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DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 1-4」(詳細版)

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 今回は、久しぶりにMTTらしい記事を公開します!!

 こんな時代だからこそ聴くべき「この名作」を、ディープに紹介したいと思います!!





1.はじめに

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 今回は、DJ MURO(ムロ)さんの大名作の1つである「Super Disco Breaks Lesson 1-4」を紹介します。

 この作品は1998年に発表した作品で、このブログを開始した直後の2009年に一度紹介し、さらに2010年にトラックリストを公開した作品になります。

 このインパクトのある銀ジャケは唯一無二だし、なによりもMUROさんにしか作れない最高の選曲とDJミックスが発揮されていることから、ご存知な方が多い作品ではないでしょうか。

 また、この作品については、ミックステープの歴史の中で重要度が高い作品とも言われています。
 それは、この作品を聴いて影響を受けた方の中には、DJスタイルが変わったり、レコードを掘る範囲や考え方が変わったり・・・うん、この作品を聴いて「人生が変わった!」という人がいるぐらい、ミックステープの中では重要度の高い作品です!!

 私自身も、結果的には後追いという形になりますが、この作品を20代前半に聴いて、選曲の素晴らしさ、DJミックスの素晴らしさ、何よりも「Bボーイが聴いたら踊りたくなる内容」にヤラれ、その後はMUROさんの背中を追いかけることになりました。
 それこそ、トラックリストがないこの作品を、自分の足で収録曲を探してトラックリストを作ったり、クラブで音と戯れながら真っすぐに踊ったり、そして、このブログを通してDJ文化やDJの音楽の素晴らしさを発信したり・・・今の自分がいる「きっかけ」を与えてくれた作品になります。


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 そして、今回、この作品を新たに紹介したいと思い、改めて記事を書くことにしました。

 実は、昨年末に引っ越しをした際、レコードとテープの荷造りのBGMがこの作品になることが多く、何度も何度もこの作品を聴いたので、それで改めて作品を紹介したいと思ったのがきっかけでした・・・

 引っ越し期間中、本当に何度も聴いたので、気づいたら選曲やDJミックスのタイミングを体が覚えてしまい、10年前に気付かなかった選曲の妙やDJミックスの素晴らしさに気付きました・・・
 それこそ、この作品の1曲1曲を詳細に紐解いていくと、その素晴らしさが本当にヤバくって、早くブログで紹介したいと思いながら、引っ越しの作業をしていました・・・

 一方で、この作品は、MUROさんの作品の中ではDiggin' Iceと比べると、明確に評価されてない作品」との思いが以前よりあったので、「どうやったら作品の良さを明確に伝えることができるのか?」をしばらく考えていました。

 たぶん、この作品が好きな方でも、周りにその良さを伝えようと思ったら、「ノリノリで最高な作品だけど、さて、この良さをどう伝えたらいいんだろう?」と思うのではないでしょうか?
 うん、この作品って実は分かりにくい作品なんですよね・・・パッと聴くと、ほんとメチャクチャカッコいいのですが、作品のカッコよさを言葉に表すのが難しい作品だと思います・・・

 そこで、今回の記事では、私の視点で「この作品の素晴らしさ」を整理することにより、この作品を詳細に紹介したいと思います。

 以後では、この作品の背景や選曲の方向性を紹介した上で、Lesson 1からLesson 4を順番に紹介します。
 気づいたら長文の記事になってしまったので、お暇な時に読んでいただければ幸いです。

 なお、蛇足話ですが、引っ越し後、運搬用の箱からレコードを取り出し、そのレコードを棚に収めながら思ったのは、MUROさんの背中を追いかけながらこれらのレコードを1枚1枚と集めた結果が「このレコード棚にあるのかな?」と思いました。
 そう思ったからか、自然とMUROさんへのリスペクトを込めてこの記事を作成していました・・・MUROさんも喜んでくれるといいなぁ~


<備考>
・この記事の紹介をもって2009年の紹介記事は旧記事とさせていただきます。ただし、この作品の全容をコンパクトに紹介し、かつ当時の私の思い等を紹介していますので、ご興味があれば、該当記事をご一読ください。
・2010年の記事に掲載したトラックリストは、この記事の公開に伴い全体的な見直しを行い、該当記事に修正版を掲載しました。本記事では修正後のトラックリストに準じて作品を紹介します。
・この作品は、リリースされたフォーマットによって各ミックスが「Lesson 1,2,3,4」と表記されていたり、「ABCD」と表記されていたりします。そのため、この作品紹介では、1998年に初めてリリースされたテープ版で用いられていた「Lesson 1,2,3,4」で紹介します。
・この作品は、テープ版やCD版が何度かプレスされていますが、プレスによってはLesson 3のミックスとLesson 4のミックスが逆になっているものが存在します。そのため、この作品紹介では、1998年に初めてリリースされた「テープ版の収録内容」で紹介します。
・本記事で紹介している収録曲のBPMやピッチアップの可変数は、筆者が手集計で計測したものになります。そのため、実際の収録内容と多少異なる可能性があります。


<参考記事>
DJ MURO MixTape 作品リスト
DJ MURO MixCD 作品リスト
DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 1 - 4 」(旧記事・2009年)
DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 5 - 8 」
「Super Disco Breaks 1-4 & 5-8」トラックリスト公開





2.この作品の背景や選曲について

(1)Super XXX Breaksとは?

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 まず、今回紹介する「Super Disco Breaks」は、MUROさんのミックス作品において名物シリーズとも言える「Super XXX Breaks」(以下、Superシリーズ)の第1作目になります。

 Superシリーズは、ある特定のジャンルやテーマをMUROさんらしい奥深い選曲と洗練されたDJミックスでまとめたもので、テープ時代(1995年~2004年)には今回紹介するDiscoを始め、Funk、Samba、Reggae、Christmasが発表され、CDにフォーマットを変更して以降も様々なジャンルやテーマを題材にした作品がリリースされています。

 そして、このSuperシリーズの第1作目は1998年にリリースされた「Disco」になりますが、実は1998年より前にリリースしたミックス作品と比べると、この作品は少し違う方向性になっていました。

 また、「Disco」となっていますが、いわゆる70年代~80年代に流行した「Disco(ディスコ)」を中心としたものではなく、あくまでも「MUROさんが考えるDisco」を披露した作品となっています。

 この2点は以降で詳しく紹介します。



(2)DJスタイルの進化

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 まず、MUROさんのDJとしての歴史を振り返ると、1995年頃にリリースした「King of Diggin' 1」を初リリースして以降、大名作である「Diggin' Ice '96」「Diggin' Heat '97」のリリース等により、DJとしての認知度が高まっていった流れがあります。

 私自身の記憶を振り返ると、1995年~1997年頃は、まだ「Microphone PagerのラッパーのMUROさん」というイメージが強く、実際にもラップの楽曲(三者凡退、第3段落97ページ)等をリリースしていたことから、「ラッパーのMUROさんがアナザーサイドとして、Bボーイがチルれるミックステープをリリースした」というイメージでいました。
 実際にリリースされたミックステープも、MUROさんが得意とするHip Hopの元ネタを選曲したもの(=King of Diggin')だったり、その元ネタの延長線として、聴いててリラックスができる曲をジャンルレスに選曲したもの(=Diggin' Ice、Diggin' Heat)だったり、ある意味でラジカセやショックウェーブ等で聴くための「リスニング用の作品」が中心だったと言えます。

 それこそ、1995年~1996年頃のHip Hopと言えば「Nas / Illmatic」じゃないですが、白黒というかモノクロームが似合う感じの曲や服装がまだ人気で、クラブ等でも淡々と首を振っているのがカッコいいという流れがあり、ある程度はそういった流れに沿ったDJや作品作りをしていたのかもしれないですね。

 ただ、1998年にリリースされたSuper Disco Breaksは、これまでの作品と異なり「聴いたら踊りたくなる内容の選曲とDJミックス」を披露しています。

 これは「なぜ」でしょうか?




