る等、少しだけ長尺になっているバージョンのようです。


【1曲目~5曲目】

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 続きまして、Lesson 6の紹介です。

 こちらは、まさに「Super Disco Breaks」といった感じの選曲とDJミックスが爆発しており、MUROさんが表現したい「B-Boy Disco」がストレートに表現されています!

 まず、1曲目はBPM98ぐらいのHip Hopからスタートし、3曲目のブレイクレスな部分を狙って4曲目「Kevie Kev (Waterbed Kev) / All Night Long (Waterbed)」をカットイン!

 Lesson 5の最後のFresh Bandと同じというか、3曲目のスペーシーなグルーブを引き継ぎつつ、急に華やかな展開に持っていく選曲が大変上手いですね。
 それも、4曲目はピッチ+1.9にピッチアップすることで華やかさをさらに前に出しており、つい、そのグルーブに乗せられて歌ってしまいます。

 ただ、ピッチアップについては、次の曲の方がボムでした・・

 4曲目のサビ終わりの「♪Watashi-Wa Tokio Suki (わたしは~、東京、好き~)」の部分が終わったところで、5曲目「Earth, Wind & Fire / On Your Face」をカットインしてきます・・・一瞬にして、フロアーが明るくなり、皆が笑顔になって歌い出します!
 
 あれ、Earthのこの曲って、こんなにアッパーな曲だったっけ・・・

 はい、ここでも伝家の宝刀であるピッチ+8.0のピッチアップを行っていました!

 Earthのピッチアップについては、曲自体のメロディーの美しさは崩さず、もっとグルーブの躍動感が前に出た感じになり、ドンピシャなピッチアップで最高です!

 ピッチアップは、過度にピッチを上げすぎると原曲の魅力を消してしまうため、DJにとっては勇気のいる手法かもしれません。

 ただ、MUROさんにおかれては、ピッチアップの的確さが驚異的で、自身の選曲をさらに盛り立てていますよね・・・

 この作品では、ほんと「ピッチアップのマジック」が大爆発していて、作品のテーマとも言える「B-Boy Disco」を素敵に盛り上げています。
 うん、こういった見た目に出ない「DJの技」こそ、もっと評価されるべきだと思います・・・

 なお、4曲目と5曲目は、実は「曲の方向性が全然違う曲」を選曲しており、どちらかと言うと正反対な曲なのに不思議と1本の流れにまとめています。

 なんでしょう、こういった正反対な選曲があることで、選曲の流れの中で印象が生まれ、何度聞いても忘れられない部分が生まれますよね・・・そういった意味でも上手い選曲だなぁと思いました。

 さらに、こういった正反対の曲を仕掛けることで、さりげなくBPMを上げていくための「きっかけ」を作っていた部分もありました・・・


【6曲目~9曲目】

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 このLesson 6の選曲の流れは、私としては「4曲目~5曲目でMUROさんのグルーブに乗せられ、その後はMUROさんのグルーブに乗り続けていく」感じのストーリーになっていると思っています。

 その意味では、この6曲目以降の「Jackson 5繋ぎ」も外せません!

 具体的にはJackson 5のカバー曲だったり、サンプリングした曲だったりを連続選曲していて、MUROさんらしい選曲の技が光っています。

 例えば、6曲目「The Electric Power Band / Sugar Daddy」と7曲目「Ultimate Ⅲ / I Want You Back」は、マイナーな曲ではありますが、クラブっぽさを上手く内包した曲で、クラブ世代には原曲よりも馴染みやすい選曲になっています。
 また、8曲目と9曲目はDJミックスの工夫もあり、8曲目でJackson 5の曲をサンプリングしたCut Up曲「The Mafia / ABC」を軽く挟んで、絶妙なタイミングでJackson 5のカバー曲である9曲目「G-Force / ABC」に繋いでいきます。

 これらの4曲、どちらかと言うとJackson 5のカバー曲やサンプリングした曲としてはマイナーな部類になりますが、MUROさんのDJミックスを施すことにより、大変躍動感のある曲に生まれ変わっています。
 それこそ、Jackson 5という誰でも知っている歌を利用し、Hip Hopの跳ねたグルーブを前に出した選曲によって、聴いてる者をさらにMUROさんのグルーブに乗せる効果があり、大変上手いです。

 また、こういった関連曲繋ぎは、選曲を聴いている途中で「あっ、Jackson 5繋ぎじゃん!」と気付いた場合、その後にまた関連曲繋ぎがあったら、聴いている側は盛り上がりますよね?

 そのため、関連曲繋ぎを2曲で終わらせず、実質的に3曲まで引っ張る選曲にしているのが上手いです・・・6曲目から7曲目でこのことに気付いて、8~9曲目もJackson 5だったら、聴いている側の反応は「はっ、またJackson 5じゃん!」となり、選曲に驚きを与えるでしょう。

 なお、写真を並べていて気付きましたが、7曲目と9曲目が「Sutra Records」からリリースされた曲なので、さり気なくレーベル繋ぎの要素も入れてたことも渋いです!

 一方で、こういった関連曲繋ぎの背景では、徐々にBPMを上げていて、気付かないうちにBPMは105ぐらいまで上がっていました・・・
 徐々にピーク向けてジェットコースターを空へ進ませていきます・・・


【10曲目~13曲目】

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 そして、11曲目でKing Floydのレゲエカバー「Owen Gray / Groove Me」を挟み、このLesson 6の一つ目のピークタイムを迎えます。

 それは、12曲目「Baba Yaga / Too Cool To Be True」です・・・

 個人的にはイントロのブレイクだけで大爆発です!

 まず、12曲目に至る「選曲の流れ」が上手いですよね・・・

 それは、一つ前で紹介したJackson 5メドレーでBPMを上げつつも、10曲目~11曲目であえてグルーブを落とし、12曲目が上手く盛り上がる展開にするため、選曲を工夫しています。いわゆる「選曲の山と谷」を演出した曲の並べ方です。

 そして、11曲目の絶妙なタイミングで12曲目をカットインするのですが、12曲目の冒頭のファンキーなブレイクが最強で、これで全てを奪われます!

 それも、この曲ですよ・・・いやいや、こういったMUROさんの選曲を聴いて「Rare Grooveって凄いな!」と思いました!

 この曲は、1978年にアメリカの西海岸で結成された女性6人組のJazz~Rockのバンドで、Rare Grooveシーンでは90年代より珍重されていた曲になります。
 ただ、Hip Hopのシーンではあまり知られていなかった曲で、MUROさんのプレイにより、この曲だったり、こういったRare Grooveの破壊力を知った方が多いかと思います。
 
 Rare Grooveの破壊力・・・

 なんでしょう、私としては「プレイするDJがプレイする曲の良さを理解し、選曲やDJミックスを工夫することで、その良さが爆発するもの」と思っています・・・

 正直、この曲はアルバムに含まれた隠れた1曲で、そこまで目立たない曲になります。
 ただ、MUROさんは、さりげなく10曲目~11曲目でBPMを110ぐらいまで上げていて、この曲がボムれる素養を作っておき、イントロのブレイクから暴れる展開を作り、最高なピーク曲にしています。

 うん、こういったMUROさんの選曲やDJミックスのマジックがあるからこそ「Rare Grooveの破壊力」が最大限に活用されたのだと思います。

 なお、この後に違和感なく13曲目「Double Dee & Steinski / Lesson 3 (History Of Hip Hop Mix)」にスクラッチカットインするのにもグッときます!
 やっぱり、この曲がこの作品の源であることを分かってて、リスペクトを込めて選曲しているのでしょうか・・・MUROさんのこういった点も大好きです!


