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HipHop,R&B,Soul,Funk,RareGroove,DanceClassics,Garage,House・・・など、私が気に入っているMixTape,MixCD,その他もろもろを紹介するブログです。
DJ MURO 「Diggin' Ice - summer of 96」(完全版)
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 約1年半ぐらいかかってしまいましたが、ついに「この作品」を再び紹介する時がきましたよ・・・

 日本のミックステープ界において、これほど重要で「誇れるミックステープ」はありません・・・

 うん、MUROさんへ、そして掘りと音楽を愛する皆様へお届けをする根性の紹介です!!





1 はじめに

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 今回は、傑作中の傑作ミックステープである「DJ MURO / Diggin' Ice 96」を紹介したいと思います。

 この作品は、このブログを始めた2008年において真っ先に紹介した作品(※1)で、私の中では「これを超えるミックステープはなし」としているぐらい、大好きな作品です・・・

 もう、有名も有名な作品だし、何よりも誰でも楽しめる作品だし、そしてMUROさんのセンスと掘りが光った好内容であることは皆さんもご存じですよね・・・
 うん、それこそ「説明不要」な作品で、くだらない説明をするよりも、とにかく聴いてもらえばその良さが分かるでしょう・・・

 一方で、私の話に戻すと、おかげ様でこのブログを10年近く継続させていただき、様々な作品を紹介させていただきました・・・

 下手な紹介かもしれないですが、その作品なり、その制作者の「魅力」や「良さ」を紹介するべく、日々奮闘し、気づいたら私自身の「かけがえのないライフワーク」になっています・・・うんうん、これも皆様のお支えがあっての話で、読んで頂いている皆さまには感謝の言葉しかありません!

 ただ、10年もやらさせて頂いた中で、実は「この作品」は当時の紹介では上手く紹介が出来なかったなと思い、喉に小骨が引っ掛かった状態でブログを運営していました・・・

 それは、この作品に含まれる掘りの深さ、ジャンルを超えた選曲で魅せる世界観、選曲を光らせるDJミックスなど、MUROさんの魅力、そして「Diggin' Ice」という世界を明確に紹介出来なかったからです・・・

 不思議なもので、この作品は、どんなに忙しくても夏前にぐらいには1回、いやハマると初夏から夏にかけては愛聴してて・・・聴くたびに、その良さに更に気づき、いつかは完全な紹介をしたいと思っていました。

 そこで、昨年の冬ぐらいから、まずは「プレイした曲をすべて集める」ことから開始し、1年数か月かかり、今年の春に最後の1枚が手に入り、今回の紹介に至りました。
 また、その過程で、何度も聴き込み、以下の記事でも紹介する様々な研究を行い、この作品の良さを伝えるべく、着々と準備を進めていました。

 以下では、久しぶりに「全曲紹介」スタイルで、私が思う「この作品の良さ」を紹介したいと思います。

 相当、長い紹介になりますので、お時間のある時にお読みくださいね~

 なお、最後の1枚はCerroneのLPだったことが、MUROさんの掘りの深さかなと思いました・・・縦も深いけど、横が異様に広いですね(^0^)


(※1)2008年10月に紹介した記事は以下になります。この記事については、今回の紹介をもって旧記事になりますが、このまま残しておきます。

MURO 「diggin' ice - summer of 96」 (旧記事)

  




2 MUROさんについて

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 では、はじめに、この作品の制作者であるMUROさんだったり、Diggin' Iceのことから紹介をしたいと思います。

 これこそ説明不要かと思いますが、MUROさんやDiggin' Iceを知らない方にも興味を持って頂きたい思っているので、僭越ながら紹介させていただきます・・・

 まず、制作者である「DJ MURO(ムロ)」さんは、東京をベースに活躍するDJ/Producerになり、もはや「MURO」というジャンルでClubシーンを引っ張るお方になります。
 
 経歴については、MUROさん自身が10代だった80年代後半から活動をし始め、創世記だった日本語ラップ~HipHopシーンをラッパーとして牽引し、90年代中ごろよりDJ/Producer活動を本格化した流れがあり、ある意味で日本のクラブシーンやレコード文化を作ってきて中心人物とも言えるかと思います。

 特に、私としては、MUROさんは「掘り」「ミックステープ」の2つが重要だと思っていて、この二つが折り重なり「MURO」というジャンルが出来ているのではないか、と思っています。

 以下で、この2つについて深く紹介をします。


(1)MUROさんと「掘り」

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 まず、「掘り」については、MUROさんの代名詞である「King of Diggin'」から分かる通り、もう「掘りの王様」と呼ばれるぐらいの存在で、日本を飛び越え世界から尊敬されれるぐらい、この「音楽」、いや「文化」を育んだお方になります。

 MUROさん自身、HipHopが出身だったことから、いわゆる「サンプリング」に興味を持ち、そのサンプリングされたSoulやFunk、Rare Grooveといった「ネタ曲」にあたる「古い音楽を掘り起こす」ことから始まり、MUROさんにしかないセンスと発想の元、その「掘り」をDJプレイやミックステープ等において明確に披露し、世間一般に広めた経過があります。
 
 MUROさん自身も、手を汚し、膝を地面に突きながら、様々な音楽等を掘り起こし、それらを素敵な形で紹介し、私を含むDJ文化/レコード文化を愛する者を、結果的に育てた流れがあり、ほんと頭が上がりません。

 そう、みんな、MUROさんから「掘り」を教わり、育っていったと思います!

 イメージ写真として、MUROさんのTwitterから「いつの時代も、この姿に心をうたれる。。」とコメントづいた写真をお借りしましたが、大の大人が膝をついて餌箱を掘っている姿、そして、この写真を見て「グッ」とくることは、この「掘り」が日本で根付いた証拠に他ならないですね・・・

 なお、蛇足ですが、これは2014年の夏、MUROさんのお店(Digot)で、MUROさんの私物を放出された時の写真で、筆者である私も参加し、膝をついて掘っている姿が確認できます・・
 そして、この掘りでは、貴重なレコードだけでなく、今でも使っているソニー製のラジカセを譲って頂いたこともあり、私としてはMUROさんから「掘り」を正式に伝承を受けた瞬間だと思っています(^0^)


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 なかなか、この「掘り」という言葉を定義するのは難しいのですが、私としてはこの言葉は「音楽」と「文化」に分けられると思っています。

 まず、「音楽」としての掘りですが、過去に作られた素晴らしい曲を探し、それを現代に甦らせることがポイントで、まさに「DJの音楽」だと思います。

 音楽って、今はそうでもないですが、昔は「常に新しくリリースされる曲が良い」という風潮があった中で、本当に良い曲達が埋もれてしまう構造がありますよね・・・
 その構造を救うのが「掘り」になり、そういった風潮を無視し、自分が「カッコいい」と思う曲をDJプレイを通して光らせるのが「音楽としての掘り」になるかと思います。
 その意味では、古い曲だけではなく、新しい曲も含まれており、つまるところ「世間の評価」ではなく、「自分がカッコいいと思う音楽」こそ「掘りという音楽」なのかな、と思います。

 そして、「文化」としての掘りについては、文化というよりも「姿勢」になるかもしれまんせん。

 つまり、自分がカッコいいと思う「何か」を、自分を信じて「探し」、そして自身をもって「発表」することになります・・・
 これも、世間一般との比較になりますが、どうしても世間一般で良いと評価されているものを、そのまま享受してしまう流れがある中で、あくまでも「自分がカッコいいと思う」ことを重要視し、自分の視点で「カッコいい何かを探し」、そして胸を張って「カッコいい」ということになります。

 う~ん、分かりやすくまとめるのは難しいですが、掘りというのは「俺イズムを突き通して、カッコいい何かを探して、それを表現すること」になりますでしょうか?

 それこそ、写真のMUROさんが作ったスリップマットに記載された以下の言葉に象徴されるでしょう・・・

「Keep On Diggin' 365 Days」 (365日、掘り続ける)

「No Diggin', No Life」 (掘りなくして、人生はなし)

 まとめると、MUROさんは「掘り」を、こういった形で「カッコよく」紹介して下さった点が大きいです!!


(2)MUROさんと「ミックステープ」

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 そして、次は2点目に重要な「ミックステープ」について紹介したいと思います。

 まず、MUROさんに関しては「日本のミックステープ/CD」シーンを作った第一人者であり、MUROさんがいたからこそ、日本において、これほどまでに「DJミックス」が普及したのだと思います。

 歴史的な流れを先に紹介すると、先ほど紹介した「掘り」とも連動をするのですが、サンプリングのネタ曲を追い求める中で「これらの曲をミックステープにまとめたら面白いのではないか」との考えのもと、1995年に発表した「King of Diggin'」がMUROさんが制作した最初のミックステープになります。
 その後、このKing of Diggin'が好評だったことと、MUROさん自身の中でも、このミックステープが「自分のDJを表現する格好の場所」と判断し、様々な意欲的な作品をリリースし、テープだけで50タイトル以上、ミックスCDにおいては300タイトル近くを発表(※2)し、今も昔もリスナーを喜ばせ、そして同業のDJ達に対して刺激を与えています。

 この1995年という時期を考えると、日本においては高校生~大学生ぐらいの若者を中心にDJブームがあり、皆がHipHopやDJに興味を持ち始めた中で、ミックステープはプロDJの技を学べる格好の教材になり、私としては日本のDJ文化を陰で後押しした存在が「ミックステープ」だと思っています。
 また、MUROさんや、同時期だと須永辰緒さん、DJ Kenseiさん、海外だとDJ Spinbadなど、ミックステープが、ただDJミックスを収録したものではなく、そのDJの「作品」として作られたミックステープが多かったことから、様々なDJが意欲的な作品を出していった経緯もあります。(※3)

 つまり、時代的にもミックステープが受け入れられ、DJ側が意欲的な作品を作れる流れがあり・・・結果的に多くの作品が作られ、日本のDJ文化を後押ししていたと思います。

 特に、MUROさんが素晴らしかったのは、やはり、内容とレベルの高い「作品」を出し続けながら、それが「誰にでも楽しめる作品になっていた」ことが大きかったと思います。


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 この「誰にでも楽しめる作品」という観点において、一番分かりやすく、誰でも納得できるのが、今回、作品紹介として紹介したい「Diggin' Ice (ディギンアイス)」になります!