 まず、1997年頃の時代背景を考えると、Hip Hopの本場であるアメリカでは、Bad Boy系のパーティーノリなHip Hopが頭角を現してきたり、一方で日本においては、Hip Hop等のクラブミュージックが市民権を得るようになり、徐々にシーン全体の空気感が変わっていきました。

 この背景には、シーン全体で「DJを楽しむ機会が増え、みんながDJを素直に楽しむようになった」ことが大きいと思います。

 それこそ1997年は、渋谷の名物クラブ「Harlem」がオープンし、日本のHip Hopシーンにおいてクラブで遊ぶことが一般化しはじめたタイミングですし、そのHip Hopシーンをさらに広げたラジオ番組「J-Wave Hip Hop Journey - Da Cypher - 」が開始した年になります。

 そして、MUROさん自身も、こういったシーンの動きに沿って、クラブやラジオでのDJプレイを積極的に行うようになり、全国津々浦々のクラブで踊る人に対して、そしてラジオの電波を通して聴いているリスナーに対して、MUROさんにしか作れない素晴らしい「DJミックス」を届けていました。

 例えば、この頃のCypherでのDJプレイは、当時のHip HopやR&Bの新譜の選曲があったり、Diggin' Iceのようなメローな選曲があったり、今回紹介するSuper Disco Breaksのようなアッパーな選曲があったり、MUROさんのDJの幅は大変広かったです。

 特に、1998年2月に放送された回では、「Valentine's Dayミックス」としてHip HopやR&B、DiscoやSoulといったジャンルの音楽を巧みに選曲し、大変ノリノリなミックスを披露しており、今の私がいる原動力になった回になります・・・
 この回は本当に大好きな回で、上記の音源である独自編集をしたミックステープ「Da Cypher's Choice Vol.4」を作って聴き込んだほど好きで、その後、私がDiscoの曲を好きになったり、ブログを始めたきっかけとも言える選曲とDJミックスが披露されています。

 この頃のMUROさんの選曲を改めて考えると、多くの価値観のあるリスナーに受け入れてもらうために、もともとMUROさんが持っている広い音楽性をベースに、気づいたら選曲の幅が広がっていったのだろうと思います。




 また、MUROさんにおいては、ラジオだけでなく、クラブ等のDJプレイにおいても、その広がりがあったと思います。

 例えば、上記の音源は、1998年3月頃に渋谷harlemで録音されたとされるMUROさんのDJプレイの音源になり、先ほどのCypher以上にアゲアゲなDJプレイを披露しています。

 それこそ、MUROさんの横には、MUROさんが率いていたKing Of Diggin' Production(以下、KODPクルー)のサイドMCを配置し、MUROさんのDJに合わせてお客さんを煽ります。また、MUROさんもパーティーらしく常にテンションを上げていく選曲やDJミックスを披露しており、最高の一言です!!
 特に、MUROさんのDJミックスは、クラブだとHip Hopライクにガシガシと進めていくことが多く、小刻みなカットインや豪快な2枚使い等により、MUROさんの素晴らしい選曲をさらに輝かせています。

 そして、お客さん自身も「週末の夜を騒いで楽しみたい」という感じがあり、MUROさんのディープな選曲が分からなくとも、アッパーなグルーブを楽しんでいることが分かります・・・

 私も、2005年頃のMUROさんのクラブでのDJプレイで、今回の作品のようなSuper Disco Breaks的なDJを体験したことがありますが、MUROさんは素晴らしい選曲をアグレッシブなDJミックスで盛り上げていて、MUROさんのDJとしての素晴らしさを体感しました!
 特に、当時は3~4時間ぐらいのロングセットでDJプレイをされていて、選曲を重ねることで少しづづ盛り上げていき、テンションが高まったところで盛り上がる曲をガツっと入れてくるのがカッコよかったです・・・まさに、この音源のようなピークタイムを作っていました!

 そう、DJの選曲とDJミックスは、足し算ではなく、掛け算の効果があるのですね・・・この音源を聴くだけでも、MUROさんのダンサンブルな選曲がさらに輝いているのが分かるかと思います。

 なお、この2つの音源は、詳しく聴くと「あること」に気付きます。

 それは、今回紹介する「Super Disco Breaks」で披露されている選曲やDJミックスが多く含まれていることです。

 つまり、この作品は、MUROさんがDJ活動を行う中で「いかにラジオやパーティーを盛り上げるか?」を突き詰め、その先で完成した選曲とDJミックスの結晶になります。

 それは、時代の変化やお客さんのニーズの変化を踏まえながら、クラブやラジオといった様々な場所を渡り歩く中で、常にその場所(現場)を盛り上げるための選曲とDJミックスが精錬され、その結果がこの作品になるのだと思います。
 それこそ一番最初の表に戻ると、Super Disco Breaks自体、1998年のいつにリリースされたかは明確に分かりませんが、紹介した2つの音源の頃は、現場で「盛り上げるための選曲とDJミックス」を洗練していた時期とも言え、その後の完成版がSuper Disco Breaksになると考えられます。

 そう、このSuper Disco Breaksは、その当時のMUROさんの「現場」をギュッと詰め込んだ作品なのです!



(3)選曲の方向性 ~B-Boy Discoとは?~

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 次は、この作品の「選曲」について、まずは全体的な方向性を紹介します。

 まず、この作品は「Disco」というタイトルがあり、多くのDiscoの曲が選曲されていますが、一般的な「Disco(ディスコ)」のイメージとは少し異なるところがあります。

 実際の選曲を平たく並べると、上図のようなイメージになり、大きく「①Disco/Breakbeats」「②Hip Hop」のジャンルに分かれ、この中ではMUROさんらしい幅広い選曲が披露されています。
 それこそ、「①Disco/Breakbeats」の中ではDisco、Soul、Funk、Rare Grooveといった70年代~80年代の楽曲が選曲され、「②Hip Hop」の中では70年代末~80年代初期ぐらいまでのOld Schoolと、80年代中期~末期ぐらいまでのMiddle SchoolやCut Upの楽曲が幅広く選曲されています。

 そして、これらの楽曲は、MUROさんの選曲とDJミックスにより不思議と融合し、この作品を輝かせています!

 そう、この「①Disco/Breakbeats」と「②Hip Hop」の融合が、MUROさんが考える「Disco」を作っています。

 そして、私としては、このDiscoを「B-Boy Disco(ビーボーイ・ディスコ)」と呼びたいと思います!!