【14曲目~16曲目】

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 そして、14曲目でCheryl Lynnのグランドビート・カバー曲「Tongue 'N' Cheek / Encore」を挟み、15曲目「Gary Criss / Amazon Queen」を選曲します。

 Salsoulらしいゴージャスなストリングスが光り、ラテン~ブラジリアンなグルーブが光った名曲で、ピッチ+2.0にすることでさらに躍動感が増したアレンジを施しています。

 特に、この曲の辺りから「4つ打ち」を意識した選曲をしていて、キックの「ドン、ドン」というリズムが気持ちよく、段々とプレイする曲のグルーブに乗せられてしまいます。
 
 ただ、このまま気持ちいいグルーブを続けると思ったら、また次のピークタイムを迎えます・・・16曲目「Erasmo Carlos / Se Voce Pensa」です!

 この曲も12曲目「Baba Yaga / Too Cool To Be True」と同じ「Rare Grooveの破壊力」を感じる曲になっており、MUROさんの選曲とDJプレイの組み合わせにより、ファンキーさがより協調され、気づいたらこの曲に踊らされてしまいます。

 まず、15曲目からの繋ぎ方が上手く、15曲目のサビ終わりの間奏で、4つ打ちのキックが気持ちいい部分に16曲目のビートレスなメロディーをミックスし、絶妙なショートミックス・・・16曲目に入った時のギターフレーズの響き方が最高ですね!
 そして、前の曲から4つ打ちの流れ、つまりキックを意識した流れを作っていたので、聴く者はこの16曲目のキックにも簡単に乗れ、ポルトガル語の気持ちいい歌声に心が躍ります。

 いやいや、Lesson 5でもそうでしたが、FunkやRare Grooveといった曲を「B-Boy Disco」に昇華する手腕が最高ですね!

 正直、この16曲目もマイナーな曲ですが、ここまでカッコよくプレイされたら誰でも好きになるでしょう・・・
 
 この16曲目は、ジャンル的にはBrazil(ブラジル)の曲ではあるものの、15曲目のラテン~ブラジリアンなグルーブや、前述した4つ打ちの流れがあったので、この曲のポルトガル語の歌詞が分からなくても、この曲の持つ陽気なメロディーに心が踊らされます。

 また、細かい仕事も光っていて、BPMは120近くに上がっているものの、前後のBPMと合わせるために、あえてピッチ-1.9にしています・・・
 ピッチアップ+8.0が当たり前なこの作品の中で、こういったマイナス調整もしていることは、MUROさんが作りたいと思っている作品のイメージやストーリーがしっかりと考えられている証拠かもしれませんね。

 なお、これはアナログ盤でDJをしている方でないと分かりにくいことですが、この16曲目はレコードだとA面の6曲目にあり、レコードの中心部に近いため、DJミックスをするときに操作がしづらい位置に配置されています。
 LPの内側系の選曲だと、12曲目の「Baba Yaga / Too Cool To Be True」も割と内側で、こういった内側系のレコードをいとも簡単にDJミックスするところに、MUROさんのDJとしての技の高さを感じます。


【17曲目】

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 そして、このレコードの写真だけ見たら「はっ、なぜミッキーを!」と思いますよね・・・17曲目「Mickey Mouse Disco / It's A Small World」です!

 これもMUROさんを代表する1曲で、ここからピークタイムに向けて加速し始めます!

 まず、16曲目のサビの余韻がある部分にカットインで17曲目のイントロを入れてきます・・・
 そして、イントロのキックの音に導かれ、BPM117の気持ちいいグルーブに踊らされ、イントロが開けた後のディズニーを象徴する「It's A Small World」のメロディーが流れます・・・

 この時点で、多くの人はフロアーに向かい始め、手を挙げて踊り始めるでしょう・・・

 この曲はある意味で飛び道具ですが、現場を知っているからこそ「説得力がある選曲」で、ほんと上手い選曲だなぁと思います!

 まず、この曲自体は、ディズニーの名曲をディスコ化した1979年リリースの曲で、MUROさんがこの作品で選曲した以前は、恐らくDJシーンでは注目されなかった曲だと思います。

 しかし、MUROさんは、こういったマイナーな曲に適切な選曲とアレンジを施すことで、この曲を最高に輝かせています。

 まず、この直前までのラテン~ブラジリアンの流れ、そして4つ打ちの流れを引き継いだ形でこの曲を選曲していることで、この曲が違和感なく繋げている点が上手いです。
 また、これらの流れに合わせるため、ここでもピッチ+8.0にした上でプレイしており、最高に盛り上がれる状態にしている点も上手いです。

 そして、最も上手い点は「皆が知っている曲」を選曲したという点だと思います。

 これまでの選曲を見ると、Jackson 5メドレーはありましたが、殆どマイナーな曲ばかりで、曲を聴いて「皆が知っている曲」は無かったと思います。

 その中で、17曲目としてこの曲をプレイし、ブレイク後に鳴る「あのメロディー」を聞いたら、そこまで音楽に詳しくない方でも反応するでしょう・・・
 うん、きっと、フロアーにいる人は、皆が顔を見合わせつつも、心の底からこの曲のメロディーと歌に酔いしれるでしょう・・・

 この作品は、第1弾では「1998年当時のMUROさんの現場のプレイを凝縮した作品」と紹介しました。
 この第2弾も同じで、2000年当時のMUROさんの現場のプレイを凝縮したものになります。

 ただ、現場となるクラブとなると、音楽に詳しい人ばかりでなく、週末を楽しみたいという人も多いでしょう・・・

 その中で、DJは、クラブに遊びに来た「色々な人たちを盛り上げること」が求められます。

 MUROさんの素晴らしさの一つは、自分のカラーを出しつつも、こういった「誰でも盛り上げる曲」を選曲できることだと思います・・・この曲だけでも、その凄さが分かります!


【18曲目~23曲目】

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 17曲目のことをだいぶ熱弁しましたが、ここからがLesson 6の見せ場になります。

 実は17曲目は「これからのピークタイム」への入り口で、ここで紹介する18曲目から23曲目の「怒涛のクイックミックス」に呼び寄せるために、17曲目を客寄せパンダにしていました。

 まず、ここからの選曲はジェットコースターに乗っているようなスピーディーな動きがあり、大変素晴らしいです。

 17曲目「Mickey Mouse Disco / It's A Small World」は、盛り上がった1番のサビ終わりの部分で終わらせ、次の曲をカットインします・・・ここぞという時に出る伝家の宝刀「1番のみプレイ」です!

 そして、次の曲である18曲目「McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now」は、なんと中盤以降にある間奏部分、つまりビートレス気味なトラックに「♪No Stoppin'~」と繰り返す部分をプレイします。

 先に、この後にどのような選曲とDJミックスが行われるかを説明すると、この「18曲目の間奏」と「有名曲のブレイク」を交互にプレイするクイックミックスが披露されます!

 まず、選曲とプレイ時間を整理すると以下の内容になります。

 18 McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now 4小節
 19 Unlimited Touch / I Hear Music In The Streets 4小節
 20 McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now 4小節
 21 Instant Funk / I Got My Mind Made Up 4.5小節
 22 McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now 4小節
    ↓
 23 Al Hudson & The Soul Partners / You Can Do It そのままプレイ


 クイックミックスは19曲目から23曲目にかけて行われ、わずか1分程度の間で、上記の選曲が行われています。

 まず、ここで重要になるのが、18曲目の「McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now」という盛り上がり必死な曲なのに、間奏のブレイクのみを使っている点です。

 この間奏の部分は、House~GarageのDJだと、この部分を先にプレイしてから、イントロに戻すDJもいますね・・・ 
 ただ、MUROさんの使い方は大変独創的で、この作品のテーマの一つとなっている「誰も気付かない部分を、独自のアイデアで光らせる」ことに繋がります。

 また、この18曲目に挟んでいく19曲目、21曲目、23曲目は、キックが太いDisco的なブレイクが光った曲になります。
 これらの曲は、その曲のドラムロールを活用しなから、Hip Hopライクにメチャクチャ気持ちいいタイミングでカットインしていくのが痛快で、聴いていてMUROさんのグルーブに引きまれていきます。