 まず、Diggin' Iceの説明からすると、イメージとしては「聴いているだけで夏が涼しくなるミックステープ」という内容で、DJ業界的には「Chill Out (チル・アウト)」や「Cool Out (クール・アウト)」と呼ばれている内容になります。

 オリジナルのDiggin' Iceと呼ばれるテープ時代の作品(96年~99年)については、上記写真の4本がその年の夏にリリースされ、当時のHipHopファンやDJファンを楽しませたのは言うまでもなく、その後もCD時代になっても、このDiggin' Iceの看板の元、素敵な作品が何作もリリースされています。
 また、どの作品も作品を通して「涼しくなるアートワーク」も秀逸で、オリジナル時代の「ミネラル・ウォーター~炭酸水」のサンプリング・ジャケットは、観てるだけでも涼しくなり、MUROさんの作品意図が良く表れているかと思います。(*コラム参照)

 そして、肝心な内容も、様々なジャンルの音楽を選曲し、夏の熱い時期や、湿気でムシムシとした時期に聴いてると、聴いてるだけで「すっ、涼しい・・・」となる内容で、収録された曲の知識があまり無くても、聴けば誰にでも楽しめる作品になっているかと思います。

 少し話は脱線しますが、季節に合わせた選曲というのは、その季節の良さを盛り上げたり、また、その季節の持つ辛さを和らげたりする効果があり、ミックステープを聞かない方でも、ごく日常的に体感していることかと思います。

 それこそ、夏であれば「風鈴の音」を聴くと、何となく涼しい気分になりますよね・・・一方で、冬であれば「淹れたてのコーヒーの湯気や匂い」を見たり嗅いだりすると、何となくホッとしますよね・・・
 つまり、こういった「人間の五感に訴える」というか、「生理的な欲求を満たす」ことを、音楽の選曲やDJミックスを通して実現しているのが「季節に合わせた選曲」と言えます。

 こういった背景がある中で、MUROさんは前述した「聴いているだけで夏が涼しくなる」をイメージして作られたのがDiggin' Iceになり、気づいたらMUROさんのライフワークになっている作品(シリーズ)になっています。

 一方で、こういった「聴いているだけで夏が涼しくなる」という内容は、音楽業界的にはそこまで珍しくはなく、DJ業界でも定番とも言える内容ではありました。
 
 それこそ、80年代ぐらいからは、大手のレコード会社も夏に見合った既存曲を集めたコンピーレションやワンアーティストの夏っぽい曲だけを集めたミックス作品を発表したり、ラジオ番組でも夏の曲を集めた特集は定番ともいえるかと思います。

 また、DJ業界に目を向けると、DJの本場であるNYでは、80年代のラジオ番組でも定番だったし、DJの現場でも定番で、こういった夏選曲は、ある意味で「懐メロ=定番」として、子供からお年寄りまで親しまれていた経過があったと言われています。
 そのためか、ミックステープが「作品レベル」としてリリースされ始めたた80年代末~90年代初頭においては、こういった夏選曲の作品はすぐにリリースされており、有名な作品だと「DJ Doo Wop / Cool Out」などがあり、Kid CapriやBiz MarkieといったDJの作品が人気だったと言われています。(*コラム参照)

 以前、MUROさんと対談をさせていただいた際にお伺いできたのが、このDiggin' Iceを作られた「きっかけ」は、NYで人気だった夏選曲のミックステープを聞いたことに影響を受け、それで日本版、いや「MURO版」のミックステープを作ろうと思ったのがきっかけだったそうです。

 そう、こういった背景があり、「Diggin' Ice」が作られたんですね・・・


(*コラム参照)このページの最後に記載してあります。

(※2)MURO作品リストは以下を参照ください。
・ DJ MURO Mix Tape
・ DJ MURO Mix CD

(※3)日本におけるミックステープの変遷については、以下を参照ください。
・ ミックステープを考える




(3)MUROさんのDJミックスについて

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 前振りは以上にして、以下ではこの作品の選曲やDJミックスを紹介するのですが、MUROさんのミックステープ作りにおいては、以下の3点が重要だと思っています・・・これは「ミックステープを作るための絶対条件」ともいえる原則になります。

A 目標
 ・作品ごとにテーマやコンセプトを設定して、全体の世界観を作る

B 選曲
 ・自身の「掘り」という持ち味を生かしてプレイする曲を選び、的確な曲順設定を行う

C DJミックス
 ・細かいBPM設定やミックス処理を施し、全体のグルーブやストーリー作りを固めていく


 イメージとしては「(A→)B×C=A」という感じで、Aの目標を作り上げるために、Bの選曲とCのDJミックスを折り重ねていく作業になります・・・
 これまで、あまり上手く説明が出来なかったので、あまり明確に紹介していませんが、私のミックス作品の紹介はこの原則に従って紹介していました・・・まあ、この通りに作られるわけではないし、何とも説明しづらい内容ですね~

 そして、話を「Diggin' Ice」に戻すと、私としては、このAを設定した上でBの「選曲」とCの「DJミックス」が大変上手いと思っており、これがあるからこそAの「目標=「聴いているだけで夏が涼しくなる」内容になっており、結果的は「誰にでも楽しめる作品」にもなっています。
 また、「選曲」「DJミックス」自体も深く追求すればするほど「凄い!」の一言で、今回、この作品を研究してて悶絶したところが大変多かったです。

 では、以下の作品紹介では、A面とB面を、それぞれ選曲順に紹介することを中心に、その流れの中で「選曲」と「DJミックス」の2視点で分析を行いながら、どのようにして「目標」となる「聴いているだけで夏が涼しくなる」内容になっているのかを、詳しく紹介したいと思います。
 選曲の流れで紹介することから、「選曲」と「DJミックス」の視点が混雑してしまい、分かりづらい部分もあるかと思いますが、御理解の上、お読みください。





3 作品紹介

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<注意事項>
・本来、このようなアンダーグラウンド作品は諸般の事情から全ての曲を紹介すべきではないのですが、この作品の全てを紹介する観点から、一部の曲を除き、全曲を紹介し、トラックリストも掲載します。
・この作品については、何度もプレスされていて、プレスにおいてはA面とB面が逆になっている場合があります。詳細を説明すると、最初がArethaから始まるミックス(①)と、最初がMTUMEから始まるミックス(②)がある中で、あるプレスでは①=A面、②=B面と設定されている一方、あるプレスでは②=A面、①=B面と設定されていることがあります。そのため、この記事での紹介は、私自身が一番聴きなれている「①=A面、②=B面」として紹介をしたいと思います。
・紹介においては、この作品の「ストーリー性」を明確に示すために、私がミックス作品の紹介で多用する「起承転結」の4分割方式に分けて紹介をします。



3-0 作品の全体像について

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 まず先に、この作品の「選曲の全体像」を紹介しておきたいと思います。

 Diggin' Iceについては、基本的には「ノンジャンル」な選曲、つまり、MUROさんが「涼しくなるかな?」と感じた曲を集めており、音楽の「ジャンル分け」をするのが結構難しい作品になっています。

 この作品では、大雑把には「過去のBlack Music」を中心とした選曲で、それこそ70年代のSoulやJazz Funk、70~80年代のDisco、80年代のR&B等を中心としつつ、このジャンルでは収まりきらない内容が選曲されています。
 96年に作られた作品ですので、全てが過去にリリースされたアナログ盤でDJプレイをしており、全てがMUROさんの手によって掘られ、その良さを見抜かれた上で選曲された内容になっています。

 以後、選曲面でのポイントとなる内容はその度に紹介しますが、選曲を紐解く上で重要にしたいことがあります・・・

 それは、選曲された曲が「レコード屋さんやCD屋さんにおいて売られている場所が違う」ことで、つまり「それぞれのジャンルに壁が明確に分かれている曲」をジャンルレスに選んでいるということが大きなポイントになります。
 それこそ、MUROさん自身がジャンルに関係なく良い曲を掘っているからこその選曲であるのですが、実はMUROさんが先駆的にジャンルの壁を壊して選曲をしていた点は大きいです。

 また、選曲のもう一点のポイントは、総括すると「意外性のある選曲が多い」ことになります。
 MUROさんというと「ハードな掘り」のイメージが強く、選曲が定番よりも誰も知らない曲を選曲しているイメージがありますが、その中で、「えっ、そんなところから掘ってくるの?」という曲も多く、結構驚かされます。
 一方で、これも意外性があるのが、実は「定番曲」の使い方が上手く、これもヤラれます・・・DJ業界にいると、べたな定番曲はあえて敬遠する傾向があるのですが、MUROさんは「良い曲は良い曲」として選んでいる節があり、これも意外ですね・・・ 

 つまり、「①ジャンルを跨いだ選曲」「②誰も選ばなかった曲を多く選曲」をしていることです。

 この2点は、最終的には「MUROさんのHipHop性」があっての選曲になるとおもいますが、以下の選曲部分の説明においては、これらの観点が含まれていることを踏まえて、紹介を読んで頂けると嬉しいです。


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 そして、選曲の話もしたのであれば、DJミックスに関する全体像も紹介しておきましょう。

 MUROさんのDJスタイルは、大雑把にカテゴライズすると「HipHop スタイル」になります。

 HipHopスタイルと書くと、人によっては「ゴシゴシとレコードを擦ってるんでしょ」と思うかもしれないですが、MUROさんの場合はHipHopらしいサクサクと曲をプレイし、それに合わせてDJミックスを行う感じで、次の曲に移る際にスクラッチでカットインをするぐらいになっています。

 ただ、この「HipHopらしいサクサクと曲をプレイ」は肝になります。

 私の中ではDJミックスにおける「スタイル」というものは、大雑把に「HipHop」と「House」に分かれており、前者はサクサクと、後者は時間をかけて、というイメージなのですが、MUROさんのサクサクとしたプレイは、他のDJとは大きな特徴があり、その特徴には結構影響を受けた方が多いかと思います。

 その特徴とは、サクサクと次の曲に繋いで行くんだけど、なぜか全体の雰囲気は合っており、まるで、パズルのピースをパチパチとハメているけど、全部を見るとしっかりと一枚の絵になっている感じなんですね・・・
 こういった全体で一枚の絵にしようとするDJミックスは、Houseスタイルのような、時間をかけて曲の良さを引き出し、組み立てていくミックスの仕方の方がクリエイトしやすいのですが、そういったことを、HipHopスタイルでクリエイトしていた点は大きいかと思います。

 なお、今となっては時代に合わない話ではありますが、このテープで選曲されているような昔の曲を、HipHop的にDJミックスしていることには衝撃を受けた方が多いかと思います。

 それは、このテープがリリースされた当時(1996年)、まだシーンが未熟だったため、HipHopスタイルのDJは「HipHopの曲しか擦ってはダメ」という変な暗黙の了解があり、そういった中で、HipHopスタイルで古い曲をDJミックスしていることに衝撃を受けた方が多いと思います。
 まあ、HipHopの歴史をさかのぼると、ジャンルに関係なく良いと思った曲を俺流にアレンジしてカッコよくするという大前提があるので、MUROさんは伝統に忠実にDJしてたことに他ならないのですが、頭でっかちだった後輩たちに、正しい「HipHopの在り方」を示してくれた点は、凄い重要ですね!