 それこそ、これらのジャンルの曲はどれも親和性は高く、「②Hip Hop」の中でOld SchoolとMiddle Schoolは、「①Disco/Breakbeats」の中のSoul、Funk、Rare Groove、Disco等の曲を元ネタにして作られたものが多いです。
 また、Hip Hopの成り立ちを考えると、Soul、Funk、Rare Groove、Disco等の曲の中で、ドラムブレイク(=Breakbeats)がカッコいい曲を2枚使いしたことからHip Hopが始まったと考えると、親和性以上に親子関係であることにも気付きます。

 MUROさんはおそらく、こういった相性の良さを踏まえ、これらのジャンルの曲を混ぜ合わせ、唯一無二の「B-Boy Disco」を作ったのだと思います。

 それは、まるで70年代のNYの路上や公園で開かれていた野外Discoである「Block Party(ブロック・パーティー)」を、現代のDiscoである「Club(クラブ)」で成立させるための試みとも言えます・・・
 そう、DJの自由な選曲とDJミックスによって「聴く人を躍らせるため」の試みかもしれません・・・



(4)Hip Hopの活用

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 次に、先ほど紹介した選曲の全体的な方向性を踏まえ、選曲面をもう少し深く掘り下げていきます。

 まず、選曲面において個人的に注目したいのが「Hip Hopの活用」になります。

 タイトルに「Disco」という言葉が含まれていることから、どちらかといえばDisco的な曲に注目が集まりがちですが、この作品ではHip Hopの活用がメチャクチャ上手く、この作品の魅力を大きく広げています。
 そして、MUROさんがOld SchoolやMiddle Schoolの曲を上手く使ったことで、当時のDJ達にこれらの曲が「パーティーで使える!」と気付かせたと思います。

 この点は、少し詳しく紹介します。

 まず、個人的な話で恐縮ですが、この作品がリリースされる前(1995年~1998年頃)だと、この作品で選曲されているOld SchoolやMiddle Schoolの曲は「どこか古臭い」イメージがあり、あまりメジャーな存在ではなかったと思います。
 それは、90年代以降のHip Hopと比べると、楽曲の構成が馴染みにくかったり、ラップにメリハリがなかったりするので、どうも古臭さが先に出てしまい、あまり好まれなかった印象があります。
 むしろ「好まれなかった」というよりも、最新のHip Hopの方が魅力的な曲が多く、過去の曲まで目が届かなかったことも背景にあるかと思います。

 ただ、MUROさんは、それこそサンプリングの元曲であるSoulやFunkの古い曲を掘るのと同じように、ある時期からHip Hopの古い曲を掘るようになり、積極的に活用するようになったと思います。

 それこそ、1997年初頭には、大手レコードショップのCisco(シスコ)のノベルティーとして、Middle Schoolにこだわったミックステープ「MURO VS DJ Kensei / Nine-Seven Winter Hip-Hop Sale」を発表したり、同年に放送を開始したラジオ番組「Da Cypher」では、MUROさんによるOld Schoolの特集があったりしました。

 また、当時の数少ない専門誌の1つである「Front(フロント)」では、1997年11月号でMiddle Schoolの特集があり、写真のようにMUROさんもお勧め曲を紹介しています。

 この特集では、様々なDJがお勧め曲を紹介する中で、MUROさんはドープなMiddleを中心に紹介しており、おそらくMUROさんがHip Hopを好きになった80年代中頃から気に入っている曲や、ここ数年で掘り起こした曲等が紹介されています。
 例えば、今回紹介するSuper Disco Breaksで選曲されている曲も多く含まれており、写真の中で赤枠で囲ったレコードが実際にこの作品で選曲された曲で、Middle Schoolの曲に加え、Cut UpやGo-Goまでも紹介しており、流石MUROさんらしいチョイスです!
 
 Old SchoolやMiddle Schoolの曲って、考えてみればHip Hopの基礎ともいえる「Breakbeats」をサンプリングしたり、ベースにしたものが多く、使い方によっては相当ノリが良いですよね・・・

 もしかしたら、MUROさんは「この点」に気付いたから、これらのHip Hopを活用するようになったのかもしれません。

 90年代中頃となると、サンプリングの手法も進化し、Breakbeatsをそのまんま使わずに加工等をすることが多くなり、一時期はBreakbeatsのファンキーさがHip Hopの中で失われていた時期がありました。
 ただ、今となってはOld SchoolやMiddle Schoolの曲がもつファンキーさや躍動感は唯一無二で、Hip Hopの成り立ちを考えると、やっぱりHip Hopになくてはならない存在だと思います。

 つまり、MUROさんにおかれては、もしかしたらこういった背景を踏まえ、「Hip Hopはやっぱりファンキーであるべき」と自覚したから、Old SchoolやMiddle Schoolを使うようになったのかもしれません・・・


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 そして、Old SchoolとMiddle Schoolの追求を踏まえてこの作品を聴き込むと、私としてはこの作品が「あの名曲に捧げられた作品なのではないか?」と思ってしまいます・・・

 その曲は「Double Dee & Steinski / Lesson 1, 2 & 3」です。

 そう、あのDJ Shadowがこの曲にインスパイアされて「Lesson 4」というCut Upの曲を作ったり、また、ほぼ同じタイミングでCut Chemistも「Lesson 4: The Radio」を作ったように・・・MUROさんもこの曲にインスパイアされ、MUROさん版の「Lesson 4」として作ったのが「Super Disco Breaks Lesson 1-4」なんだと思います。

 無論、Super Disco Breaksでは4つのミックスがあり、それらを「Lesson 1」「Lesson 2」「Lesson 3」「Lesson 4」と表現している時点で、この曲からの影響はあるのですが、私としては、この曲がもつ世界観を「ミックステープで表現したらどうなるか?」とのアイデアがあって、この作品が作られたのだと信じています。

 「Double Dee & Steinski / Lesson 1, 2 & 3」について簡単に紹介すると、Hip Hopの基礎ともいえるSoulやFunk、DiscoやRare Groove等のBreakbeatsが強く含まれた楽曲、さらには当時のHip Hopの曲を用いて、それらの曲をある種のコラージュアートのように編集した曲になります。
 一般的には「Cut-Up(カット・アップ)」と呼ばれ、内容によっては「Megamix(メガミックス)」や「Mastermix(マスターミックス)」とも呼ばれる曲(ジャンル)になり、Double Dee & Steinskiがこのジャンルを広めたパイオニアとして評されています。

 特にここで重要になるのは、Hip Hopのサンプリング精神ではないですが、「DJの自由な発想」で様々なジャンルの曲を切り貼りし、Hip Hopらしいノリノリなグルーブを楽曲に落とし込んでいる点です。
 この曲自体、実はプロモ止まりで正規リリースがない曲で、アンダーグランドにしか流通しなかった曲ではありますが、このDJらしい自由な発想は時代を超えて様々なDJに刺激を与え、前述したShadowとCut Chemistは、別々にこの曲を聴いて自発的にLesson 4を作られました・・・

 そして、MUROさんは、楽曲を作る代わりに「DJの自由な発想」で様々なジャンルの曲を選曲し、それらの曲をDJミックスすることで、Hip Hopらしいノリノリなグルーブ、つまりB-Boy Discoを「ミックステープ」に落とし込んだのです。
 
 このことは、MUROさんにお伺いしたことがないので、本当かどうかは分かりません・・・

 ただ、この作品の中で、Hip HopとBreabeatsを繋ぐ重要なジャンルとしてCut-Upを大々的に活用していることや、Hip HopやDiscoの曲をCut-Up的な曲として使っている部分が多いことから、Cut-Upがこの作品において重要な要素を持っていることは間違いないでしょう・・・
 そのため、私としては、この作品が「MUROさん流のオマージュとして作られたもの」と信じています!!

 なお、この作品のタイトルは、おそらく70年代末から80年代初期にPaul Winley Recordsからリリースされていたネタ集「Super Disco Brake's」シリーズから引用したと思われます!