 そして、この部分の選曲及びDJミックスは、レコード係が存在しないと難しいプレイになり、レコード係を巻き込んで、MUROさんの大きな体を揺らしながらのDJは、まさに「Hip Hop」で、クラブでこういったプレイを見ていたら、全ての観客の目を釘付けするでしょう。

 ここで、前述した17曲目の客寄せパンダの効果がさらに発揮します・・・

 つまり、17曲目でフロアーに人を呼び寄せ、18曲目からのこの流れで、観客をMUROさんの手中に収めることに成功しています。

 特に、フロアーに集まった観客をMUROさんのグルーブに乗せるために、ここでは「選曲のコントラスト」を上手く活用している点も見逃せません。

 まず、18曲目、20曲目、22曲目の「McFadden & Whitehead / Ain't No Stoppin' Us Now」はビートレスでキックの音が響かない曲に対して、19曲目、21曲目、23曲目はカットインした瞬間から太いキックが鳴り響く選曲になっています。
 つまり、「ビートレス」と「ドンドンと鳴る太い音」が交互に鳴る流れを作っており、クラブのスピーカーで聴いていたら、そのコントラストは際立ち、聴いている人を圧倒するでしょう!

 そのためか、キックの強い19曲目、21曲目、23曲目は、BPM118程度に合わせつつも、それぞれ豪快にピッチアップしていて、聴いている人を「キック」から逃がさないようにしています。

 さらに、この「キック」に着目した流れが、今後の選曲の流れに上手く繋げていっている点も重要です。

 実は、これ以降の選曲では、Disco~House的な4つ打ちを強調した選曲をしていて、ここで披露したような「太いキック」を前に出した選曲をしています。
 それこそ、B-Boyでも首を振ってしまう4つ打ちのキックというのでしょうか、まさに「B-Boy Disco」を象徴するようなグルーブを演出していきます。

 そのため、ここで「キック」に着目するような流れを作っておき、23曲目「Al Hudson & The Soul Partners / You Can Do It」に繋げています。

 23曲目は、パッと聴いたら少し地味な曲ですが、この流れでこの曲を聴くと、キックの気持ちいい4つ打ちのグルーブに乗せられ、大変気持ちいい曲に生まれ変わっています。
 もちろん、この気持ち良さを生むために、23曲目はピッチ+7.0のピッチアップをしており、女性ボーカルの声がよりファンキーでソウルフルになっているのも素晴らしく、気づいたら段々と歌のグルーブに乗せられてしまいます。


【24曲目】

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 ただ、この23曲目で乗せられたグルーブは、あくまでも「ジェットコースターが空に向かって登っている」ための通過点でした・・・

 そして、23曲目のサビ終わりの絶妙なところで、聞き覚えのあるメロディーが流れます・・・このLesson 6の最大のピークタイムの幕開けです!

 24曲目「Kool & The Gang / Ladies Night ('83 Remix)」です!

 まず、先に指摘したいのが、ここではイントロが長い後発Remixを選曲することで、曲が躍動する部分まで「間(ま)」を作っていることです。
 
 「間」があることで、ジェットコースターにおける「一番空に近い部分で、ゆっくりと浮遊している感じ」が生まれると言うのでしょうか、この「間」を入れることで、本編が始まっときの加速感が強調されます。

 そして、これまでの流れで「キックを強調した4つ打ち」を前に出していたことから、この曲のキックに乗せられ、この曲の素敵なメロディーに心を奪われるでしょう・・・

 それも、それも・・・クールのLadies Nightですよ!

 Lesson 6は、前半~中盤ではマイナーな曲を中心に選曲していましたが、ここでまさかのド定番な選曲とは・・・

 もー、流石、MUROさんです!

 色々なMURO作品で紹介していることですが、MUROさんは「定番曲の輝かせ方」がメチャクチャ上手いですよね・・・

 例えば、この曲であれば、前述したキックの流れを作ったことや、あまり知られていないRemixを使っていること、さらには、曲の躍動感を増すためにピッチ+8.0でプレイしていること等、聴いている側に気付かれないように細工をした上で、この曲をプレイしています。

 その結果、BPM122のこの曲で、B-Boy達が笑いながら踊っています・・・

 このLesson 6は、きっと選曲とDJミックスを重ね、この曲で「決める」ためのストーリーを描いていたのでしょう・・・う~ん、最高です!

 なお、写真のレコは1979年にリリースされたオリジナルの12inchで、実際にプレイしたのは1983年にUKのプロモのみでリリースされた長尺Remixになります・・・この事実に気付き、MUROさんの掘りの深さにヤラれました・・・
 なお、これ系の話だと、Lesson 8で選曲する同じクールのJungle Boogieは、こちらも後発Remix(Wicked Mix!)を使っており、さらに撃沈しました・・・


【25曲目~26曲目】

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 そして、24曲目の4つ打ちのグルーブを引き継ぎ、25曲目「Forrest / Rock The Boat」に繋いで少しだけ谷を作り、最後はダメ押しで26曲目「Shirley Bassey / Copacabana」に繋ぎ、素晴らしいオーラスを迎えます!

 ここでも豪快なピッチアップを行いつつ、ラテン~カリビアンな陽気なグルーブを前に出し、大変気持ちいい展開に進んでいます。
 
 特に、26曲目「Shirley Bassey / Copacabana」は、MUROさんからこの曲の良さを教わった方が多いのではないでしょうか?

 B-Boyにも響く4つ打ち、つまり「B-Boy Disco」のグルーブを前に出した選曲で、原曲より歌やメロディーがさらにファンキーになり、この曲の躍動感がさらに倍増されています。
 ここでは、MUROさんのピッチ+3.8のプレイをしており、今となっては原曲からこのぐらいピッチアップしないと、この曲が好きになれない自分がいます・・・これはMUROさんの功罪です!


 最後に、このLesson 6のことをまとめると、この作品のテーマとも言える「B-Boy Disco」が一番分かりやすく表現された内容だと思います。

 それは選曲面であれば、選曲自体の深さや使い方は真似できないものだし、その選ばれた曲をBPM操作やクイックミックスを駆使して、その良さをさらに倍増させています。
 さらに選曲を折り重ねていくことで、聴いている者を誰でも躍らせるストーリーを作り・・・結果的に最高の「盛り上がり」を演出しています。

 ああ、こういったMUROさんのDJを現場でまた聞きたいなぁ・・・そんなことを思わせてくれる素晴らしい選曲とDJミックスでした!





5.Lesson 7

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【トラックリスト】
01 Take 6 / Spread Love [Blend Mix : The 45King / Pete 90] (※5)
02 Take 6 / Spread Love (The 45king Remix) (※6)
03 The Alliance / Do It, Do It
04 Grand Master Caz & Chris Stein / Wild Style Theme Rap 2
05 Brooklyn Express / You Need A Change Of Mind
06 Sesso Matto / Sessomatto (Theme From "How Funny Can Sex Be?")
07 Pleasure Web / Music Man (Part 2)
08 Malcolm's Locks / Get Up Stand Up
09 4-Ever Fresh / Urban Sound Surgeon
10 Sweet Tee and Jazzy Joyce / It's My Beat [Blend Mix : Life-N-Def ‎/ Gangster Boogie (Inst)]
11 Helen Reddy / Hit The Road Jack
12 Tim "Love" Lee / Super Rappin' No.5
13 Spanish Fly and The Terrible Two / Spanglish
14 Vaughan Mason and Crew / Bounce, Rock, Skate, Roll (Wicked Mix - Remix By Edwin Bautista)(※7)
15 J.V.C.F.O.R.C.E. / Take It Away
16 Unknown / Unknown (※8)
17 Kings Of The Wild Frontier / Trans-Am
18 C+C Music Factory / Do You Wanna Get Funky ('99 Remix - Freestylers Fresh Mix Up!) (※9)
19 Prince / Raspberry Beret
20 Ramsey & Company / Love Call
21 John Gibbs & The U.S. Steel Orchestra / Trinidad
22 Risco Connections / I'm Caught Up