3-1 作品紹介 A面

<Track List>
01 Aretha Franklin / Day Dreaming
02 Roy Ayers / And Don't You Say No
03 Enchantment / It's You That I Need
04 Jeffrey Osborne / Only Human
05 Isley Jasper Isley / Insatiable Woman
06 Ray Parker Jr. And Raydio / Tonight's The Night
07 Herbie Hancock feat Vicki Randle / Tonight's The Night
08 Nicole with Timmy Thomas / New York Eyes
09 Pleasure / Thoughts Of Old Flames
10 Shalamar / I Don't Wanna Be the Last to Know
11 Zapp / Be Alright
12 Collage / Get In Touch With Me
13 Sister Sledge / Easier To Love
14 Patrice Rushen / Remind me
15 La Toya Jackson / Camp Kuchi Kaiai
16 Debra Laws / Meant For You
17 Cerrone / Strollin' On Sunday
18 The Jets / You Got It All
19 Four Tops / Ain't No Woman (Like The One I've Got)



(1) 起 

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01 Aretha Franklin / Day Dreaming

 まず、作品としての入り口も入り口な「A面の1曲目」ですが、Soulクラシックである01「Aretha Franklin / Day Dreaming」から穏やかに開始します。
 曲名だけだとピンとこないかもしれないですが、このジャケットだったり、歌のメロディーだったりを聴けば、反応する方も多いのではないでしょうか・・・カバー曲も多いし、いや、そもそもな曲と歌が良すぎて、曲を知らなくっても「うっとり」しちゃう名曲ですね~

 MUROさんは、ビートレスながらアカペラで優しく始まり、段々と力がこもってくる構成を上手く利用し、まるで飛行機が徐々に滑走し、空にゆったりと飛び立っていくイメージを込めて、この曲を選曲したんでしょうね。
 まるで、暑苦しい夜を、クーラーの利いた小粋な飛行機で飛び立っていくイメージが、この1曲目から表れていて、大変良いですね。


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02 Roy Ayers / And Don't You Say No

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03 Enchantment / It's You That I Need

 そして、01のArethaを最後までプレイをして、最後のビートレスでアカペラになる部分を上手く利用し、02「Roy Ayers / And Don't You Say No」にカットインし、01で生み出した優しく、メロウなグルーブを引き継いだ選曲/DJミックスをしています。
 更に、03「Enchantment / It's You That I Need」も、02の頃合いの良いところでフェードアウトからのフェードインで流れていき、引き続きメロウなグルーブを引き継いでいきます。

 ただ、01~03にかけては、メロウさもポイントですが、ボーカルの熱さが要所要所で熱く光る曲を選曲しており、スローな出だしでありながら、躍動感もあり、聴いている人の心を上手く掴んでいるな、と思います。

 まず、今後のことにも紹介にも係るので、ここでDJミックスにおける「グルーブ」という意味を整理しておきたいと思います。

 この「グルーブ」という言葉は、私としてもかなり曖昧で、明確に説明が出来ないのですが、イメージとしては「雰囲気」という言葉になります。

 つまり、この作品だと「ちょっと涼しくて、気持ちいいな」という「雰囲気」がグルーブになり、02から03にかけては、その「ちょっと涼しくて、気持ちいいなというグルーブ」を上手く繋いでいます・・・これは通称で「グルーブ繋ぎ」ですね。

 このグルーブ、極端な例を説明した方が分かりやすいと思うので、例を入れると、メロウな雰囲気の曲が流れた後、突然ハードロックが流れたら、その前の曲の良さは分断されてしまいますよね。
 ただ、同じようなメロウな雰囲気の曲が続けて流れたら、そのメロウな雰囲気は持続されます・・・そして、ここがDJの腕なのですが、DJミックスの仕方によってはその「メロウな雰囲気」を倍増させることができます。

 私としては、その倍増させるための手法が「グルーブ繋ぎ」であり、その良い雰囲気が続いた状態を「グルーブ」だと思っています。

 この作品だと、DJミックスにおける「グルーブ」を活用した部分は沢山ありますので、以下の説明でも登場しますので、お見知りおき下さい・・・


 なお、選曲面の話も入れておくと、02は有名なRoy Ayersの曲ですが、あまりピックアップされない70年代後期のアルバムより、アルバムのみの曲を選曲、そして03は、グループ自体がそこまで有名でないボーカルグループのLP曲(シングルではB面)を選曲しています。

 つまり、2曲とも「あまり知られていない曲」になります。

 MUROさんを評する時、よく「凄い」と言われるのが、このようなアルバム曲にひっそりと隠れてて、周りから殆ど評価されていない曲を選曲し、途端にその曲の魅力を輝かせる手腕があります。
 まあ、その一方で、凄いメジャーな曲の光らせ方も上手いのですが、掘りという観点からすると、レコード相場的に安いレコードからも、しっかりとそのアルバムを聞き込み、イイ曲を選曲してくる点は最強だと思います!
 この2曲だと、Roy Ayersがそうで、当時としては最高のネタ曲として70年代前半のアルバム(Roy Ayers Ubiquity時代か?)は評価されていた中で、Disoco要素が強くなってしまった70年代後半のアルバムから抜いてくる辺りは、流石だな~と思っています。


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04 Jeffrey Osborne / Only Human

 そして、次は、80年代R&Bを代表とする男性ボーカリストの90年にリリースされたアルバムからの隠れた1曲である04「Jeffrey Osborne / Only Human」を選曲します。
 引き続き、メロウなグルーブを引き受けつつも、音数も増え、段々と雰囲気が膨らみ、まるでグルーブが少しだけ加速させて変化をもたらした選曲かな~と思います。

 まず、この部分で指摘したいのが「変化」というDJミックスの上手さですね。

 実は、この前曲が布石として仕込まれていた「DJミックスの技」になるのですが、この03~04では、メロウなグルーブを引っ張りながらも、裏では大胆な「BPM操作」を行っており、変化に向けた準備を行っていました。

 具体的に紹介すると、02から03にDJミックスをする際、ビートレスな部分でフェードアウト・フェードインをしていたのですが、02と03とではBPMが元々違っていて、02は71BPM、03は83BPMになり、実は10近くアップしていました。

 BPMとは、その楽曲の速さ(テンポ)を表す指数で、1 分間あたりの拍数を示したものになります・・・一般的には10は結構なスピードアップになるでしょうか?
 ただ、02と03のDJミックスをする部分では、ビートが被らない部分でDJミックスをしていたことと、完全にグルーブで繋いでいたことで、BPMの変化を気づかせないDJミックスになっており、見事なBPM操作だな~と思ってしまいます。
 
 そして、03で行ったBPM操作は、実はこの04に繋げるための布石であったことに気づかされます。

 選曲面の紹介とも被りますが、この04は、この作品で唯一90年代のリリース曲ではありますが、選曲のイメージ的は80年代のR&Bとして選曲をしており、70年代の曲にはない「華やかさ/現代さ」を持たせた選曲になっています。
 特に、ベースラインなどが現代的だし、メロディーも歌詞もはっきりと輪郭がある感じなので、01~03の70年代的なメロウなグルーブを、そのままDJミックスするのには違和感があり、ある意味で「接着剤」が必要になります。

 つまり、03が「04を盛り立てるための接着剤」だったんですね・・・

 03の曲自体も若干ソウルフルな歌声が際立っていたし、03と04は実はBPMがほぼ同じで、グルーブも同系統なことから、カットイン気味のフェードインで違和感なく繋げることができ、04に変わった瞬間、急に音数が増えて華やかな展開になっていました。

 グルーブを繋げつつ、軽やかに変化を仕込んでいくDJミックスの上手さが含まれており、個人的には好きなラインです!


 なお、選曲的にも、よくもこんな「ドマイナーなアルバム」からイイ曲を見つけてくるな~、と思っています。
 この曲は、90年リリース=CDが全盛になってしまった中で、そこまでヒットしなかったアルバムといえ、おそらくアナログ盤もそこまで作られていないはずで、私自身も、このレコード盤を探すのに結構苦労をしました。

 やはり、MUROさんの素晴らしいところは、こういった意外なレコードで、カッコいい曲を見つけてきて、DJミックスを通して更にカッコいい曲に仕上げていく点になりますね!



(2) 承 

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05 Isley Jasper Isley / Insatiable Woman

 ここまでで4曲、約10分程度なのですが、この紹介量・・・この後も、しつこい説明が続きますよ!