(5)Disco/Breakbeatsの活用

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 次に、選曲面でもう一つの大きな柱である「Disco/Breakbeats」について、選曲の背景等を紹介したいと思います。

 まず、この作品では、前述したHip Hopの流れから「Breakbeats(ブレイクビーツ)」と呼ばれる曲を多く選曲し、この作品のテーマである「B-Boy Disco」をファンキーに彩っています。

 Breakbeatsは音楽のサブジャンルと言え、Soul、Funk、Rare Groove、Disco等の主に70年代から80年代の曲の中で、ドラム等のビートが際立っているものを指し、Hip Hopの曲でドラムネタとしてサンプリングされた曲等が中心になります。

 なかなか定義が難しいジャンルではありますが、Hip Hop側からすると「2枚使いをしたらカッコよくなる曲」とも言え、私としてはBボーイの血肉になっている曲~ジャンルだと思っています。
 それこそ、上記写真の「Incredible Bongo Band / Apache」はBボーイの国歌と言われるぐらいで、聴いたら「つい踊ってしまう曲」ですよね・・・これは疑いのない定義だと思います。

 そして、このSuper Disco Breaksでは、これらのBreakbeatsが前述したHip HopにおけるOld SchoolやMiddle Schoolの元ネタであること、Breakbeats自体が曲としてカッコいいことを念頭に置いて選曲し、さらにMUROさん流のDJプレイでファンキーに彩っています。

 例えば、Lesson 1では、「James Brown / Funky Drummer」「Funkadelic / You'll Like It Too」といった有名Breakbeatsの良さを前に出した選曲を行っており、実際にこの2曲は選曲されていないものの、これらの曲をサンプリングした曲を巧みに使い、これらの曲の「ドラムの良さ」を強調したミックスを披露しています。
 また、Lesson 1以外では、カッコいいBreakbeatsが含まれたFunkやDiscoの曲を真っすぐに選曲しており、肝となるドラムの部分を2枚使いしたり、曲の良さを前に出した選曲をしたり、MUROさんにしかできない手の込んだ選曲とDJミックスが施されています。

 特に、この作品ではDisco系のBreakbeatsである「Disco Break(ディスコ・ブレイク)」をカッコよく選曲することで、前述した「B-Boy Disco」の雰囲気を高めています!
 聴き方によってはDisco的な4つ打ちに近いDisco Breakを、MUROさんはHip Hop的なDJミックスをすることでBPM早めのBreakbeatsとして成立させ、前述のApacheのようなBボーイが好むBreakbeatsに仕上げているところが多く、大変素晴らしいと思います。
 
 MUROさん自身、これらの曲と出会ったのは、最初はHip Hopの元ネタとして出会ったのだと思いますが、DJとして活動をする中でBreakbeatsの要素が強いOld SchoolやMiddle SchoolのHip Hopの曲が「使える」と感じたから、その源流であるBreakbeats自体も「使える」と思ったのかもしれません・・・


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 そして、ジャンルとしての「Disco(ディスコ)」もこの作品では効果的に選曲されており、作品の良さを引き立てています。

 それこそ、それぞれのミックスの後半ではDisco系の選曲が目立ち、BPM115~120程度のグルーブで気持ちよく躍らせる展開に発展しおり、各ミックスに素敵なストーリー性を与えています。

 ただ、Discoについては指摘しておきたいことがあります。

 それは、これまでのMUROさんの作品からするとDiscoは「あまり手を出さなかったジャンル」になることです。

 まず、Discoというジャンルを整理すると、一般的には1975年頃から1979年頃にリリースされた軽快なダンスミュージックを指し、その後のDance ClassicsやHouseに繋がるような曲~ジャンルになります。
 それこそ「4つ打ち」と言われるジャンルの曲となり、Hip HopからするとBPMが早かったり、そもそものビートの捉え方や踊り方が違うため、Bボーイには馴染みにくさがあるジャンルかもしれません。

 私自身、Hip Hopが好きになった高校生時代に、興味が先走って4つ打ちの代名詞とも言えるHouseの曲を買ったけど、そのビート感に馴染めずに挫折した過去がありました・・・皆さんの中でも、こういった方は多いのではないでしょうか?

 ただ、MUROさんにおかれては、この作品をリリースする前ぐらいから、BPMが早めなDiscoの曲を、ある意味で「歌モノ」と捉え、その流れから良い曲を掘り起こし、その結果、この作品で様々なDiscoの曲を活用したと思われる流れがあります。

 まず、「歌モノ」という言葉を説明すると、Hip Hopの立場からすると、Hip Hopの曲はラッパーが「ラップする」ことが主になるので、ラップ以外の曲、それこそ普通に歌っているものを「歌モノ」とカテゴライズすることがあります。
 この中には、Hip Hopと親和性の強い80年代~90年代のR&BやDance Classicsから始まり、70年代のSoulや他の様々なジャンル等が該当し、とにかく「歌っている曲で、Hip Hopの流れから聴けるもの」であれば「歌モノ」としてカテゴライズをすることが多いかと思います。

 そして、MUROさん自身、歌モノの選曲は得意中の得意で、それこそ、1996年からリリースしている「Diggin' Ice(ディギン・アイス)」、そしてDiggin' Iceの冬版としてリリースした「Diggin' Heat(ディギン・ヒート)」では、メロディーや歌詞が素敵な80年代のR&BやDance Classics、さらにはこれら以外のジャンルの歌モノを多く選曲しています。
 むしろDiggin' IceやDiggin' Heatは、Hip Hopしか知らなかったBボーイに「歌モノの良さ」を伝えた名作とされており、私自身も後追いではありますが、MUROさんのこれらの作品を聴いて歌モノの良さを知りました。

 そして、この「歌モノ」の流れがあったから、MUROさんは自然と「Disco」に行きつき、これらの曲を選曲するようになったと思われます。

 例えば、写真はFrontの1997年5月号に掲載された80年代~90年代初期までの歌モノを紹介する特集において、MUROさんが紹介したお勧め曲のリストになり、青枠の曲は1997年頃までにリリースされたDiggin' IceやDiggin' Heatにおいて選曲された70年代末~80年代のR&B、Soul、Dance Classicsの曲になります。
 一方でこのリストを詳しく見ると、Discoの代名詞とも言われる12inchの曲も数曲見かけ、Lessn 2の最後の方で選曲されている「Bumblebee Unlimited / I Got A Big Bee」(赤枠)が確認できます。

 確かにDiscoの曲は70年代末~80年代のR&B、Soul、Dance Classicsとは無縁ではなく、レコードを掘っていれば自然と出会う曲~ジャンルになります。
 もちろん、House的な4つ打ちでBPMが早い曲もありますが、メロディーや歌はDiggin' Ice等で選曲した「歌モノ」と同じような素敵な曲が多く、使い方によっては「歌モノとして使える」のだと思います。

 このような背景があり、MUROさんは歌モノの延長線、つまりHip Hopの延長線としてDiscoを選曲するようになり、聴いているBボーイ達にとっても受け入れやすい選曲をし始めたと思われます。


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 ただ、この作品において「Discoの選曲」で重要なことは、MUROさんはHip HopやBreaksbeats等の幅広いジャンルの曲と混ぜ合わせながら、アグレッシブなHip HopスタイルでDJミックスしたことです。

 このことにより、Discoの曲は前述した「歌モノ」という位置を超え、私が提唱する「B-Boy Disco」としか表現できない音楽~ジャンルに昇華されています!!

 上手く説明できなくてすみません・・・

 私としては、MUROさんの選曲とDJミックスにより、Discoの曲達が「Discoの曲を超えた存在」になったことを説明したかったのです・・・

 ただ、この曲を紹介すれば、ご理解できる方もいるかもしれません・・・

 それは、永遠のMUROクラシックである「Thelma Houston / Saturday Night, Sunday Morning」です!!