(※5)ブレンドしたインストの曲(The 45King / Pete 90)は、「The 45 King / Test Pressing」というビート集に収録された曲になります。
(※6)このRemixはBozo Meko Recordsよりリリースされた12inchに収録されたものを指し、このRemixがThe 45kingが作成したと言われていることから、トラックリストは「The 45king Remix」としました。
(※7)DJ向けエディットレーベル「Wicked Mix」から1994年にリリースされた「Classic Collection 9」に収録されたRemixになります。
(※8)残念ながら曲名が分からなかった曲になります。「Grandmaster Flash / The Adventures Of Grandmaster Flash On The Wheels Of Steel (Long Version)」の最後の方にある「♪Everybody Say Ho~」とMCが煽っている部分が、ApacheがトラックになったCut Up系の曲になります・・・ご存知の方はご一報ください!
(※9)おそらく「この12inch」に収録されたRemixと思われます。なお、このRemixは何種類か12inchがプレスされているようです。


【1曲目~2曲目】

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 さて、次はLesson 7です。

 Lesson 7は、BPM的にはそこまで上げない展開ではあるものの、選曲の幅が広いのが印象的で、最後の方でカリビアンな展開に進んでいくのが大変素敵です。
 
 では、最初の1~2曲目から紹介しますね・・・最初から飛ばされますよ!

 まず、Lesson 7の1曲目は、一般的にはBozo Meko Recordsからリリースされた「Take 6 / Spread Love (The 45king Remix)」と認識されていると思われます。
 
 しかし、これは正解のようで正解ではないです・・・

 このことは、背景を含めた説明が必要なので、以下で詳しく紹介します。

 まず、「Take 6 / Spread Love」という曲を説明すると、有名な男性ボーカルグループ「Take 6」が1987年にリリースしたファースト・アルバムに収録されたアカペラ曲になります。

 そして、このTake 6の「Spread Love」という曲は、当時のHip HopのDJ達からも人気で、DJ達はこの曲を「ブレンド」して、この曲をプレイしていたと言われています。

 「ブレンド」とは、DJミックスの手法の一つで、2台のターンテーブルを使い、片方でアカペラの曲をプレイし、もう片方でインストの曲をプレイし、それらをミキサーを通して混ぜ合わせると、あたかも「一つの曲」になるという手法になります。

 このブレンドは、Hip Hop系DJの中ではポピュラーな手法で、今回紹介しているSuper Disco Breaksシリーズでも、MUROさんによるブレンドが何曲か披露されています。
 ブレンドのことは、昨年の12月に公開した作品紹介の記事で詳しく書いたので、そちらをご参照ください。

 そして、Take 6の曲で「ブレンド」することが流行ったから、写真の「Take 6 / Spread Love (The 45king Remix)」が生まれたようです。

 こちらの曲は、Hip Hopの有名プロデューサーである「The 45King(ジ・フォーティーファイブ・キング)」が制作したとされる曲で、自身が作った太いビートにこの曲のサビである「♪Spread Love~、Ta、Ta、La~」というフレーズをループさせたものになります。そのため、Take 6のアカペラを活用したオリジナル曲ではあるのですが、一般的にはTake 6のRemixとして認知されていることが多いと思います。

 このRemixは、こういったことをする「DJのアイデア」がないと作れない曲で、今となっては「マッシュアップ(Mash Up)」と言った方が分かりやすいかも知れないですね。

 「マッシュアップ」のことも説明しておくと、ブレンドの発展形とも言えるもので、既存のインストや自身のトラックに既存のアカペラを被せ、Remixのような曲にすること、またはRemixした曲を指します。なお、多くの曲はアカペラを歌っている歌手や制作者に許諾を取っていないものになるので、DJの世界だけで流通している曲とも言えます。

 そのため、前述の「Take 6 / Spread Love (The 45king Remix)」は、1980年代末ぐらいに、Bozo Meko RecordsというNew Yorkのレーベルよりブートレッグとしてリリースされたものになります。

 ただ、このRemixは使い勝手の良さからオリジナルのアカペラの曲以上に使われるようになり、このBozo Meko Recordsのレコードも、ブートながらかなりの数がプレスされ、いまやDJの定番曲とも言われるものになりました。
 考えてみれば、ブレンドって結構手間がかかる手法なので、初めからHip Hopらしい太いビートが入ったマッシュアップの方がDJとして使いやすいでしょう・・・

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 そして、このような背景があったので、MUROさんはこれらの曲を、Lesson 7では次の方法でプレイします。

 ①「Take 6 / Spread Love」のアカペラをプレイする
 ②即座にスクラッチカットインでインストをプレイする (1曲目に対してブレンドを行う)
 ③サビのところでインストを切り、アカペラのみにする
 ④即座にThe 45king Remixをスクラッチでカットインし、2曲目としてプレイする
 

 もー、これは「The 45Kingへのリスペクト」があってのものだと思います!

 この流れを実際に聴いてみると、「Take 6 / Spread Love」の原曲とThe 45King Remixの両方を上手く融合させた構成になっています。そのため、普通に聴いていたら、最初に説明したように、この曲をThe 45King Remixと勘違いしてしまうでしょう。

 特に、①から②にかけては、The 45king Remixと同じようにアカペラから始め、絶妙なタイミングでインストをブレンドしてくるのが上手いです・・・それも、The 45kingのレアなインスト集に収録された曲でブレンドする点がMUROさんらしいですね!
 また、③から④にかけては、バックトラックのインストを上手く切ることで、サビを強調させ、そのサビが効果的にループしているThe 45King Remixに繋げることで、あたかも1曲のように聞こえる効果を生んでいます。

 これは、MUROさんにしか出せない「リスペクト」ですよ・・・

 考えてみれば、MUROさん自身、The 45Kingの曲が好きなことで有名で、2004年にはそのThe 45KingとコラボしたTシャツを作成し、そのオマケとして「45 King Blend Mania」というミックス作品を制作しています。

 このミックス作品は、タイトルの通りな内容で、The 45Kingがトラックを作ったラップ曲のアカペラに、The 45Kingが作った他のインストをMUROさんがDJミックスでブレンドした作品のになり、上記の①から②の考えをさらに推し進めたものになります・・・
 このミックス作品を聴き直して気づきましたが、①から②のブレンドが「45 King Blend Mania」の1曲目でも披露されており、きっと、このLesson 7で生み出したアイデアを発展させる形でこの作品が作られたのだと思います。

 この1~2曲目は僅か2分程度の部分になりますが、これほどまでに「Hip Hop愛」が埋め込まれていました!

 なお、このLesson 7の10曲目でもブレンドが披露されており、こちらも素晴らしいです・・・このことは後程紹介します!


【3曲目~8曲目】

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 そして、3曲目~4曲目でHip Hopを選曲し、4曲目「Grand Master Caz & Chris Stein / Wild Style Theme Rap 2」が持つNew Yorkのストリートの空気感を受け取り、5曲目でEddie Kendricksのカバー「Brooklyn Express / You Need A Change Of Mind」を選曲します。

 その後、5曲目で作ったストリートとフロアーが共存するような流れを受け、6曲目「Sesso Matto / Sessomatto (Theme From "How Funny Can Sex Be?")」を選曲し、BPM110程度の気持ちよさで、段々と聴いている者を躍らさせていきます。
 
 この6曲目は、1973年にイタリアで作られたコメディー映画(ポ●ノ映画?)である「Sessomatto」のサントラに収録されていた曲で、サントラのLPも有名ですが、1976年にDiscoのレーベル「West End」により12inchが発表されたことで有名になった曲ではないでしょうか?
 写真はその12inchで、DJ業界的には2001年にIdjut Boysがリエディットした12inchが発表されたことで知られた曲かと思います・・・ということは、Idjutの前に既にMUROさんは選曲していたのですね!