 05曲目は、シングルヒットもした80年代のR&B曲である05「Isley Jasper Isley / Insatiable Woman」をショートミックスで繋いでいきます。
 前曲の04も80年代の流れがあり、かつベースラインの輪郭も似ている曲なので、違和感なくグルーブが続き、気持ちいい「Diggin' Ice」らしいグルーブを引き伸ばします。

 この曲が凄い有名とは言いづらいですが、アルバムだけに隠れた1曲を選曲する一方で、こういったシングルヒットも選んでくる辺りは流石なのです・・・ただ、結局はどの曲も「昔の曲」なので、それを探してくる「掘りの力」は、やっぱりMUROさんの凄さですね。

 その中で、いかにして「カッコよくプレイするか」という部分も重要かと思います。

 例えば、この曲においては、実は原曲からピッチを「+4」程度にスピードアップしてプレイしており、前後のグルーブの相性、そして全体にハメた時の整合性を考えても、このピッチアップによってInsatiable Womanが「カッコよい曲」になっているのに驚かされました。
 通常のスピードでは、割とメロウな空気感の方が前に出てしまう曲なのですが、ピッチアップすることで躍動感みたいのが生まれ、この曲の肝となっているベースラインが更に前に出てきて、個人的には、ピッチアップした状態の方が好きかな~と思ったりもします。

 このピッチアップは、MUROさんの「HipHop性」を代表するDJミックスで、ピッチアップをすることで突然カッコよくなる曲が多く、MUROさんのピッチアップされた曲を通して、突然「うわっ、カッコいい!」と思わされた方は多いでしょう。
 それは、普通の状態では「昔の曲」なのを、MUROさんの手を通してHipHop以降の「今の曲」、いや「誰もが好む曲」にしていることに他ならず、これこそ「DJのマジック」なのかもしれません。

 なお、この作品では、全体的にプレイする曲をピッチアップしてプレイしており、ああ、MUROさんはやっぱり「HipHop」なんだな~、ということが垣間見れたりします・・・


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06 Ray Parker Jr. And Raydio / Tonight's The Night

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07 Herbie Hancock feat Vicki Randle / Tonight's The Night

 そして、引き続きメロウな空気感を引っ張り、アルバムに隠れた良曲を選曲・・・気持ちよさにウットリしながら聴いてると、思わず見逃してしまう「DJミックス」の技が光っており、ここもMUROさんらしいですね。

 まず、先にネタばらしをしておくと、06と07は曲名が同じですよね・・・
 これは、06の「Ray Parker Jr. And Raydio / Tonight's The Night」オリジナル曲で、07の「Herbie Hancock feat Vicki Randle / Tonight's The Night」カバー曲になり、MUROさんは聴いている人が気づかない位のレベルで、06から07にスクラッチカットインし、あたかも同じ曲のようにDJプレイをしていました。

 まあ、07のカバー曲が、原曲に忠実に演奏(Ray Parker Jr.本人も参加)しているので、曲は全く一緒なので、繋ぐのはそんなには難しくないですよね・・・

 ただ、ここで重要なのが、これらの曲を「掘り」、そして、このようにリレープレイをした「アイデア」を思いついたことになります。

 前述したとおり、両方の曲ともアルバムに収録された曲で、前者は大ヒットした名曲「It's Time To Party Now」が収録の大ヒットアルバム、後者はそこまでシングルヒットは無いが、JazzFunkラインからクロスオーバー化していく中で発表された隠れた名アルバムになり、まずは、この2枚をよく掘ったな~と思います。

 それこそ、レコードを掘るという視点だと、前者はメジャーアルバムすぎて、レコード屋さんでも敬遠されるぐらい在庫があふれているアルバム、そして、後者は、Herbie Hancockというアーティストを考えると、大ヒットしたRock Itよりも前とあり、Jazzでもない、Popsでもないという中途半端な時期のアルバムなので、やはりレコード屋さんから敬遠されちゃうアルバムだと思います・・・

 つまり、私として、これらの曲は「100円レコード」の中から掘り当てたお宝であり、この辺がMUROさんの掘りの素晴らしさの一端だと思っています!

 まず、100円レコードについて説明をしておくと、イメージとしては、そのレコード屋さんでは売れないので、100円にして投げ売りをしているレコードを指し、ある意味で「全く注目されていないレコード」になります。
 これらの曲が100円で売っていたかどうかの確証は避けますが、MUROさんに関しては、こういった注目されていないレコードを手に取り、しっかりとアルバムの中まで聴きこんだ上で「この曲は良い」と判断しており、レコード掘りとしては見習わないと行けない姿勢があります。

 そして、ただ掘っただけではなく、先ほどのピッチアップにもつながる「使い方=カッコ良くする方法」として、この2曲を一つの曲に聞こえるようにDJミックスをする「アイデア」を思いついた点も評価せざるを得ません!
 
 DJのミックス作品って、選曲も大切ですが、その選曲した曲を「どう面白く提示するか」も大切で、こういった遊び心もある「アイデア」を入れ込むことも大切だと思っています。
 まあ、なかなか気づかない部分も多いですが、気づいた時には、このアイデアが作品の良いスパイスになっていることが多く、流石ですね・・・


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08 Nicole with Timmy Thomas / New York Eyes

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09 Pleasure / Thoughts Of Old Flames

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10 Shalamar / I Don't Wanna Be the Last to Know

 そして、07まで行くと、どちらかというとクールな意味でのメロウさが際立っていた前半から、徐々に華やかさも加わったクール感のあるグルーブに変わり、段々と躍動感のようなものが生まれてきています。

 その流れで、シングルヒットもした08「Nicole with Timmy Thomas / New York Eyes」、ネタ曲として有名になったJazzFunkである09「Pleasure / Thoughts Of Old Flames」、シングルのB面曲にあたる10「Shalamar / I Don't Wanna Be the Last to Know」をサクサクと選曲/プレイし、今度は、どちらかというと「クール感のあるグルーブ」を引っ張り、Diggin' Iceらしい「涼しさ」を上手く演出しています。
 どの曲も、05で指摘したようなピッチアップでプレイしており、よりHipHopらしいクール感も演出してて、やっぱり上手いですね~
 
 まず、この部分においては、選曲面から紐解いてみると、有名曲も無名曲も選曲してて、このへんの選曲は「まさにDiggin' Ice」な感じで、大変良いですね・・・
 個人的には、その曲のトラックの涼しさもさることながら、各曲の「歌の良さ/メロディーの良さ」も踏まえた選曲になり、気づいたらその歌やメロディーに引っ張られ、気持ちよく鼻歌を歌ってたりします。

 ただ、ここで指摘しておきたいのが、DJミックスと選曲における「次の動きを見据えた戦略」がある点です。

 まず、このあたりの選曲は、割と他の曲よりもグルーブをリラックスさせた選曲で、ある意味で「ストーリーの谷」にしています。
 
 つまり、他の選曲よりも「落とした」選曲になり、光と影であれば「影」に当たる部分かもしれません・・・

 細かいですが、DJミックスにおいても、絶妙な荒さもあるスクラッチカットインで次の曲に繋ぎ、それも結構、曲のグルーブを断ち切るような入れ方になっており、これまでの「グルーブ繋ぎ」とは対照的なDJミックスになっていますね・・・

 少し脱線をして、DJミックスにおける「ストーリー」について触れておきましょう。

 DJミックスにおいては、私としては「ストーリーの山と谷」が大切だと考えていて、同じ感じの曲が続くと飽きてしまうので、流れの中で、あえて違う方向性の曲を選曲することで、ある意味でDJミックスの中に「起伏(きふく)」が生まれ、全体を見た時に「動きのあるストーリー」が生まれると考えています。

 それこそ、映画であれば、最後まで日常的なことが、同じ調子で続づいたら面白くないですよね・・・途中で何らかのイベント的な内容が入ることで、観る人は飽きることなく観ることができるかな、と思います。
 また、サクセスストーリーを描いた映画であれば、ずーっと成功をしている内容だけが続くよりも、どこかで大失敗をして、そこから這い上がって成功したストーリーの方が、その成功に対して深い共感が得られるかと思います。

 これらは、一般的には「演出」と呼ばれておりますが、DJのミックステープにおいても、DJが作りだした物語(ストーリー)があるのであれば、同じような方法論は十分に活用でき、最終的に作品全体に奥行きを与える効果があると思っています。

 その意味では、これ以降の「転」「結」に向かっていくための布石であり、「転」「結」を効果的に盛り上げるために戦略的に設定された「演出」だと考えられます。



(3) 転 

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11 Zapp / Be Alright

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12 Collage / Get In Touch With Me

 A面のミックスも折り返し地点、ここからの流れは素晴らしく、MUROさんの素晴らしさが爆発しております!

 ここからは、先ほどの「(2)承」の最後で紹介した「次の動きを見据えた戦略」を踏まえての選曲になります。

 11では、大ヒットアルバムの隠れた1曲である「Zapp / Be Alright」をショートミックスで繋ぎ、08~10で見せていた「ストーリーの谷」から抜け、ベースラインが利いた、割と上向きなグルーブも取り入れた方向にシフトします。
 そのあと、12では、ベースラインがカッコいい「Collage / Get In Touch With Me」に繋ぎ、サビのクールだけど熱い感じを上手く取り入れ、更にグルーブを高めていきます。

 まず、11からは「転」として区切りましたが、この選曲面の説明だけでもグルーブを上げてきていることがわかります。

 ただ、それ以外でも憎い演出が光っており、このグルーブの高めていく効果が見受けられます。

 例えば、実は「承」の最初にあたる05「Isley Jasper Isley / Insatiable Woman」から徐々にBPMを上げており、05の時点では81BPMだったのが、11「Zapp / Be Alright」の時点で86BPMまで上がっていました。
 つまり、11までの6曲の間に、聴いている人を気づかせないように徐々にBPMを上げてきており、段々とストーリーの後半に向けてテンションを上げていたことが分かります。
 それも、凄いのが、先ほど紹介をした「谷」の部分でも、実はBPMは上向き設定をしてて、しっかりと戦略を立ててBPMをコントロールしていたのかが分かり、結構ビックリしました。

 そう、この11までは、まるでジェットコースターが、一番高い所に向かって、徐々に上り始めた感じを演出してたんですね・・・

 また、このBPMコントロールを更に上手く使っているのが、11から12へミックスする時の「絶妙なタイミング」です。

 まず、11を良く聴くと、歌主体のミッドテンポのファンクチューンで、段々と曲が深まってくると歌も盛り上がり、サビのの♪All Light~♪の部分あたりで爆発する構成になっています。
 MUROさんは、このような構成の中、最後の最後でサビが盛り上がった後、余韻がのこったブレイクに、12のイントロブレイクを上手くショートミックスして繋いでくるのですが、このタイミングが絶妙で、ショートミックス後のベースラインの疾走感といったら、最強ですね!