 この曲は、ミックステープでは「Diggin' Heat '97」で選曲され、前述したCyperの「Valentine's Dayミックス」でも、当時のHarlemのクラブプレーでも、ピークタイムを彩る曲としてプレイした名曲です。
 聞いたら誰でもハッピーになれるメロディーと歌詞がほんと素敵で、クラブで聴いたら「みんなが1つになる」名曲ですよね・・・この曲の良さは、MUROさんから教わった方は多いはずです!!

 MUROさんにおかれては、前述した「歌モノ」の観点からこの曲を選曲したり、HarlemでのDJプレイのように、サイドMCによる煽りを入れる形で「Hip Hopのテイスト」をこの曲に盛り込んだりして、Bボーイにとって「楽しめる曲」にしたのですね・・・
 
 このブログは、「DJの選曲とDJミックスにより、プレイした曲をより輝かせる」というポリシーのもと、様々なミックス作品を紹介しています。

 この曲こそ「このポリシーの代名詞」で、この曲を聴いたリスナーは、きっと「新たな出会い」に巡り合えたと思います。

 うん、私自身がそうでした・・・

 それこそ、MUROさんのThelma Houstonのプレイを聴いて、意識的にDiscoの良さに気付き、その後、Discoの12inchを熱心に買うようになりました・・・。
 もしかしたら、それまでHip Hopしか知らなかった子供に、ダンスを前提とした音楽「Disco」の魅力を分かりやすく教えてくれたのかもしれないですね・・・

 そして、Discoの12inchを買うようになったからか、高校生の頃に馴染めなかったHouseが大人になって自然と好きになり、House~Garage~Disco系のパーティーに通うようになりました・・・
 それまで、Hip Hopを聴いて首を振るのが精一杯だった私が、汗だくになりながら激しく踊れるようになりました・・・

 さらに、これらの流れがあったから、このブログを開始することができ、やっと「この作品を紹介できるようになった」のだと思います・・・
 レコードを掘ること、音楽で踊ることを通してDJの素晴らしさを知り、その素晴らしさをブログで発信するようになり、様々な経験を重ねたから、この作品の紹介に辿り着いたのだと思います・・・
 
 MUROさんが表現する「B-Boy Disco」には、リスナーに「新たな出会い」を与える効果もあったようです・・・


 
(6)作品紹介の前に

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 作品紹介の前振りなはずなのに、ここまで長い紹介になり、申し訳ないです・・・

 ただ、これらのことが何となくでも分かっていれば、以降の作品紹介が少し分かりやすくなるかと思います・・・

 そして、改めてこの作品の概要を整理すると以下のようになります。

・テーマであるDiscoを、MUROさん流の幅広い選曲とDJミックスで「B-Boy Disco」という世界観で表現している。
・「Disco/Breakbeats」と「Hip Hop」を混ぜ合わせた選曲を、Hip HopライクなDJミックスを施すことで、さらに輝かせている。
・「Double Dee & Steinski / Lesson 1, 2 & 3」へのオマージュと言えるぐらい、Cut-Upのアイデア~精神で選曲、DJミックス、ストーリー作りを行っている。


 私は、ミックステープというものは「全体的なストーリーを描きながら、選曲×DJミックスを折り重ねて作るもの」と考えており、この作品は上記のことを踏まえて作られたと考えています。

 ただ、ただ、この作品については、これらの点を踏まえつつも、それぞれの選曲やDJミックスには個別具体的な特徴が多くあり、その特徴が積み重なってこの作品が成立しているとも考えています。

 そのため、以降の紹介では、Lesson 1から順番に、実際の選曲とDJミックスを細かく紹介していきます。





3.Lesson 1

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【トラックリスト】
01 Sirocalot / Sirocalot
02 Hot Day (D.Franklin) / Hot Day Master Mix
03 Trouble Funk / Let's Get Small (Special Mix)
04 Curiosity Killed The Cat / Name And Number
05 Experience "E.U." Unlimited / It's Family Affair
06 DJ Flexxx / The Water Dance
07 Cold Cut / Say Kids What Time Is It ? [Play : Side B-1(Funky Drummer Loop)]
08 Kev-E-Kev & AK-B / Listen to The Man
09 Massive Attack feat. Daddy Gee and Carlton / Any Love
10 Power Cut Crew / Powercuts
11 Whitsle / Just Buggin'
12 Tommy Stewart / Bump And Hustle Music
13 TD Records (Mr.K) / Feelin' James
14 Area Code 605 / Stone Fox Chase ('87 Remix)
15 Eric B & Rakim / I Know You Got Soul (The Richie Rich Megamix)
16 M.C.Tee & Lord Tasheem / Gangster Nine (Inst)
17 Divine Force / My Uptown Beat
18 The Bizzie Boyz / Hold The Lafta (Inst)
19 Boogie Down & Keyboard Band / Free Our Brother (Inst)
20 The B Boys / Rock The House
21 The Magic Disco Machine / Scratchin'
22 Reuben Howell / You Made Your Bed
23 Majestic Productions / Majestic Control's Music (Inst)
24 Coke Escovedo / I Wouldn't Change A Thing
25 Eastside Connection / You're So Right For Me
26 Brooklyn Express / Love Is The Message (Tee Scott Edit) [Play : Middle of the song]
27 Grand Master Chilly-T & Stevie G / Rock The Message Rap
28 Rick James / Fire It Up
29 Denroy Morgan / I'll Do Anything For You [Play : Inst~Vocal]


【1曲目~6曲目】

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 さー、ここからは作品の内容を詳しく紹介していきますよ!!

 曲紹介については、男らしく、私が持っているレコードを中心に進めていきます。そのため、持っていないレコードの部分は説明が薄くなることはご容赦ください。
 また、レコードの写真は一部ピンボケしているのもありますが、可能な限りオリジナルのレコードで紹介しますね~

 まず、Lesson 1からですね・・・

 このミックスでは「Breakbeats」が大きなテーマになっています。

 Lesson 1をよく聴くと「大ネタなBreakbeats」をネタにした曲を多く選曲していて、それこそ「James Brown / Funky Drummer」や「Funkadelic / You'll Like It Too」等をネタにした曲を選曲し、これらの曲で段々と盛り上げていきます。
 ただ、そこはMUROさんらしく、これらの選曲をカッコいいDJミックスによりさらに輝かせ、テーマである「Breakbeats」を前面に出したミックスとなっています。

 では、序盤から説明です・・・序盤はBPM100程度でゆっくりと進めていきます。

 その中で白眉なのが「Go-Go(ゴーゴー)」の曲を中心に選曲してて、3曲目では「Trouble Funk / Let's Get Small (Special Mix)」、4曲目を挟み5曲目では「Experience "E.U." Unlimited / It's Family Affair」をテンポよく繋いでいきます。
 また、Go-Goの流れで、Washington, D.C.産のマイナー90's Hip Hop「DJ Flexxx / The Water Dance」(※1)を6曲目で選曲し、少しづつテンションを上げていきます。

 まず、「Go-Go」を説明すると、アメリカの首都Washington, D.C.で70年代末~80年代中頃に流行った音楽で、いわゆる「Funk(ファンク)」に南部的なパーティー感を味付けた音楽で、大変ノリの良い音楽となります。
 時期的にもHip HopのOld Schoolと親和性があり、Hip HopとDiscoの橋渡し的な音楽とも言え、ある意味でこの作品のテーマ(B-Boy Disco)を上手く表現した曲かもしれません。

 もしかしたら、この作品で「Go-Go」の良さを知った方が大変多いかもしれませんね・・・

 特に「Experience "E.U." Unlimited / It's Family Affair」は、MUROさんが選曲したことでシーンに知れ渡った1曲で、一時期は万越えの高値の華でした!