 こういった「誰も知らない曲をカッコよく選曲すること」はMUROさんの十八番(おはこ)で、Lesson 7の前半は、こういった方向性の選曲が目立ちます。

 例えば、7曲目では、デビュー直後のJurassic 5の名曲「Jayou」の元ネタであるFunk45「Pleasure Web / Music Man (Part 2)」を選曲したり、続く8曲目では、Bob MarleyのReggae/Funkカバーである「Malcolm's Locks / Get Up Stand Up」を選曲する等、深い選曲が続きます。
 この辺のFunk45系になってくると、私には知識がないため説明が難しいのですが、MUROさんが選曲したこれらの曲を聞いていたら、素直にカッコイイ曲として聴こえ、気づいたら首を振っている自分がいました・・・

 なお、7曲目の「Pleasure Web / Music Man (Part 2)」の前後では、次の曲に繋げる前に「ボイスフレーズ」を挟んでいる部分があります。

 具体的には、曲と曲を繋ぐ際、前の曲をフェードアウトした直後にボイスフレーズを挟み、スムースに次の曲をフェードインすることを行っています。
 6曲目~7曲目の間では、1980年代にアメリカで放送されていたコメディー「ALF」の主人公の声と思われるボイスフレーズ(♪ALF、What's Going On・・・)、7曲目~8曲目の間では、「Jimmy Spicer / Adventures Of Super Rhyme」の歌声等をMUROさんがコラージュして作ったと思うボイスフレーズ(♪Supaer Disco Breaks、Hey!)が挿入されています。
 
 なぜ、MUROさんが、この辺りでボイスフレーズを使っているのかは分かりませんが、もしかしたらBPMの差が大きいのがポイントかもしれません。
 それこそ、6曲目のBPMは110、7曲目は103、8曲目は107になり、曲のグルーブや流れは繋がっていますが、BPMは差があるため、こういったボイスフレーズを挟むことで上手く「繋ぎ」を作り、次の曲にスムースに繋いでいったのかもしれません。


【9曲目~11曲目】

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 そして、9曲目、10曲目とHip HopのMiddle Schoolの渋い曲を連続で選曲したと思ったら、11曲目でLesson 7の初めてのピークタイムを作ります。
 
 それは、11曲目「Helen Reddy / Hit The Road Jack」です!

 まず、この11曲目は、Ray Charlesによる1961年のヒット曲をアメリカの有名女性シンガーが1972年にファンキーにカバーした曲になります。
 ホーンセクションがとくかくカッコよく、さらにHelenさんの芯のある歌い方が最高で、拳を握りながら「♪No More~, No More~, No More~」と歌ってしまう感じが素晴らしいです!

 ただ、この曲は、この第2弾が発売された2000年頃は、恐らくレアじゃない曲だったと思います。

 この曲を歌っているHelen Reddyさん自体、アメリカのポップスのシンガーとも言え、ある意味で「メジャーで売れていた人」なので、この曲が収録されているLPは、2000年頃でもそんなには高くなかったと思います。
 私自身、このレコードを買ったのは近年でしたが、USプレスでも1000円以内で買えており、あながち間違ってはないかな?と思います。

 ただ、ここで重要なのが、MUROさんはレアじゃない「普通な曲」でもカッコよくプレイしていることです。

 まず、選曲の流れで面白いのは、9曲目~10曲目はHip Hopを選曲していることで、実は「谷」を上手く作っていました。

 選曲を遡ると8曲目「Malcolm's Locks / Get Up Stand Up」は、トランペット等のホーン隊が奏でるファンキーな音を前に出しています。
 つまり、ここで「ファンキーなホーン」を注目させておき、そこから9~10曲目でグルーブは持続しつつもあえて盛り上げず、ファンキーなホーンが炸裂する11曲目で爆発させる展開を仕込んでいました。

 また、Hip Hopから異ジャンルともいえる11曲目に繋ぎますが、そこにはHip Hopらしいアイデアが忍んでいました。

 実は、10曲目「Sweet Tee and Jazzy Joyce / It's My Beat」は「ブレンド」でプレイしていて、この「ブレンド」が功を奏した繋ぎを行っています。

 具体的には、10曲目のサビに入る直前(2小節前)でインストを切り、2小節をアカペラのラップにして、ラップが「♪・・・But I'm Sweet Tea and It's, My, Beat!」となった瞬間で、11曲目のファンキーなホーンが鳴り響く部分をカットインします・・・もー、これがカッコよすぎです!
 歌詞的にも「♪これが私のビートよ!」と独唱した後に、11曲目が高らかに始まる展開で、歌詞的にも繋がっているし、なによりも、11曲目の本編に入った時のグルーブの暴れ方が最高です!

 なお、この11曲は、実はピークタイムなのに前後の曲と比べると明らかにBPMが落ちています。これには、計測していてビックリしました。

 8曲目のBobのカバーはBPMが107で、その後、9曲目が100、10曲目が94、そして11曲目が95となり、実は11曲目をボムらせるために段々とBPMを落としていることが分かります。なお、11曲目自体のピッチは変更してなく、原曲に近いピッチでプレイしていました。

 つまり、これは11曲目が「選曲の流れだけでボムらせる」ことを実証した部分になります・・・ピッチ+8.0が常識(?)な第2弾にあって、この手法は逆にフレッシュです!


【12曲目~17曲目】

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 そして、11曲目でピークを作った後は、ブレイク感を前に出した選曲を重ね、徐々にダンサンブルな方向にシフトしていきます。

 11曲目~12曲目では「The Whole Darn Family / Seven Minutes Of Funk」をネタにした曲を繋ぎ、だんだんとB-Boy Discoな流れに進ませ、14曲目「Vaughan Mason and Crew / Bounce, Rock, Skate, Roll (Wicked Mix - Remix By Edwin Bautista)」をプレイします。

 この辺りで上手いなぁと思うのは、Old Schoolが本来的に持っている「B-Boy Disco」なグルーブを織り交ぜながら、段々とBPM110ぐらいの踊りやすい展開に進ませていることです。
 それこそ、14曲目が示すようなローラーディスコのイメージと言うのでしょうか、太陽の下でみんなが楽しむブロックパーティーのようなB-Boy Discoのグルーブが上手く表現されていて、つい首と腰の両方が動いてしまいます。

 その中で、メインとなる曲へ円滑に繋ぐために、接着剤的な意味を持たせた選曲を同時に行っており、グルーブをしっかりと持続させているのが大変上手いです。

 例えば、12曲目「Tim "Love" Lee / Super Rappin' No.5」は1999年にリリースされたCut Up系の曲で、「The Whole Darn Family / Seven Minutes Of Funk」をネタにした曲です。なお、正確にはこの曲をネタにしたOld Schoolの大名曲「Grandmaster Flash & The Furious Five / Superrappin'」をオマージュした曲になります。
 そして、同じ「The Whole Darn Family / Seven Minutes Of Funk」をネタ使っている13曲目「Spanish Fly and The Terrible Two / Spanglish」に繋ぐぎますが、12曲目を接着剤としてネタ繋ぎを入れたことで、選曲が大変スムースに繋がっています。
 なお、13曲目をSuppperrappin'を選曲するのではなく、同時期に、実は同じEnjoyレーベルからリリースされた同ネタ曲に繋ぐのが渋いですね!