 テクニカルな面を話しておくと、11の時点で86BPMだったのが、12になると90BPMに一気に上げています・・・・普通だったら、ちょっと違和感が出ちゃうBPM設定になりそうですね。
 ただ、11のBPMとグルーブが上がってきている部分を上手く見つけたことで、違和感なく12をショートミックスすることができ、かつ、上り調子のグルーブに対して、一つギアを加速させた印象も持たせることもでき、上手く「加速」させています。

 そう、ミックスのストーリー的には、その奥のピークタイムに向けて「更なる加速」を出したいので、この「転」を設定していました・・・



(4) 結 

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13 Sister Sledge / Easier To Love

 12は、ベースラインとサビのカッコ良さに引っ張られ、グルーブはピークに向けて確実に盛り上がって行きます。

 ただ、12は1バース(曲の1番)のみで次の13「Sister Sledge / Easier To Love」にカットインします・・・

 言葉で書くと「あれっ、盛り上がった感じを切っちゃうの?」と思うかもしれませんが、ここでMUROさんのDJミックスの伝家の宝刀が飛び出しくれ、更にピークに向けて盛り上げていきます!

 その伝家の宝刀とは「1バース・ミックス」です!

 HipHop的には「クイックミックス」とも呼ばれ、曲の一部や、長くても曲の1番だけをプレイし、次々と新しい曲にかけていく手法で、ミックステープでも多用されている技になります。
 この技の大きな特徴は、プレイした曲の良いところを切り取るような形なので、選曲した曲にスピード感や躍動感が生まれることがあるかと思います。

 ただし、ここでの「1バース・ミックス」は、もう一つ別の戦略もあってのミックスになっています。
 
 まず、これまでの選曲では、割とHipHopらしくサクサクと進む展開でありながら、メロウなグルーブを大切にしていた向きがあったため、ここでの1バース・ミックスと比べると、少し長めに曲をプレイしていたと思います。
 一方、12は、流れ的には説明した少し長めにプレイしても良いところを、聴く側の裏をかいて1バースで終わらせます・・・なんでしょう、聞いている側としては、意外なタイミングで曲が変るのでビックリしますよね。

 つまり、この「裏」をかいたことで、聞いてる者にある種の「期待感」を植え付けたのだと思います。

 そして、その戦略からの13「Sister Sledge / Easier To Love」ですが、これこそ「戦略的な選曲」です!
 
 12よりも、少しレイドバックしたグルーブがありつつも、BPMは上向きで、ボーカルの可憐な力強さから、つい心が引っ張られ更に加速していきます・・・

 そして、このEasier To Loveも必殺の連続1バース・ミックスで次の曲へスイッチします・・・

 ジェットコースターは、暗いトンネルの中を頂点を目指して上り、急に早くなりつつも、突然横に曲がり、その先にはかすかな光が見えています・・・


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14 Patrice Rushen / Remind me

 そして、その光が見えた瞬間、最高に素敵な瞬間が待っていました・・・

 名曲中の名曲である14「Patrice Rushen / Remind me」をカットイン・・・も~、最高すぎるDJミックスです!!

 繰り返します・・・世界で一番「Remind Me」を光らせたDJミックスだと断言します!!

 まず、DJミックスの流れから紹介をしておくと、12よりも落としたグルーブの13をあえてチョイスしたことで、ピーク曲して設定していた14が、対比という意味で更に光る構成にした前提もありつつ、奇跡的にサビ後のブレイクダウンした一瞬のを見抜き、優しく14をカットイン・・・
 もう、この展開、そしてカットインの絶妙さと言ったら最高です、これは神がかっています!

 この「神がかり」は、私の中では「殺しのミックス」と呼んでいます・・・

 それは、そのDJミックスだけで、聞いている者を引きつけ、聞いた者に最高の喜びを与えるミックスになります・・・

 私は、なぜ「DJの作るミックス作品」を好むのかというと、DJが「選曲」と「DJミックス」を施すことで、そのプレイした曲が、普通に聞く以上に「光ってくれる」ことが好きだから、何十年もDJミックスを聞いているのだと思います。

 話を14に戻すと、13と14の間にある一瞬の「間(ま)」を見抜いたこともさることながら、この14にストーリーを繋げていく展開と、その展開を支えるための細かいミックス処理が折り重なり、ほんと素晴らしい曲としてプレイをします。


 それも、ド定番な「Remind me」ですよ!

 ここもMUROさんの真骨頂なところですが、ド定番な曲で「殺しの選曲」ができる点は、誰にも負けないところで、ほんと凄いですね!

 ド定番の曲って、プレイの仕方が間違わなければ、誰でも盛り上がる曲だと思いますが、プレイの仕方が間違っていたら、聞いている者が曲を知っている分、無反応になりかねない曲だと私は思っています。
 また、昔は、掘ることをメインにしているDJほど、周りにナメられてはいけないと思うのか、誰でも買えるド定番を避ける傾向もあったりもし、結果的に頭でっかちな選曲になったりもします。

 こういった背景がある中で、King of Diggin'の「Remind Me」は、きっと「良い曲は良い」ということを信じて、戦略的に練り込んだ上での選曲なんだと思います。 

 この部分を聞いただけでも「ミックステープに神が宿った瞬間」を聞けるかと思います・・・



(5) 転→結 

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15 La Toya Jackson / Camp Kuchi Kaiai

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16 Debra Laws / Meant For You

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17 Cerrone / Strollin' On Sunday

 Aサイドに関しては、14のRemind Meの良さを伝えたく、ここまで長々と書きましたが、この後もMUROさんらしい最高のエンディングが待っています!!

 14は、これまた必殺の1バース・ミックスで終わらし、カットイン気味に15「La Toya Jackson / Camp Kuchi Kaiai」を選曲します。
 14でピークタイムを作ったので、少しクールダウンをしつつも、MUROさんらしいトロピカルな雰囲気を出してて、大変上手い選曲ですね。

 その後も、16「Debra Laws / Meant For You」17「Cerrone / Strollin' On Sunday」と、アルバムに隠れた1曲を連続プレイし、空気感を優しくクールダウンし、Diggin' Iceの本来持つ「クール」な質感を引き伸ばします・・・
 特に、作品のストーリー的には、14で最高にドリーミーな展開を与えた直後なので、その空気感を上手く使ったグルーブ作りをしてて、クールなんだけど、夢心地な気持ち良さもあり、選曲と、その選曲を光らせるためのグルーブ設定が上手いですね!

 なお、繰り返しにはなりますが、MUROさんは、有名・無名を問わず、本当に「アルバムの中に隠れた1曲」を探すのが本当に上手いですね!!

 それこそ、16「Debra Laws / Meant For You」であれば、ジャケを見た瞬間、名作スローな「Very Special」を思い浮かべますが、その裏をかいて、こんな良い曲を探してくるとは・・・プロモのでシングルカットはあるものの、ほんとアルバムの隅から隅まで「掘っている」ことが分かり、音楽への貪欲さが伺えます!!


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18 The Jets / You Got It All

 そして、しっかりと夢心地になり、ピーク的なストーリーのことを忘れていたら、クールなグルーブの延長で18「The Jets / You Got It All」をスクラッチカットイン・・・そして、段々と歌詞とグルーブに引っ張られ、気づいたらサビで絶唱です!!

 う~ん、この選曲とストーリーの作り方も上手いですね・・・実は第2のピークと設定をしてたのですね!!

 まず、MUROさんは14でピークを作ったわけですが、そのままピークを引っ張らず、15~17でブレイク(=休憩)を挟み、クールなグルーブを上手く演出していました。

 この18も、そのクールな流れで選曲をしているので、違和感なく入っていくのですが、上手いな~と思うのが、この曲の歌が徐々に盛り上がっていく構成になっており、この点を踏まえてピーク設定をしていたことです。
 つまり、18の「曲の中」だけでピークまでの道筋が描けるので、フラットな状態になるように17までの選曲とDJミックスをしていたんですね・・・こういう「あえて盛り下げる」ストーリーを入れてた点は、やっぱり上手いですね。

 そして、その盛り上げた曲がJetsですよ・・・やっぱり、MUROさんの選曲力は半端ないです!

 このJetsですが、80年代にヒットした兄弟グループで、ジャンル的にはポップスになり、昔の曲ではあるものの、どちらかというと「恥ずかしポップス」になるかと思います。

 「恥ずかしポップス」は、私が勝手に作った言葉ですが、その当時は大ヒットして人気だったけど、数年経つと聞くこと自体が恥ずかしいみたいな曲のことを指します・・・皆さんもありますよね?
 特に、社会全体で共有された「恥ずかしポップス」ほど扱いはひどく、当時売れに売れたレコードは、中古レコード屋さんの100円コーナーに投げ売れるなど、音楽の価値観自体も否定的になってしまいます。

 そんな背景がある中、MUROさんはJetsを選曲したわけですが、こういった姿勢を見るたびに、掘るという行為には「壁を作ってはいけない」ということを、強く戒めてくれます。
 まあ、MUROさんがこの作品を作るにあたって参考にしていたNYのDJのミックステープでは、こういった「恥ずかしポップス」を含む曲を、イイものはイイとしてプレイしていたので、そういった点も参考にしていたのかと思いますが、ポップスでも胸を張ってピーク時に使うは、忘れてはならない精神だと思います。


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19 Four Tops / Ain't No Woman (Like The One I've Got)
 
 そして、最後は19「Four Tops / Ain't No Woman (Like The One I've Got)」で、クラシックなソウルで優しく終わっていきます。

 ここも個人的には「ニヤっ」とする部分で、A面の最初(Aretha Franklin)もクラシックなソウルだったので、最初と最後を同系統の曲にしているんですね・・・全体のストーリーを考えると、なぜかグッと締まるので、上手い選曲です。
 なんでしょう、01のArethaの説明では、飛行機が離陸する話を書きましたが、気持ちいい飛行を終え、目的地の空港に飛行機が降り立ったイメージが19にはあり、粋な選曲ですね~

 これでA面の45分間の紹介は終わりです・・・テープはB面に切り替わります・・・




 
3-2 作品紹介 B面

<Track List>
01 Mtume / C.O.D. (I'll Deliver)
02 Natalie Cole / I Wanna Be That Women
03 The World's Famous Supreme Team / Hey DJ
04 Rick James / Mary Jane
05 New Edition / Mr. Telephone Man
06 Bee Gees / Love You Inside Out
07 Daryl Hall & John Oates / One On One
08 Heatwave / Mind Blowing Decisions
09 Gene Dunlap featuring The Ridgeways / Before You Break My Heart
10 DeBarge / Stay With Me
11 Chocolate Milk / Girl Callin'
12 Curtis Mayfield / You're So Good To Me
13 The Futures / Ain't No Time Fa Nothing
14 Hubert Laws feat Debra Laws / Family
15 Rufus feat Chaka Khan / Stop On By
16 T.Y / Windy Lady
17 J.R. Bailey / That's Love
18 Dazz Band / Everyday Love