 やっぱり、MUROさんの凄いところは、注目されない曲やジャンルを、MUROさん流の素晴らしい選曲とDJミックスでプレイした曲を彩ることですよね・・・
 このGo-Goの選曲でも、3曲目はあえてインスト(Special Mix)を選曲していたり、4曲目は、実はEU系のポップス(Curiosity Killed The Cat / Name And Number)をGo-Go的な要素を強調して選曲したり、5曲目と6曲目はグルーブを上げるために+3ぐらいのピッチアップをしていたり、Go-Goのカッコよさを引き立てる技が光っています!!


(※1)「DJ Flexxx / The Water Dance」
 掲載したレコードは1994年の後発プレスで、MUROさんが使用したと思われるバージョンが入っていないようです。どうやら、1993年のプレスの方(Radio Version??)でDJプレイをしていたようです。


【7曲目~9曲目】

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 そして、このあたりから、このLesson 1の肝である「Breakbeats」の魅力が発揮してきます。

 7曲目では、スクラッチカットインでUKのCut Up クラシックな「Cold Cut / Say Kids What Time Is It ?」(※2)を選曲します。ただ、よく使われるA面の本編ではなく、B面の「James Brown / Funky Drummer」をループしているトラックをプレイしています。
 そして、この7曲目に対して絶妙なタイミングで、同じFunky Drummerネタの8曲目「Kev-E-Kev & AK-B / Listen to The Man」をビートミックスで繋いでいきます・・・この選曲とDJミックスの上手さといったら最強ですね!!

 まず、ここでは「Kev-E-Kev & AK-B / Listen to The Man」の選曲に尽きるでしょう・・・言わずとしれたMUROクラシックの1つです!!

 この曲は、MUROさんのフェイバリットとして有名で、2002~3年頃に日本で企画されたJames BrownのRemix集においては、MUROさんは真っ先に「Funky Drummer」のRemixに手を挙げ、この曲のオマージュとも言えるRemix(タイトルはListen To The Muro Mix!)を制作しました。
 
 ただ、この曲自体は、Middle SchoolらしいFunkyなトラックとラップが織りなすクラシックではあるものの、普通に聴いていると少し地味な曲に聴こえるかもしれません。

 そこで、MUROさんは、この曲を+3程度のピッチアップをしてFunky Drummerのビート感をさらに加速させ、聴いている人の「首」を振らせます。
 MUROさんにおかれては、前述したGo-Goと同じく、パッと聴いたら地味なMiddle Schoolを絶妙なタイミングで選曲したり、ピッチアップ等によりプレイした曲を「カッコよく」しています・・・うん、これこそがMUROさんの技だと思います!

 そして、ビート感をキープしながら7th Wonderのループが印象的な9曲目「Massive Attack feat. Daddy Gee and Carlton / Any Love」に繋いでいきます。
 言わずとしれたMassive Attackの最初の12inchで、レアUK Middleの1枚ですよね・・・前述したFrontのMiddle特集でMUROさんが「やっと入手できた」的なレコメンドをしていたので、勢い余っての選曲かもしれないですね!


(※2)「Cold Cut / Say Kids What Time Is It ?」
 写真のレコードはよく見かけるブート盤とされるプレスではなく、Cold Cutが最初に500枚だけプレスしたものになります。近年になり、こういった「買えないと思ってたレコード」に出会えることができ、レコード掘りとしては感無量です。


【10曲目~15曲目】

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 そして、中盤に向かうと、ここでも定番Breakbeatsである「Funkadelic / You'll Like It Too」をキーにした選曲とDJミックスが披露され、徐々にテンションを上げていきます。

 まず、10曲目(Power Cut Crew / Powercuts)で軽くYou'll Like It Tooのループを使いつつ、間の12曲目でLPのみのレアDisco(Tommy Stewart / Bump And Hustle Music)を選曲することでミックスの谷(たに)を作ります。

 ミックスの谷(たに)・・・以後、この表現を多用するので先に説明すると、盛り上がる曲の前にあえて盛り上げない展開を作ることを、私は「ミックスの谷(たに)」と呼んでいます。
 ジェットコースターじゃないですが、一番高いところから落ちる(=盛り上がる)瞬間は、ゆっくりと登っていく展開や頂上付近でゆったりと進む時間がないと盛り上がりませんよね?
 そう、こういった展開を私は「ミックスの谷(たに)」と呼んでおり、MUROさんにおかれては、この谷(たに)の作り方が半端なく上手いです!!

 話をLesson 1に戻すと、12曲目の頃合いの良いところで、13曲目の「TD Records (Mr.K) / Feelin' James」のYou'll Like It Tooのブレイク部分を気持ちよくカットインし、数ブレイク後の声ネタ(♪One, Two, Three, Four, This !)から絶妙なタイミングで14曲目「Area Code 605 / Stone Fox Chase ('87 Remix)」に違和感なく繋いでいきます。
 14曲目は、70年代のロック曲(Area Code 615 / Stone Fox Chase)をYou'll Like It Too等のブレイクでマッシュアップしたRemix曲で、You'll Like It Tooのブレイクの気持ちよさが出た名Remixですね。

 You'll Like It Too・・・ほんとカッコいいBreakbeatsですよね!!

 この曲は聴いているだけで気分が高揚する曲で、B-Boy Discoを象徴するものだと思います。
 MUROさん自身もフェイバリットな曲のようで、よくクラブでは原曲の「Funkadelic / You'll Like It Too」を選曲し、イントロのブレイク部分を2枚使いしたり、そのままカッコいい本編に進み、KODPクルーの若手MCがサビ部分で煽ってたり・・・ほんとカッコいい曲です!!

 そして、この部分で上手いな~と思うのが、同ネタの曲を絶妙に繋ぎ合わせることでさらにファンキーさが増しているんですよね・・・前述したFunky Drummerの部分もそうですが、こういった選曲の組み合わせが絶妙です!
 それこそ、この13曲目や14曲目では、曲の中のファンキーな部分だけ切り取っていく手法が素晴らしく、こういった部分を目の当たりにすると、この作品が「Double Dee & Steinski / Lesson 1, 2 & 3」のオマージュであることが理解できます。

 なお、その次の15曲目(Eric B & Rakim / I Know You Got Soul )は、原曲はYou'll Like It TooネタのHip Hopクラシックですが、あえてYou'llのブレイクを使っていないレアRemix(The Richie Rich Megamix:UKのLPのみのボーナス12inchに入っているRemix)を選曲してくるあたりに、MUROさんの奥深さを感じます!!


【16曲目~22曲目】

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 15曲目のEric B & Rakim以降は、17曲目で「Divine Force / My Uptown Beat」といったMiddleを連続選曲し、ファンキーにグルーブを盛り上げていきます。
 
 16曲目以降の選曲で上手いなぁと思うのが、Middleの渋い曲を選曲するのですが、大半が「インスト」をプレイしてて、Middleらしい武骨でファンキーなトラックを強調していることです。
 また、さりげなくBPMを上げ始めていて、それぞれの曲をカットイン等で繋ぎつつも、BPMは105から110ぐらいに上げており、ピークタイムに向けてテンションを高めています。

 そのMiddleゾーンを抜けたところで、ここでも有名Breakbeatsが効果を発揮します。

 21曲目では「The Magic Disco Machine / Scratchin'」を選曲し、同曲のファンキーなメロディーを強調した展開に進めます。

 いやいや、Scratchin'はファンキーなメロディーが素敵で、つい気分が高揚してしまいますね!!