 そして、14曲目の「Vaughan Mason and Crew / Bounce, Rock, Skate, Roll」も同じような繋ぎをしていてます。
 14曲目で実際にプレイしているレコードは、写真のオリジナルの12inchではなく、イントロのブレイクが工夫されているWicked MixのRemixを使っており、このRemixを使うことで、13曲目からの流れがしっかりと繋がります。
 さらに、次の15曲目「J.V.C.F.O.R.C.E. / Take It Away」は14曲目をネタにしたHip Hopの曲で、15曲目で声ネタとして活用されるフレーズ(♪Feel The Beat~)を接着剤にしてて、14曲目でこのフレーズが出た直後に15曲目に繋ぎ、15曲目に移ってもこのフレーズが上手く出るようにしていて、結果としてメロディーやグルーブが繋げています。

 こういった前後の曲を確実に繋げる選曲を行うことにより、ダンサンブルなグルーブを繋げていき、徐々にピークタイムにコマを進めていきます・・・

 それにしても、この辺は手持ちのレコードが少ないため、ちゃんと紹介できないのが悔しいです!


【18曲目~22曲目】

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 そして、18曲目では、レアなライブラリー「Alan Hawkshaw / Blarney's Stoned」をネタにした「C+C Music Factory / Do You Wanna Get Funky ('99 Remix)」を選曲し、Freestylersによるファンキーなマッシュアップでピークを作り、素敵なエンディングに向かいます・・・

 まず、19曲目でカウント声が入っている曲を1小節だけ入れてから、すぐにカットインで20曲目「Ramsey & Company / Love Call」を選曲します。
 1小節の部分は「Prince / Raspberry Beret」の冒頭のブレイクの部分で、まさかのPrince使い・・・ほんと、この第2弾では「ある曲の一部を上手く切り取り、選曲の流れの中で効果的に活用する術」が冴えわたっています!

 そして、20曲目の印象的なメロディーには、聴いていると心が奪われ、段々と我を忘れて踊ってしまいます・・・

 この20曲目は、今でもレアなModern Soulですよね・・・20曲目以降は、金額面でも、遭遇率でもレアな12inch~7inchを集中的に選曲していて、MUROさんの指の黒さが分かる選曲が続きます。
 ただ、それ以上に、何よりも「美しいメロディー」と「ダンサンブルなグルーブ」を前に出した選曲を行っていて、大変素晴らしいです。

 そして、21曲目では「John Gibbs & The U.S. Steel Orchestra / Trinidad」を選曲・・・Larry Levanも選曲したGarageクラシックですね!
 雰囲気が一気にカリビアンな空気、そして4つ打ちの気持ちよさがダイレクトに響き渡る名曲で、この曲の素敵なメロディーが聴いている者を優しく包み、つい拳を握りながら踊ってしまいます。

 そして、そして・・・オーラスの22曲目が、個人的には一番のピークでした!

 それは「Risco Connections / I'm Caught Up」です!

 まず、この曲は「Inner Life / I'm Caught Up (In a One Night Love Affair) 」のカバーになり、Garage~Discoのクラシック中のクラシックな曲のカバーになるかと思います。
 それも、70年代末にReggae風のDiscoカバーを発表していた「Risco Connections」がカバーした曲になり、Riscoの中ではトップレアな1枚かと思います。

 個人的には、Super Disco Breaksの第1弾で、このRiscoカバーを決めの1曲(Lesson 2:Risco Connections / Ain't No Stopping Us Now)に選曲していたり、 I'm Caught Upのレア・カバー曲(Lesson 3:Terri Gonzalez / Caught Up (In One Night Love Affairs))を選曲していたりしたので、Lesson 7でこの曲が選曲されたことは、ある種の運命を感じました。

 ただ、それ以上に、Risco Connectionsによってカリビアンに彩られた「I'm Caught Up」のメロディーが、ほんと気持ちいいですね・・・

 今回の再紹介では、作品の聴き込みを仕事の帰宅時に行うことが多かったのですが、夜道でこの曲を聴いていると、気づいたらこの曲のメロディーに優しく癒され、少しウルっとしている私がいました。

 なぜこうなったのかを考えると、やはり「ストーリーの作り方」に上手さがあったのだと思います。 

 それこそLesson 7は、BPM100~110程度のファンキーで適度に気持ちいい曲を積み重ねていき、だんだんとDJのグルーブに乗せていき、最後の最後で「最高に美しいメロディー」で聴いている者の心を奪い、大いに盛り上げる流れを作っています・・・
 う~ん、言葉に書き起こすとこのような説明になるのですが、ある意味で22曲目の「メロディー」を光らせるために、それまでの選曲を重ね合わせてきたのかもしれませんね・・・

 なお、最後に横道を反れる話ですが、21曲目の「John Gibbs & The U.S. Steel Orchestra / Trinidad」は、その後、MUROさんが2003年にプロデュースした曲(Boo / Boogie Drive 678.)でサンプリングされています。
 うん、きっとこの曲が好きだからサンプリングをしたのでしょう・・・それは、このLesson 7を聴いただけでも分かります!





6.Lesson 8

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【トラックリスト】
01 Rockaway 3 / It's Your Thing
02 The Disco Four / Country Rock And Rap
03 Super 3 / Philosophy Rappin' Spree
04 Marsha Hunt / (Oh, No! Not) The Beast Day
05 The Soul Toranodoes / Hot Pants Break Down
06 Lakim Shabazz / Sample The Dope Noise
07 DJ. Chuck Chillout & Kool Chip / I'm Large (Larger Than Life Instrumental)
08 Choco The New Harlem Sound / I Hope It Rains Coffee (Ojala Que Llueva Cafe)
09 Danser's Inferno / Sombre Guitar
10 Dave (Baby) Cortez / Happy Soul (※10)
11 Tom Jones / Venus
12 James Brown / Give It Up Or Turnit A Loose (Live) (※11)
13 The Brand New Heavies / Apparently Nothing (DJ Spinna "Rock" Mix) (※12)
14 Jungle Brothers / Sounds Of The Safari
15 Kool & The Gang / Jungle Boogie (Wicked Mix - Remix By Tinder Box Productions) (※13)
16 Mister Cee feat. Brucie B.& DJ Hollywood & Luvbug Starski / How Ya Like Us Now (※14)
17 Disco 3 / Human Beat Box
18 Funky 4 plus 1 / That's The Joint (Inst)
19 West Street Mob / Get Up And Dance
20 Netwerk / It's A Shame
21 The Charlie Calello Orchestra / Sing, Sing, Sing
22 Elbow Bones And The Racketeers / A Night In New York

(※10)恐らく、1975年にDisco Internationalよりリリースされた12inchバージョンでプレイしていると思われるため、このタイトルにしました。なお、オリジナルは「Dave Cortez with The Moon People / Happy Soul With A Hook」というタイトルになります。
(※11)恐らく1970年リリースのライブ盤「James Brown / Sex Machine」に収録された音源を使用したと思われます。
(※12)White Onlyでリリースされた曲で、Discogsを確認すると何種類かプレスがあるようです。なお、筆者の所有する盤の刻印を見る限りだと「このプレス」になります。今更ながら、日本企画のブートだったことを知りました・・・
(※13)DJ向けエディットレーベル「Wicked Mix」から1993年にリリースされた「Classic Collection 7」に収録されたRemixになります。
(※14)1998年にリリースされた「Flip Squad Allstars / The Flip Squad Allstar DJs」というアルバムに、メンバーのMister Cee名義で収録された曲です。



【1曲目~8曲目】

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 では、最後のLesson 8の紹介です。
 このLesson 8は、残念ながら手持ちのレコードが少ないので、説明が散慢な部分があります。

 まず、Lesson 8は、全体的にHip Hopを軸にしながら、様々なジャンルの曲を混ぜていき、最後の最後でSuper Disco Breaksらしい華やかな展開に向かう、素敵なストーリーが描かれています。

 序盤はレアなOld Schoolを連続で選曲しながら、4~5曲目で違和感なくFunk45に繋ぎ、その流れで6~7曲目はファンキーなMiddle Schoolに繋いでいきます。

 そして8曲目は「Choco The New Harlem Sound / I Hope It Rains Coffee (Ojala Que Llueva Cafe)」で、Lesson 5で選曲した「Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey」のB面の曲を選曲します!