(1) 起 

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01 Mtume / C.O.D. (I'll Deliver)

 では、次はB面の紹介です・・・こちらも大好きなミックスなので、詳しく紹介をしたいと思います。

 B面の1曲目は、80年代のR&Bになる01「Mtume / C.O.D. (I'll Deliver)」から涼しくスタートします。

 まず、選曲面から紹介をすると、B面もA面と同様にSoulやR&Bなどを中心に選曲していますが、A面に比べるとちょっとアップ感が足された選曲になっているかな、と思います。
 A面の方は、どちらかというと「チル感」が強く、B面は、そのチル感があるものの、もう少し「躍動感」がある感じに選曲をし、その選曲に従ってDJミックスがされており、なかなかの内容です。

 これは、BPMの動き方を見てもそうで、A面はスタート時が70前半のBPMで、徐々に80後半から90前半にピーク上げをしていたのに対して、B面ではスタートの01の時点で93BPMになり、その後は上げていくものの90後半から100を維持しており、これだけでも躍動感があることが分かるかと思います。

 ただ、BPMの動きだけでは説明ができない「グルーブの変化」「ストーリー作り」がB面でも冴えており、素晴らしい内容になっているので、以下で詳しく紹介をしましょう。

 なお、蛇足的な話ですが、B面最初の最初に入る女性ボーカル「♪C'mon~、M、U、R、O・・・」は、MUROさんが当時作った12inichである「Delivery」からの一節を使用していますね~


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02 Natalie Cole / I Wanna Be That Women

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03 The World's Famous Supreme Team / Hey DJ

 01からユックリとスタートした後、スクラッチカットインで02「Natalie Cole / I Wanna Be That Women」に繋ぎ、少し華やかでありながら、爽やかな展開になります。

 まず、選曲面の話ですが、この02は、88年にリリースされた女性シンガーのシングルB面曲で、やっぱりいいところを掘ってきますね・・・聞いているだけで、爽やかさがあり、まるで、真夏のNYのストリートで、消火栓を抜いて、みんなでシャワーを浴びているみたいな、そんな爽快感があります。

 その一方で、この辺の曲が「Diggin' Ice」の象徴的な曲なのかな~とも思います。

 それは、私としては、このDiggin' Iceが、実は「80年代R&B」の良さを表現するためのミックス作品であると考えているので、こういった爽やかな曲を、上手く紹介している点は見逃せないからです。

 その意味で、次の曲にあたる03「The World's Famous Supreme Team / Hey DJ」も鉄板で、この曲に関しては「光らせ方」が最高です!

 その光らせ方とは、両方の曲とも「爽やかさ」がキーワードになる曲で、MUROさんは、その爽やかさというグルーブを生ませるために、02から03へは「ロングミックス」で繋いでおり、これが超絶的に気持ちいいですね!

 まず、ロングミックスとは、次の曲に変えていく際、あえて前の曲と次の曲が同時に鳴らしながら、段々と次の曲に移行していくDJミックスで、基本中の基本のDJ技ではありますが、結構難しいDJミックスになります。
 なぜなら、同時に音を鳴らすので、両方の曲のBPMを揃える必要があるし、更に、同時になった時のメロディーが調和するかどうかも大切で、そのDJの基本的なDJ技術とセンスがないと完成しないことから結構難しいのですが、ドンピシャで合った時は、うまくグルーブが続き、それどころかグルーブが更に光るので、利用方法によっては大きくプラスに働きます。

 そして、今回の作品では、実はこの部分だけロングミックスをしており、02のグルーブを上手く伝えつつ、03の爽やかさを更に開花させており、素晴らしいDJミックスになっています。

 実際には、02のサビ終わりで、アカペラブレイクっぽくビートダウンした箇所を狙い、そこに03をロングミックスで被してきており、これは絶妙すぎて最高です。
 特に、なかなか気づきづらい話ですが、この部分のロングミックスを行うために、両方のBPM設定を絶妙に行っており、02は+2.3程度、03は-2.0程度の設定で、両局とも絶妙に原曲を壊さない程度のピッチアップ・ピッチダウンをしており、この辺のDJミックスの技も上手いですね!



(2) 承 

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04 Rick James / Mary Jane

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05 New Edition / Mr. Telephone Man

 B面は、軽快に01→02→03と続き、序盤から爽やかさを軸としたアップなグルーブで進んでいきますが、ここからがMUROさんの「HipHopらしさ」が出た流れになり、最高な展開を聞かせてくれます!

 まず、03で爽やかで、アップ感もあるグルーブを作った後、そのアップな感じを引き受け04「Rick James / Mary Jane」に豪快にカットイン・・・だけど、全然グルーブは繋がってて、Rick Jamesの躍動感を上手く引き立てています。
 そして、その次が、これこそBest of Diggin' Ice Songな05「New Edition / Mr. Telephone Man」にスクラッチを交えながら絶妙にカットイン・・・この入り方は絶妙で、スクラッチが05のメロディーになったかのような入り方で、上手すぎです!

 個人的にも、そして皆さんも、このDiggin' Ice 96を象徴する名ラインなので、選曲の素晴らしさも推したいところですが、ここではMUROさんの「HipHopらしさ」を紹介しましょう。

 この作品のDJミックスを見たとき、カットインやショートミックスを多用しており、その点でもHipHopらしいDJミックスになっているのですが、個人的にはこの2曲が一番「HipHopらしい」と考えています。

 その大きな理由は、実は方向性が大きく違う曲を、HipHopらしい感性で一つのグルーブにまとめていることになります。

 それこそ、04のRick Jamesは、メロウさや爽やかさもありますが、どちらかというとファンキーな曲、そして、05のNew Editionは、とにかくレイドバックした質感で爽やかでクールな曲になり、ある意味で「水と油」な曲になります。

 そして、これらを「一つのグルーブ=爽やかさ」でまとめる中で、MUROさんは、これらの曲に、実は「躍動感」を持たせてDJプレイをしており、その躍動感の持たせ方がHipHopだな、と思います。
 例えば、両曲とも、実はBPMが90前半の曲なのですが、+3以上のピッチアップをして、98BPMに調整をしてDJミックスをしていたり、躍動感という「ノリ」を上手く利用し、スクラッチカットインなどで押し通しちゃったり・・・まさに「HipHop」です。


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06 Bee Gees / Love You Inside Out

 そして、05のNew Editionをプレイしたことで更に爽やかになった状況で、スクラッチカットインで次の曲である06「Bee Gees / Love You Inside Out」をプレイ・・・これもHipHopらしい入れ方ですし、選曲もHipHopですね!

 まず、選曲ですが、私としては「流石MUROさん!」と言わざるを得ない選曲です。

 この曲自体は、あのBee Geesの1979年リリースのアルバム曲で、Saturday Night Feverでの大ヒット以降のディスコ路線で作られたアルバムなので、前述した「恥ずかしポップス」になります・・・記憶だと、当時100円で必ず買えたレコードですね。

 ただ、面白いもので、このテープがリリースされた1996年においては、このBee Geesの曲をカバー(サンプリング)した「Total / When Boy Meets」がヒットし、こういった元曲もイイねと突然に評価された経過がありました。
 ちょっと前後関係の裏がとれてないので明確な指摘ではないですが、Totalが1996年2月リリース、Diggin' Iceが同年の夏に出たことを考えると、MUROさんとしては「ネタ曲」という意味も込めて選曲していた部分があるのかな~とも思います。
 1996年当時に、このテープを普通に聞いてたら「あっ、Totalのネタだ」となるわけで、そういったHipHopらしい遊び心も入れてあるのは粋ですね!



(3) 転 

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07 Daryl Hall & John Oates / One On One

 そして、07以降はピークに向けての戦略も含めた選曲とDJミックスがあり、流れ的には「転」に移ります。

 06のBee Geesの後は、同じBlue Eyed Soul繋がりなのか、07「Daryl Hall & John Oates / One On One」を選曲し、グルーブを落ち着かせる方向に進ませます。
 ここも、スクラッチカットインで入れてくるのですが、タイミングもグルーブも絶妙に合ってて、素晴らしいですね・・・Hall & Oatesの持つクールで哀愁的ななんだけど、どこか暖かいグルーブが際立っていますね。

 少し選曲について思うところがあり、07までの選曲を整理しましょう。

  01 Mtume / C.O.D. (I'll Deliver)
  02 Natalie Cole / I Wanna Be That Women
  03 The World's Famous Supreme Team / Hey DJ
  04 Rick James / Mary Jane
  05 New Edition / Mr. Telephone Man
  06 Bee Gees / Love You Inside Out
  07 Daryl Hall & John Oates / One On One
 
 あえて、ここまでの選曲を並べ、青と赤の色を付けてみました。青は比較的にクールな曲、赤は比較的ファンキーさがある曲になり、面白いことに青と赤が交互になっています。

 色づけすると恣意的になるかもしれないですが、私としては、起から承までは、こういった交互選曲を、あえて「幅を持たしながらの選曲/DJミックス」をしており、それが「爽やかさ」というグルーブにまとめられていたんだなと、思っています。
  
 普通、こういったコンセプトのあるミックス作品だと、似ている曲を並べる方法が定説で、それこそ青のは青のでまとめる、赤のは赤のでまとめることが多いと思います。
 このまとめ方も間違えではないのですが、今回のB面の選曲を見比べ、実際に聞いてみると、各曲は違う方向性なんだけど、不思議と「爽やかさ」という観点でまとまっており、凄い聞きやすいですし、印象にも残ります。

 そう、印象に残ることが大切だったんですね・・・

 これもHipHopらしい発想ですが、人とは違うことをすることで、聞いている者を引きつける効果があるわけで、それを実は実践していたのが、このラインだったのかもしれないです。
 
 このような経緯があったため、06までのストーリーが幅広になり、グルーブにも多様性が生まれていて、07にこれまでの爽やかなグルーブはしっかりと繋がり、07のHall & Oatesの曲の良さが光ったのだと思います。


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08 Heatwave / Mind Blowing Decisons

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09 Gene Dunlap featuring The Ridgeways / Before You Break My Heart

 そして、07で出したちょっと暖かいグルーブを引っ張り08「Heatwave / Mind Blowing Decisions」にカットイン・・・当時としても、この曲が「ネタ曲」的な意味もありますが、聞いていると素直にホンワカするイイ曲ですね。
 更に、交互選曲の流れも含め、09「Gene Dunlap featuring The Ridgeways / Before You Break My Heart」にカットイン・・・今度は少しレイドバックし、聞いているとリラックスします。

 ただ、この流れでは、08までは「上げ」の流れで、09は次を見越しての「下げ」の流れになります。

 09の下げについては、10の所で触れますが、08までは、交互選曲をしながら、実はBPMをながらかに上げており、93がスタートBPMで、この08では100BPMになっていました。
 意味合いとしては、徐々にグルーブを高めていることの表れだと思いますが、交互選曲をしながら、さりげなくBPMを上げていたのにはビビりますね。

 また、選曲的には、B面前半までは80年代ポップスやR&Bが中心だった中で、そこまで渋い曲はなかった流れで、この2枚の選曲は渋いところを押さえてますね!
 08のHeatwaveは定番ですが、09のGene Dunlapは、記憶だとFree Soul周辺で評価されてた曲ですよね・・・今でも、ちょっと高額なレコードですが、こういう深い曲もさりげなく選曲している点も素敵です!!