 ここでも上手いなぁと思うのが、前曲の20曲目(The B Boys / Rock The House)で少しグルーブを落としつつ、タイミングの良いところで21曲目をカットインし、同曲の華やかなイメージを強調させています。
 また、同曲の躍動感を維持するためか、同曲の後半にあるブレイク部分は使わず、その手前で同曲と同じトラックのボーカル曲である22曲目(Reuben Howell / You Made Your Bed)に繋いでくる点も上手いです。
 そして、BPMを詳しく確認すると、この21曲目~22曲目で大胆なBPM操作も行っていて、110程度だったBPMが22曲目では116まで上げています。

 こういったDJの技があって、Scratchin'もファンキーなメロディーが光っているのですね・・・

 特に、この16曲目以降からは、Breakbeatsにおける「ドラムブレイク」をそこまでは強調せず、むしろ上ネタな「ファンキーなメロディー」を重要視した選曲とDJミックスを施しています。
 それは、24曲目以降の展開を見据えてのことだと思います・・・


【23曲目~25曲目】

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 そう、それは24曲目「Coke Escovedo / I Wouldn't Change A Thing」を爆発させるための「仕掛け」だったのです!!

 正確には、Coke Escovedo使いの23曲目(Majestic Productions / Majestic Control's Music)のファンキーなインストを挟み、そこから24曲目のイントロブレイクをスクラッチカットインし、すぐにイントロブレイクを2枚使いし、イントロブレイクが開けてからの本編の爆発力といったら最強ですね!!

 ファンキーでタイトなイントロブレイクもさることながら、MUROさんは、この曲のファンキーだけど切ないないメロディーがこのLesson 1のピークになることを理解して、それまでの選曲とDJミックスを進めていたと思われます。
 同曲はUltimate Breaks & Beatsにも収録されているので、やっぱりイントロのブレイクに目が行きがちですが、MUROさんは全体的な曲の良さに着目していたようです・・・流石です!!

 そして、24曲目のメロディーとラテンタッチな雰囲気を受け取って、ベイエリアの好Disco曲である25曲目「Eastside Connection / You're So Right For Me」に違和感なく繋いでいくのも上手いです!!
 まさに「ピークタイムの作り方の基本」というのでしょうか、クラブのフロアーで踊っている人の足を止めない選曲の工夫があり、ついついメロディーを口ずさんでしまいます。

 なお、「Coke Escovedo / I Wouldn't Change A Thing」については、盟友である故Dev Largeさんが1998年7月にリリースした「Lunch Time Speax / 止マッテタマッカ (Dev Large Remix)」のブレイクネタとして注目を浴びた曲であることから、同じ年にリリースしたSuper Disco Breaksにおいて、MUROさんがこの曲を選曲していたことにはグッときます・・・
 当時は、LPの隠れた1曲としてのイメージが強かったですが、ブレイクとしての良さはDev Largeさんが、曲としての良さはMUROさんが紹介し、今となっては「最高に素敵な1曲」になりました・・・これは、両者の友情の賜物かもしれないですね・・・


【26曲目~29曲目】

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 そして、26曲目~27曲目では、前曲で高めたDisco的な多幸感を踏まえ、実はブレイクが強力な「MFSB / Love Is The Message」ネタの曲に進んでいきます。

 それこそ、26曲目「Brooklyn Express / Love Is The Message (Tee Scott Edit) 」では、曲の中頃にある、一瞬だけCut Up的な声ネタの掛け声がある部分のみを切り取り、そこからMFSBネタの27曲目(Grand Master Chilly-T & Stevie G / Rock The Message Rap)に進んでいく展開は上手すぎです!
 繰り返しになりますが、この作品では「ある曲の一部にあるCut Up的なところを上手く切り取る技」が冴えてて、このTee Scott Editの使い方はまさにそうです・・・実際にレコードを聴いて使用した部分に気付き、かなりヤラれました!!

 そして、この2曲でさらにBPMを120程度に上げ、28曲目「Rick James / Fire It Up」のブレイクを熱く2枚使いしつつ、テンポよく29曲目「Denroy Morgan / I'll Do Anything For You」に繋ぎ、カッコよくLesson 1を終わらせていきます。
 
 ここでも技が光っていて、29曲目はDenroy Morganはインストからプレイし、サックスのファンキーなメロディーを聴かせたの後に、頃合いの良いところでVocalにスイッチしています。
 それも、結構長めのプレイになり、フロアーにいる人を「踊らせる」ことを意識した選曲にもなっています。

 これは、他のミックスでも見られる手法ですが、ポンポンと矢継ぎ早に曲を変えながら、躍らせるところは長くプレイしています・・・
 選曲における「緩急」を上手く演出しており、選曲した曲が光る手法ですよね・・・うん、さすが、クラブで磨いてきた選曲とDJミックスです!!





4.Lesson 2

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【トラックリスト】
01 The Big One Crew feat. Cut Master M.C. / Reggae Got Soul (The Scratch-mix Showdown)
02 Tall Dark & Handsome / Tall, Dark And Handsome
03 Unit B. 3 / Turn Your Radio On (Inst)
04 The B Boys / Two, Three, Break
05 Jazzie B/ London Beats Volume 1 [Play : Side A]
06 Afrika Bambaataa & The Jazzy 5 / Jazzy Sensation (Bronx Version)
07 Gwen McCrae / Funky Sensation
08 Don Baron / Action (Inst)
09 Nice & Nasty 3 / The Ultimate Rap
10 Jimmy "Bo" Horne / It's Your Sweet Love
11 Grandmaster Caz with Whipper Whip / To All The Party People
12 Chuck Brown & The Soul Searchers / Bustin' Loose (Part 1)
13 T.S. Monk / Bon Bon Vie
14 Dazz / Brick
15 Dismasters / Black And Proud (Inst)
16 Malcolm McLaren presents The World Famous Supreme Team Show / Aladdin's Scratch
17 Double Dee & Steinski / Lesson 2 (James Brown Mix)
18 Busy Bee / Old School
19 Grandmaster Flash and The Furious Five / Superappin'
20 Freedom / Get Up And Dance
21 Bumblebee Unlimited / I Got A Big Bee
22 Risco Connections / Ain't No Stopping Us Now


【1曲目~5曲目】

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 次はLesson 2の紹介です!!

 Lesson 1は「Breakbeats」をテーマにしていましたが、Lesson 2では「Old School」をテーマにした選曲とDJミックスが披露されています!!

 まず、1曲目~4曲目では、ネタ感の強いMiddle Schoolを選曲しており、4曲目では「Cerrone / Rocket In The Pocket」をネタにした「The B Boys / Two, Three, Break」を緩く選曲し、首を振らせます。
 このLesson 2も、序盤はBPM100程度の立ち上がりとなり、ゆったりと進みますが、「Manzel / Midnight Theme」ネタの3曲目(Unit B. 3 / Turn Your Radio On)を結構なピッチアップ、それもインストをプレイする等、MUROさんらしいアイデアが含まれています。

 そして、4曲目の掛け声(♪Two, Three, Hey !)を利用して、カットインで5曲目「Jazzie B/ London Beats Volume 1」を選曲します。

 5曲目もCut Upの大名曲で、ここでは比較的長くプレイします・・・ファンキーなドラムループ、印象的に変わっていく声ネタやメロディーに揺らされ、気づいたら首を振っています。
 これは、DJの基礎中の基礎なのかもしれないですが、序盤は聴いている人をDJのグルーブに乗せ、グルーブに乗せたところでそのDJの手の中で躍らせていく手法なのかもしれないです。


【6曲目~7曲目】

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 そして、5曲目で首を振らせておいて、絶妙なタイミングで、Old School大名曲な6曲目「Afrika Bambaataa & The Jazzy 5 / Jazzy Sensation (Bronx Version)」をカットイン!
 さらに、曲が盛り上がったところで、6曲目の元ネタである7曲目「Gwen McCrae / Funky Sensation」に繋ぎ、Old Schoolらしいフレッシュな空気感を演出します・・・なお、7曲目は+5.5のピッチアップですが、絶妙に合っているのが最高です!!