 Bob JamesのMardi Gras等をループしたトラックに、ドミニカの有名ラテン歌手であるJuan Luis Guerra(フアン・ルイス・ゲラ)の名曲「Ojala Que Llueva Cafe」をマッシュアップした、ファンキーな曲です。
 序盤のファンキーな展開を引き継ぎ、段々とダンサンブルな方向に持っていくために必要な選曲ですね!

 それにしても、同じレコードのA面とB面から、ほんと「最高の曲」を探してきますね!

 それも「Choco The New Harlem Sound / My Little Donkey」の12inchからですよ!

 Lesson 5でも紹介した通り、日本ではMUROさんのプレイにより、この12inchのレコードが大変人気になりました。ただ、誰もがA面のMy Little Donkeyしか注目していなかったと思います。

 この12inchはNew YorkのHouse系プロデューサー「Jose Reynoso(ホセ・レイノーソ)」さんのソロユニットとして作られたもので、ファンキーなブレイクに、ラテン系の曲をマッシュアップしたものになります。
 実は、A面のMy Little Donkeyも、スペイン語圏の定番クリスマスソング(Mi Burrito Sabanero)をマッシュアップしたものになります・・・きっと、New Yorkのラテン層を意識して作ったパーティーレコードなのかもしれませんね。

 こういったドマイナーな曲、それも目立つ曲のさらに奥にある最高の1曲を探して、的確にプレイする術は、やっぱり凄いです!


【9曲目~10曲目】

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 そして、8曲目のブレイクが切れたところで出るボイスフレーズ(♪One, Two, Three, Four, This!)に合わせて、絶妙なタイミングで9曲目の激レアなラテン・ジャズ「Danser's Inferno / Sombre Guitar」をカットイン・・・ラテンのダンサンブルな雰囲気を盛り上げます!

 そして、そのラテン的な流れから、一気にピークへ進めていきます!

 まず、10曲目では、ラテン・ダンサーとして有名な「Dave (Baby) Cortez / Happy Soul」をプレイし、さらにラテンのグルーブを引き延ばします。

 残念ながら、オリジナルのレコードは入手できず、2007年にリリースした再発版(リエディット版)での紹介になりますが、誰でも盛り上がるラテンのグルーブが素敵で、つい踊ってしまいます。
 なお、この曲は2006年にDJ PremierがChristina Aguileraの曲(Ain't No Other Man)で大胆なネタ使いしたことで有名になりましたよね・・・MUROさんの選曲眼の高さというのか、誰かがネタにする前に見つけ出す術は素晴らしいです!

 そして、ここで注目したいのは、実は9曲目以降で一気にBPMを上げていることです。

 8曲目のChoco The New Harlem SoundはBPM110だったのに対し、9曲目のDanser's InfernoはBPM135、そして10曲目のDave (Baby) CortezはBPM125になります。
 
 特に凄いのが、この選曲の流れは、BPMに差があっても、聴いていて全然違和感がなく、むしろ「B-Boyでも踊れるグルーブ」に仕上がっている点です。

 それこそ、10曲目は原曲からピッチ-4.0でプレイし、BPMの速さはありながら、ボトムが太いトラックになっていて、B-Boyでも踊れるグルーブにアレンジしています。
 BPMを上げても、聴いている人を逃さないグルーブ作り・・・これも、MUROさんの技の一つですよね!


【11曲目】

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 そして、その流れを維持し、11曲目を武骨にスクラッチカットイン・・・

 まさかの「Tom Jones / Venus」です!

 まず、Tom Jones(トム・ジョーンズ)といえば、ポップスの大御所中の大御所で、日本でも人気な熱唱派シンガーですよね・・・アド街ック天国の曲(♪メキ、メキ、ラブ~)のお方と言えばお分かりでしょうか?

 そのTomさんの曲で、誰もが知っている大名曲「Venus」のカバーを、MUROさんはラテンの流れでプレイ・・・BPM130の速さについ踊ってしまいます!
 うん、誰でも知っている曲だし、Tomさんのファンキーなボーカルに誰しもが心を躍らせます・・・ほんと、選曲が上手いです!

 Lesson 7での「Helen Reddy / Hit The Road Jack」の選曲だったり、こういったド直球のポップスでも鬼カッコよく選曲する技は、MUROさんの十八番(おはこ)ですね!
 もちろん、そのままプレイするのではなく、ピッチ+5.0にして、原曲よりラテン~ファンク感を高めており、そういった裏での細かい技も働いているのですが、DJがあまり使わないポップスを、選曲の流れやDJミックスの工夫だけで「最高の曲」に仕上げています!


【12曲目~15曲目】

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 そして、ここからの流れもMUROさんらしくって大変好きです!

 まず、13曲目の選曲に驚いた方は多いのではないでしょうか?

 13曲目「The Brand New Heavies / Apparently Nothing (DJ Spinna "Rock" Mix)」は、その名の通り、「DJ Spinna / Rock」の上に「The Brand New Heavies / Apparently Nothing」のアカペラを被せた、いわゆる「マッシュアップ」の曲になります。

 「DJ Spinna / Rock」は1999年にリリースされたインスト曲で、誰しもが踊ってしまう大名曲です。当時、私も普通に12inchを買っていて、今でもその12inchを持っているぐらい、大変大好きな曲です。

 そして、その大名曲の上にThe Brand New Heaviesのアカペラをブレンドしたこの曲は、同じく1999年にUKでリリースされたとされるWhiteオンリーな謎の曲で、そのハマり具合といったら最強です!
 そのハマり具合は、「MUROさんがオンタイムでブレンドをしたのでは?」と思う程で、絶妙なタイミングで選曲してきます。

 まず、12曲目のJames Brownのアカペラで上手く選曲の谷を作り、そこからカットインで13曲目に進めることで、13曲目が最高に華開く展開を作っています。
 そして、13曲目は、曲自体が「Rock」がプレイされた少し後にThe Brand New Heaviesの歌が流れる構成になっているので、Rockを知っている人ほど、「ブレンドか!」と勘違いしてしまう展開が含れています。

 MUROさんは、13曲目の特性を踏まえ、このような選曲を行っていました。

 それにしても、この第2弾では「マッシュアップ」の曲を本当に上手く選曲していますね!

 私としては、Cut Upの曲が持つマジックを拡大させ、「誰しもが踊れるトラックに歌やラップを乗せた、ビックリ箱のような曲」がマッシュアップだと思っています・・・
 そう、DJの自由な発想の元に生まれた曲だと思っていて、それだからこのSuper Disco Breaksのテーマに合ったのかもしれません。

 そのため、このマッシュアップの曲がリリースされた直後にも関わらず、MUROさんのアンテナに引っかかり、この第2弾で選曲されたのだと思います・・・

 そして、この13曲目を挟んだことで、ラテン的な流れから、Hip Hopをベースにしたファンキーな流れに変えていき、気持ちよく躍らせてくれます。
 特に、14曲目のインスト曲「Jungle Brothers / Sounds Of The Safari」から15曲目「Kool & The Gang / Jungle Boogie」へ繋いでいく「Jungle繋ぎ」は、MUROさんらしい選曲ですね!


【16曲目~19曲目】

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 そして、16曲目「Mister Cee feat. Brucie B.& DJ Hollywood & Luvbug Starski / How Ya Like Us Now」でOld Schoolな流れにしてから、このLesson 8の「最大の見せ場」に向かいます。

 まず、17曲目「Disco 3 / Human Beat Box」を選曲し、選曲の谷を作っていきます。この曲は、ヒューマンビートボックスをバックトラックにしたラップ曲になり、16曲目と比べると、曲の華やかさが少しだけ後退します。

 ただ、17曲目のサビ前の「♪So Come On Beat Box, Play One For Me!」とラップしたところで急に「明るい光」が差し込みます!