(4) 結 

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10 DeBarge / Stay With Me

 そして、09で気持ちいいグルーブを堪能し、リラックスした耳に、突然、聞き覚えのあるスネア2連が優しくカットインし、10「DeBarge / Stay With Me」を選曲・・・もう、ここは最高の一言で、いつ聴いてもグッときます!!

 まず、選曲的には、A面の18「The Jets / You Got It All」と同じ方向性で、曲自体も「恥ずかしポップス」でありながら、歌とメロディーが素晴らしい曲なので、気づいたら歌とグルーブに乗せられ、涙を流しながら「♪Stay With Me~」と歌っている自分がいます・・・ほんと、素晴らしい選曲だし、この曲を光らせる演出も素晴らしいですね・・・

 この素晴らしさを考えると、やはり、これまでの「ストーリー」が、この曲に向けてピーク設定されていたことが大きいでしょう・・・

 まず、BPMから見る流れを考えると、01から徐々に上げてグルーブを高めていた一方で、この10の直前の09では、BPMを少し落としています。また、ストーリーについても、前述した交互選曲をしながら爽やかな方向性でストーリーメイクをしつつ、段々と聞いている人の心を開放するストーリーになっています。
 そして、一番の肝は09で、ここでBPMもストーリーもあえて「下げて」いて、10のDeBargeを盛り上げるための「タメ」を作っており、ピークを華開かせるために、あえて盛り下げていたようです。

 この手法、実はA面の14「Patrice Rushen / Remind me」と同じような手法で、Remind Meと同じようなジェットコースター・メソッドを活用していたんですね。

 ただ、どんなに御託を並べても、この曲の「良さ」を光らせたMUROさんのセンスには敵いません・・・

 なんで、こんなに素晴らしい曲になるんでしょうね・・・DJの「マジック」が凝縮された部分であることは間違えありません!!



(5) 承→転 

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11 Chocolate Milk / Girl Callin'

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12 Curtis Mayfield / You're So Good To Me

 10のDeBargeで、ひとしきり泣いた後は、これまたナイスなスクラッチカットインで11「Chocolate Milk / Girl Callin'」を選曲し、若干の躍動感を残しながらメロウな方向にストーリーは展開していきます。
 そして、そのメロウな方向からの12「Curtis Mayfield / You're So Good To Me」へ・・・いやいや、ここでのCurtisの光らせ方も素晴らしいですね!

 まず、この後の展開を説明しておくと、最後の最後にあるピークに向けてストーリーを作り直していく展開で、これまでのストーリーやグルーブを上手く活用しながら進んでいきます。

 その中で面白いのが、小刻みに「下げた曲」→「グッとくる曲」を交互に選曲しており、聞いている者の興味を逃がさない方法で選曲/DJミックスをしてて、大変上手いです。

 ここだけを例にとっても、11は下げた曲、12はグッとくる曲に設定してて、こういった「対比」があることで、グッとくる曲が光っていることが手を取って分かります。


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13 The Futures / Ain't No Time Fa Nothing

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14 Hubert Laws feat Debra Laws / Family

 そして、その流れは、12のCurtis以降も続き、13「The Futures / Ain't No Time Fa Nothing」では落とし、14「Hubert Laws feat Debra Laws / Family」ではグッと上げてきて、徐々にエンディングに向けてグルーブを高めていきます。

 ただ、ここでは13の「Family」の選曲について、指摘しないといけません!

 もー、この曲こそ「MUROクラシック」で、MUROさんからこの曲の良さを教わった方は私だけではないかと思います!

 まず、MUROさんの選曲については、独自の審美眼で見抜き、その曲を光らせるために最良のDJミックスを施すことで、その曲を普通に聞いただけでは分からない「カッコ良さ」がプラスになった状態で、曲が披露されています。

 つまり、MUROさんのDJを通すことで、曲が格段にカッコよくなる訳です・・・

 そして、そういった曲を「MUROクラシック」と呼び、それらの曲を聞いた者は、その曲の真の素晴らしさを知ったのです・・・

 私自身は、この曲を、このテープではなく、MUROさんがメインDJを務めていたラジオ番組「Hip Hop Journey - Da Cypher - 」で知り、すぐに好きになりました・・・
 MUROさん自身は、割とピッチアップしながらプレイし、若干の躍動感を足した感じがフレッシュで、子供心にイイ曲だな~と思い、MUROさんのお店である「Savage」でレコードを買わせていただきました・・・写真のレコの左上には緑色のシールが貼られていますが、これはSavageの値札で、緑は3000円だったと思います? 

 そして、家に帰ってレコードを聴いて思いました・・・ああっ、掘るって「こういう」ことなのか・・・

 もう、これは当時の私が思ったことなので、皆さんに該当しないかもしれないですが、このアルバムの1曲目が「Ravel's Bolero」になり、これはクラシックやバレエで使われている曲のカバーで・・・ガチガチなクラシックだったので、MUROさんはクラシックまで掘っているのか、と勘違いをしていました(笑)

 ただ、ただ、誰もが知らない曲を掘り当てて、カッコよく披露する姿がを目の当たりにして、これこそ「掘る」なんだと知りました・・・そう、レコードを買うのではなく、どうやったら「カッコよくなる」かも掘らないといけないんですね・・・

 なお、完全に蛇足ですが、Familyは、こんなに好きな曲なので、昨年、念願のプロモ12inchと巡り会えました・・・20年間、好きで好きでたまらない曲だったので、嬉しさはプライスレスでした!



(6) 転→結 

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15 Rufus feat Chaka Khan / Stop On By

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16 T.Y / Windy Lady

 そして、「下げた曲」→「グッとくる曲」の交互選曲は、最終段階に向かい、最高のストーリーを描きます・・・
 
 14の後は、15「Rufus feat Chaka Khan / Stop On By」を優しくプレイし、流れ的には「下げ」としてプレイをします・・・この曲もアルバムの隠れた1曲で、イイ曲をほんと出してきますね~

 そして、14がサビ終わりでブレイクダウンしたところを狙い、驚愕の一曲をプレイ・・・16「T.Y / Windy Lady」です!!

 まず、このテープを1996年、遅くても00年代前半までに聞いた方なら、絶対に「ビビる」選曲ですよね・・・私自身も、就職をする直前である、2002年ごろにこのテープを中古で購入し、この選曲には大いにビビりました・・・

 だって、日本語の曲ですよ・・・

 諸般の事情があり、アーティスト名は隠しましたが、当時、DJをしてたら、日本の曲は一方的に「カッコ悪い」と思う風潮があり、新しい曲でも、古い曲でも、日本語だったらアウトと思う風潮がありました・・・
 これは、DJという文化が海外から来た文化なので、無意識に「海外のが良い」と考えていたことが大きく影響してて、今となっては黒歴史以外の何物でもない考え方ですね・・・

 そんな背景がある中、達●さんの曲をプレイ・・・もー、他の曲とも引けを取らない黒さがカッコよく、一発でノックアウトされましたね!

 先ほどの14のFamilyにも通じますが、この選曲も「MUROさんの掘りの深さ」を表す最強の1枚かもしれません・・・それは、「誰の評価も関係ない、自分を信じて掘るんだ」ということに他なりません。


 そして、DJミックスや、ストーリーの流れでも、この達●さんの曲は非常に重要でした・・・

 それは、この作品で多く用いられている「ピーク前にあえて落とす選曲/DJミックス」になるからです・・・

 ただし、この場合、グルーブを落とすのではなく、日本語という「意外性」を出したことで、ストーリーに起伏が作られ、ピーク前の「落とし」になっていました・・・


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17 J.R. Bailey / That's Love

 そして、16の達●さんのサビ終わりの絶妙なタイミングで17「J.R. Bailey / That's Love」をカットイン・・・イントロフォーンで大爆発、そしてドリーミーな曲にうっとりで、最高のピークを迎えます!!

 まず、選曲的には、どちらかというとマイナーなソウルのアルバムから、アルバムに隠れた1曲をチョイスしてて、これも「MUROクラシック」な1枚ですね。
 歴史的な経過では、どうやらFreeSoul周辺では既に発掘されたようで、MUROさんもその流れで知ったのかと思いますが、MUROさんらしいピッチアップ(BPMだと95→104)で更にカッコいい曲になっています。

 ほんと、MUROさんの「ここぞという時にカットイン」は最高で、ここのカットインも強力ですね!

 もちろん、このカットインに行くまでにも、選曲を積み重ねて、この曲が盛り上がるようなストーリーを作ったり、ここぞというタイミングを見つけ、確実にDJミックスの中で落とし込むことなど、地道な努力があっての「カットイン」なのですが、ほんとこのカットインは最高です!
 実は、構造的には、A面の14のRemind Meと同じ構造なのですが・・・これを作り上げたことは、MUROさんのセンスがあってのことですし、無名な曲でもピークを作ってくるあたりは、MUROさんの選曲とDJミックスが誰にも負けないことを示しています!!