 オールドスクール大名曲の18曲目「Funky 4 plus 1 / That's The Joint」がカットインされます!

 もー、コレだけでもワーとなってしまうのですが、MUROさんは18曲目はインストをプレイし、17曲目の「♪Play One For Me!」のフレーズをファンキーに擦っていきます!
 17曲目で谷を作っているだけあって、18曲目のメロディーとリズムの弾け方は半端なく、その上でMUROさんの味のあるスクラッチが華を添え、最高ですね・・・ 

 さらに凄いのが、18曲目の上でスクラッチを続けていき、18曲目のインストをミュートにして、一瞬だけ17曲目のスクラッチフレーズのみにした瞬間に、19曲目「West Street Mob / Get Up And Dance」をプレイする技です!

 これは、恐らく、前述したレコード係がいないと成立しない技で、レコード係が18曲目のレコードを一瞬で持ち上げて19曲目をセットしたか、または、3台目のタンテを用意してレコード係が切れ目なくプレイをしていると思われます・・・
 実際に、どのようにプレイしているかは分かりませんが、メロディーとグルーブの繋がり方が半端なく、最高に「ワー」となります!

 これは、ライブで見たら絶対に「ワー」となる瞬間ですよね!

 クラブでDJのプレイって、曲を積み重ねていくスタイルだと、そのDJを見ているお客さんにとってはあまり動きがないので、人によっては飽きてしまうことがあります。

 ただ、この一連の動きは、DJブースでのMUROさんの動きと、MUROさんの選曲のグルーブが連動し、気付いたらフロアーにいる全ての人をDJの手中に収めてしまうものだと思います。
 こういった部分を聴くと、ほんと、MUROさんが全国のクラブを回られて、その現場のお客さんを楽しませるために培ってきたルーティーンが、この作品に集約されていることが分かります!

 なお、「Funky 4 plus 1 / That's The Joint」を使った素晴らしいルーティーンと言えば、個人的には「Ulticut Ups!」のDJ Yu-KiさんとDJ Taharaさんのルーティーンが最強だと思っています。
 MUROさんのルーティーンがテープで披露されたのは2000年、そしてUlticutのルーティーンが披露されたテープが2001年にリリースされているので、もしかしたら両者の間で何らかの影響があったのかもしれませんね?


【20曲目~22曲目】

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 そして、19曲目以降はBPMを105前後に落とし、煌びやかなエンディングに向けてストーリーが進んでいきます。

 20曲目ではSpinnersの名曲のR&Bカバー「Netwerk / It's A Shame」を選曲し、少しセンチメンタルな方向性を出していきます。

 その流れを受けて、21曲目「The Charlie Calello Orchestra / Sing, Sing, Sing」を選曲し、華やかなグルーブも加えていきます。
 なお、19曲目から21曲目が、さりげなく「カバー曲」で連続選曲していることに、MUROさんの選曲の深さが伺えます。

 そして、21曲目の間奏のドラムブレイクを狙い、優しく22曲目のドラムをミックスし始め、優しく22曲目「Elbow Bones And The Racketeers / A Night In New York」が選曲されます・・・

 A Night In New York・・・ほんと素晴らしい曲ですよね・・・

 まず、22曲目はKid Creoleの覆面バンドになり、アメリカのBig Band時代の華やかなグルーブを1980年代の音楽で表現した楽曲で、世界的にもヒットした曲になります。

 曲自体は、煌びやかなNew Yorkの夜の街を連想し、華やかでありながら、どこか哀愁がある感じが素敵で、クラブのミラーボールの光に大変合う楽曲だと思います。

 メチャクチャ脱線する話ですが、昨年の夏に見たBSのテレビ番組で、女優の田中美奈子さんがデビュー直後、1980年代中頃のバブル真っ盛りの頃に、よく遊びに行っていた青山のディスコ「King & Queen」でこの曲がプレイされていて、この曲で踊るのが凄い好きだった、というお話をされていました・・・

 うん、この曲にはそういった魅力が含まれていて、「誰しもが笑顔で踊りたくなるグルーブ」が含まれています・・・

 MUROさんは、こういった曲の魅力を理解して、この曲が華開くように、Lesson 8のストーリーを作ったのでしょう・・・
 
 きっと、この曲になったら、少し暗いダンスフロアーの上で、綺麗なミラーボールの光に包まれながら、MUROさんのプレイを聴いていた人たちは、誰しもがニコニコして踊るでしょう・・・
 音楽に詳しい人、詳しくない人、若い人、年配の人、男性、女性・・・この曲を聴いた誰もがこの曲で一つになり、クラブでしか生まれない最高の一体感を生み出しているでしょう・・・

 MUROさんは、Lesson 8では、ラテンやファンクの要素で盛り上げながら、最後は誰しもが踊れる展開を目指したストーリーを設定しており、ほんと素敵です!
 
 




7.さいごに

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 今年のお正月から、空いている時間を利用して記事を書いていたら、作業に時間を要し、気づいたら半年近く経過していました・・・すみません・・・

 繰り返しにはなりますが、この「Super Disco Breaks Lesson 5-8」は、作品の方向性は第1弾と同じですが、選曲とDJミックスはさらに進化し、大変内容の濃い作品になっています。

 いやいや、2000年の時点で、ここまで内容の濃いミックステープを作れることは脅威的ですよ・・・
 うん、狂ってるよ・・・最大限の賛辞を込めて「狂ってるよ!」と言いたくなるほど、内容が濃いミックステープになっています。

 そのため、この第2段のことに深く触れていく中で、私は次の思いを抱くようになりました・・・

 それは、この「Super Disco Breaks Lesson 5-8」が「ミックステープ」という音楽/アートの最高峰の一つであることです!
 
 選曲、DJミックス、そしてこれらを重ねて作られるストーリー・・・この全てが重なり、この第2段が最高の「ミックステープ」になっているのだと思います。
 特に、この第2段では、MUROさんが目指す「掘り」と「DJ」を両立する作品作りが、結果的に「誰しもが楽しめる内容」に昇華している点が素晴らしいです。
 
 うーん、この第2段の素晴らしさの全てを紹介することはできませんでしたが、これを機会に、ミックステープの最高峰の一つを手に取って頂けると嬉しいです!


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 ではでは、今回はこれでおしまいです。

 次回はディスクガイドの記事になるのかな?
 こっちも書かないと、本を処分できないので、こっちも頑張らないと・・・

 では、次回をお楽しみに~





<Release Date>
Artists / Title : DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 5-8」
Genre : Hip Hop、Disco、Soul、Funk、Rare Groove、R&B・・・
Release : 2000年4月
Lebel : KODP/Savege No Number


Notice : トラックリストについて
muro_sdb_tl_003re.jpg

 この作品はトラックリストが付属していない作品となりますが、発売時に上記のようなトラックリストが一部のお店で配られていたり、販売店の店頭に掲示されていました。

 写真のリストは、当時、Mなレコード店にお勤めだった大先輩から譲っていただいたコピーで、元は4ページに分かれていたものを、私が独自に1ページに編集したものになります。

 そして、この公開したリストは、選曲した曲名に誤りがあったり、実際には選曲していたが記載されていない曲があったりしたため、この記事では、私が独自に作成したトラックリストに準じて作品紹介を行いました。

 なお、「Super Disco Breaks」のトラックリストは、私にとっては、その全容を明らかにすることが「MUROさんから与えられた修行」だと思っており、気づいたら修行は20年目を迎えようとしていまます・・・
 その修行の一端は、2010年に公開した下記の記事で紹介していますので、よろしかったらご一読ください。

 ・「Super Disco Breaks 1-4 & 5-8」トラックリスト公開






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HipHop,R&B,Soul,Funk,RareGroove,DanceClassics,Garage,Houseなど、私が気に入っているMixTape,MixCD,その他もろもろを紹介するブログです。

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