 また、この17のイントロカットインですが、他の曲などで同じことをやっても、MUROさんのこの作品のように、カッコよくプレイが出来ません・・・
 私自身も何度も試してみましたが、やっぱり、選曲の積み重ねによるストーリーと、直前のタメが重要なんでしょうね・・・


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18 Dazz Band / Everyday Love

 そして、オーラスは18「Dazz Band / Everyday Love」で、17のドリーミーなグルーブを引っ張り、作品としてオーラスを意識した華やかで、かつ、爽やかな曲になり、大変素敵なエンディングですね・・・

 最後まで、あえて言及しなかったですが、最後は「言葉繋ぎ」ですよね・・・そう、「Love」で繋いでいますよね・・・

 正直、日本人であるMUROさんが、どこまでプレイした曲の歌詞や意味を理解して選曲やDJプレイをしていたかは分かりません・・・
 ただ、要所要所で「あっ、きっとこの意味で繋げているな」と感じる部分はありました・・・その分かりやすい所がここになります。

 少し話が脱線しますが、なぜ、英語が分からない日本人が、どうしてここまで英語の曲に熱心になっているのでしょうか・・・

 私としては、日本人は「雰囲気を読むのが上手い」ことと、「海外文化を自分流にアレンジして楽しむ」ことに長けていることが背景として大きいと思っています。

 つまり、「雰囲気を読むのが上手い」=「グルーブを読み、上手くコントロールできる」ことであり、「海外文化を自分流にアレンジして楽しむ」=「DJミックスにストーリー性や掘りを持ちこみ、日本にしかないミックステープを作った」ことになります。

 そう、この答えは「Diggin' Ice」であり、日本の「ミックステープ文化」に他なりません・・・





4 さいごに

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 いやいや、書きましたね・・・簡潔にまとめられず、すみません・・・

 一応、最後なので「まとめ」としましたが、今回の紹介で、まずは「DJ MURO」という世界が「掘り」と「ミックステープ」という大きなテーマで作られており、そのテーマがMUROさん独自の「選曲」と「DJミックス」で作られていることが示されたと思います。
 そして、この作品においては、様々な「選曲」と「DJミックス」を組み合わせて、誰にも作れないグルーブとストーリーをベースに、「誰が聞いても涼しい世界」をクリエイトしており、素晴らしいの一言ですね!
 
 そして、ここで更にまとめをするのもアレですが、今回の紹介を通してDiggin' Iceが「最強のミックステープ」であり、20年を経って今でも、その輝きが失われないことが分かったかと思います。
 この作品を分析すればするほど、実はミックステープを作るための「基礎」が上手く活用されているので、ミックステープを作る方には、是非、参考にしてほしい作品になります。
 
 そして、このテープこそが「日本のミックステープ」を象徴する作品であり、その創造性と作品性に溢れた作品があったからこそ、日本のミックステープ文化は発展したのだと思います。
 この作品を通してミックステープという存在を考えると、音楽を詰め込んだコンピレーションではなく、DJが作った「素晴らしい音楽作品」であることが分かるかと思います・・・

 是非、興味を持たれた方は、作品を手にとって、素直に聞いてくださいね・・・きっと、貴方の心を優しく冷やしてくれますよ!




<Release Date>
Artists / Title : DJ MURO 「Diggin' Ice - summer of 96」
Genre : Soul、JazzFunk、Disco、R&B、Pops、City Pop・・・
Release : 1996年夏
Lebel : KODP No Number




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5 コラム(小ネタ集)

 以下では、本文では紹介出来なかった内容をコラムとして掲載します。


(1)作品のプレスについて

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①テープ版 セカンドプレス(丸型ケース)

 まず、この作品は1996年に作られた作品ですが、大変人気だったことから、テープ時代でも何度かプレスされたようで、2回目以降は、写真の丸型ケースで流通していました。テープ時代のDiggin' Ice自体、97年以降は丸型ケースを使っているので、それに合わせた形になるようです。
 なお、私が持っている丸型がそうなのか、本文の注意で触れた「A面とB面が逆」が、この丸型で発生しており、結局どっちがA面なのかが分かりません・・・


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②CD版

 そして、CD時代以降も人気だったことから、2011年に待望のCD再発があり、それ以降も何度かプレスをしています。
 なお、CDではないですが、2016年にはLP版での再発もありましたね・・・


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●デモテープ版

 そして、これはマニアなら驚愕なテープではないでしょうか?

 よく、当時の方のお話で「Diggin' Iceのデモテープを聞いて・・・」みたいなことを聞いてて、本当にあるのかな~と思っていたら、こんな資料が見つかりました。
 これは、タワーレコード渋谷店で絶賛展開中のMUROさんのPop Up Shop内において、MUROさんの私物資料集の中で発見をした資料で、おそらく90年代中ごろのファッション誌「Woofin'」のMUROさんの連載ページの切り抜きだと思われるものです。
 ジャケがプレス版と違うことを考えると、これがデモテープになると考えるのが自然で、資料を読むと「King of Diggin'」の増刊号との記述があったり、ジャケが微妙に違って手刷り感があったり・・・マニアには刺激が強すぎます(^^;)
 もし、これが通常版の内容違いだったら、お祭りですね・・・どうなんでしょうね??



(2)作品のアートワークについて

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 シリーズを通して、夏らしい爽やかなジャケットが印象的で、目で見ても涼しくなるのがDiggin' Iceの特徴かと思います・・・

 ただ、凄い重要な情報としては、初期作にあたる、今回の1996年版のアートワークを担当されたのは、2010年に残念ながら他界された「Nujabes」さんだったことになります。

 Nujabesさん自身は、MUROさんの初期テープである「King of Diggin'」のデザインを担当(クレジットあり)してたことから、MUROさんの初期テープも担当されていたようで、以前、雑誌の企画でMUROさんと対談をさせていただいた際に、このことを質問したら、Ice96もNujabesさんが担当したことをMUROさんから教えて頂きました。
 97年以降がNujabesさんが担当したかどうか分からないのですが、才能のある方に支えられた点も忘れてはいけませんね・・・



(3)作品のアイデアの源泉

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 文中でも触れましたが、MUROさん自身、NYのDJが作った夏物=Cool Outを聞いたことが、Diggin' Iceを作る上で大きかったようです。前述した対談では、「DJ Doo Wop / Cool Out」を聞いて影響を受けた話をされてて、この辺の大御所である「Kid Kapri」「Biz Markie」にも影響を受けたようです。
 なお、全く違う話ですが、確か、対談の際、達●さんの曲を使ったことについてお伺いしたところ、当然ながら本人の耳にも届いたけど、MUROさんも達●さんも同じレコード掘りだったことから、達●さんの「君もレコード掘ってるんだって?」の一言で御咎めが無かったそうです・・・間違ってたら、すみませんですが、イイ話ですね~



(4)今回の記事の制作資料

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①作品のBPMや選曲に関するメモ (※クリックすると大きくなります)

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②A面のBPMの動き

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③B面のBPMの動き

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④選曲の傾向

 今回、この作品を「深く」紹介したいと思い、出来ることはなんでもやろうと思い、これらの資料を作り、作品紹介に生かしました。
 特に、BPMについては、プレイしたBPMとオリジナル盤のBPMの比較(=ピッチアップ~ピッチダウン)、BPMの変化を研究し、上手く紹介に落とし込みました。
 また、選曲の傾向も①なり④で調べており、こちらは、数字の反映は出来ませんでしたが、それなりに記事に落とし込みました。
 どちらも、大変、地味な作業だったので、私の努力が報われた作品紹介になったでしょうか・・・まあ、まさかBPMを手計測で計るとは思いませんでした(^^;)





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<備考>
 この記事は、以下の記事の派生記事として作成しました。よろしければ、以下の記事もご参照ください。

 祝・ミックステープ4000本突破記念 「ミックステープを深堀りする」










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コメント
この記事へのコメント
いつも楽しく読ませていただいてます。
まもなくdiggin ice 2018 が発売になるのでナイスなタイミングでの素晴らしい記事ですね。
diggin ice 96 は自分も大好きなmixで季節問わずお世話になってます。
A面4曲目のjeffreyosborneと5曲目のisleyjasperisleyはそれぞれmadskillzとmicgeronimoの元ネタでどちらもclark kent作品ですよね。密かにclark kent繋ぎになってるあたりもbな輩にはたまりませんね。
2018/07/03(火) 00:37:19 | URL | kuma #-[ 編集]
お見事!
これは凄い分析、、、毎回恐れ入ります。
このテープは自分も大学入学した97年に買って聴きまくりました。
趣味の合う友達と、A面が良いかB面のが良いかで議論したのを覚えています。ちなみに僕はB面派でした。
MTTさんの最初の7曲の赤と青の考察で20年以上経った今、なぜ自分はB面派だったのか分かりました。あのクールな感じとホットなクルーヴの揺さぶりが堪らなかったのだと思います。あと、自分も山達のところでヤラレ、中古レコ屋に直行しました。買ったのはベスト版のやつですが、、、
今後も楽しみにしています。ガンバって下さい。
2018/07/04(水) 14:16:18 | URL | SUGI #-[ 編集]
Re: 連名で失礼します
>kumaさん

コメントを頂き、ありがとうございます!
もしかしたらSureshotさんでしょうか? いつもお世話になっております!
いやいや、Clark Kentネタづなぎが隠れてたなんて・・・これは、ご指摘を頂き、初めて気付きましたが、も~、素敵すぎます!
ネタの指摘は、私自身が知識がなかったので、あまり触れませんでしたが、もしかしたら、もっと隠れているのかな・・・ちょっと探してみよう!

ではでは、今後ともよろしくお願いいたします!


>SUGIさん

コメントを頂き、ありがとうございます!
あの赤青の指摘は、今回、深く聞きこんで初めて気付きました・・・ただ、あの理屈(?)で考えると、あの部分の素晴らしさが光ってた理由みたいのは導き出せたかな~と思います。
また、私も達●さんは、最初はベスト盤でした・・・あの頃は安かったですね(^0^)

ではでは、今後ともよろしくお願いいたします!





2018/07/07(土) 00:05:01 | URL | mixtapetroopers #EK3m6DHM[ 編集]
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