 このLesson 2では「Old School」がテーマになっており、Jazzy Sensationのような大ネタだけど、どこか爽快感のある曲を有名・無名を問わず選曲しています。
 この爽快感を説明するのは中々難しいですが、元曲を知らなくても「わー、気持ちいい!」と感じになっており、まずは選曲の上手さが光っています。

 それに加え、6曲目~7曲目のように元ネタを組み合わせたり、DJミックスのタイミングや曲の使い方を工夫したり、MUROさんが思う「Old Schoolのフィーリング」を上手く表現していると思います。

 そして、この曲以降、テーマの「Old School」が爆発していきます・・・


【8曲目~9曲目】

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 まず、7曲目「Gwen McCrae / Funky Sensation」はワンバースで切り上げ、おもむろに次の8曲目をカットインします・・・

 はい、これまたMUROクラシックな「Don Baron / Action」です!!

 8曲目はあえてインストを選曲し、BPMも110程度に上げ、トラック自体のファンキーなグルーブで聴いている人の首を振らせます・・・
 このインストは曲のサビ等が繰り返されるものなので、トラックの良さが前に出つつ、声のフレーズがよい味付けになっていますね!

 なお、この曲は、1988年産のMiddleで、2003年にMUROさんが発表した曲「Chain Reaction」でカバー(サンプリング)した名曲です。
 MUROさんの場合、ミックステープに収録された曲が、その後にリリースされた自身の曲のサンプリング元になることがあります・・・つまり、このDon Baronを含め、MUROさんが好きだった曲だからこの作品で選曲されているのかもしれません!

 そして、同曲の「♪Yo, Play Down Hit'em !」の掛け声のタイミングで、9曲目「Nice & Nasty 3 / The Ultimate Rap」をイントロからカットイン・・・もう、大爆発です!!

 このカットインからの展開、ほんと何度聴いても痺れます!!

 MUROさんのプレイによりイントロから引き込まれてしまい、その後の印象的なギターリフとテンション高めなラップに気分が高揚します!!

 9曲目は、Old Schoolの中では最高峰のレア盤の1つで、盟友の故・Dev Largeさんが自身の大名曲「大神 / 大怪我 (Illjoyntstinkbox) 」で引用(サンプリング?)したと言われる曲になります。
 曲自体は「A Taste of Honey / Rescue Me」をベースにしたもので、同曲使いと言えば「Funky 4 Plus 1 / That's The Joint」の方が有名ですが、Nice & Nasty 3の方がFunky 4よりもラフな感じに仕上がっており、私自身も大好きな1曲です。

 そして、この選曲で見逃せないのが、MUROさんはこの曲をピッチ+5.8ぐらいでプレイしており、この曲のファンキーさをさらに引き出し、Old Schoolの良さを全開にしています!!

 私の話で恐縮ですが、Hip Hopを好きになった高校生ぐらいの時は、Old Schoolの曲はどうも「もたーっとしている」印象があり、あまり好きになれなかった記憶があります。

 ただ、MUROさんがこの曲で施した大胆かつ適切なピッチアップは、Old Schoolの曲に躍動感を与える効果があります・・・
 それこそ、指摘した「もたーっとしている」印象がなくなり、曲に躍動感が生まれます・・・

 そして、こういったDJプレイを聴いたことで、自然とOld Schoolの良さを知り、Old Schoolの曲が好きになりました!

 Lesson 3で紹介するSugar Hillの良さも、MUROさんのピッチアップのプレイにより好きになったように、ある意味でこのOld Schoolにおけるピッチアップのプレイは、MUROさんの発明かもしれませんね!!


【10曲目~11曲目】

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 9曲目の「Nice & Nasty 3 / The Ultimate Rap」で盛り上がった後、歌詞の上手い切れ目を狙い、スクラッチカットインで10曲目「Jimmy "Bo" Horne / It's Your Sweet Love」を選曲し、少しグルーブを小休憩します。
 ただ、小休憩ではあるものの、ダンサンブルなグルーブは持続しており、ミックスの中では上手い谷(たに)として機能しています。

 そして、頃合いの良いところで、ゴツゴツとしたスクラッチカットインで11曲目「Grandmaster Caz with Whipper Whip / To All The Party People」へ・・・これも大好きな選曲です!

 まず、この曲もOld School全開な曲で、Hip Hopの定番Breakbeats「The Honey Drippers / Impeach The President」を荒々しく2枚使いしたトラックの上で、Old Schoolの大ベテランであるCold Crush BrothersのGrandmaster Cazが、Old Schoolマナーな歌とラップを、ライブ録音的に披露した1曲になります。

 ただ、この曲、リリースされたのは1992年(※3)になります・・・つまり、Old Schoolの「再演」をした曲なんですね!!

 このLesson 2では「Old School」がテーマとなっていますが、こういった変化球まで選曲していて、MUROさんには頭があがりません。

 それこそ、後半の18曲目では「Busy Bee / Old School」というOld Schoolの再演系の曲を入れていて、私自身、トラックリストを知らないでこの作品を聴いていた頃は、これらの曲が「70年代末から80年代初期の曲だろう」と思い込んでいました。
 うん、これこそ「選曲の妙」というのか、他のOld Schoolの曲と一緒に選曲しているからこそ、こういった選曲が成立するんでしょうね・・・


(※3)「Grandmaster Caz with Whipper Whip / To All The Party People」
 写真のレコードは1994年にシングルカットされた12inchです。1992年には「The Grandest Of Them All」というタイトルのLPがリリースされ、そのLPでこの曲が収録されています。


【12曲目~14曲目】

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 11曲目でOld Schoolなグルーブを盛り上げ、頃合いの良いところで12曲目「Chuck Brown & The Soul Searchers / Bustin' Loose (Part 1)」をカットインし、ここでまた小休憩を行います。
 12曲目はGo-Goの曲なのでOld Schoolと親和性は高く、ノリはキープしつつ、次の曲への期待感を高めています。

 そして、12曲目のパンチライン的なフレーズのタイミングで、印象的なフォーンフレーズをカットイン・・・13曲目「T.S. Monk / Bon Bon Vie」です!!

 この曲、Disco的にはそこまでメジャーな曲ではないですが、個人的にはこれもMUROさんの現場クラシックで、この曲のサビ(♪Bon Bon ・・・ Vie ! It's A Good Time~)に合わせて、KODPクルーのサイドMCがお客さんを煽ってる姿が印象的でした。

 また、Lesson 1もそうだったように、段々とBPMを上げていきながらメロディーのある曲を入れていき、徐々にDisco的な要素を増やす流れがあり、この13曲目を起点にストーリーを展開させていきます。

 それこそ、次の14曲目「Dazz / Brick」は、イントロのブレイクがカッコいい曲ではありますが、そこを上手く外し、13曲目のサビの途中で14曲目のメロディーを使ってのカットインをすることで、上手くグルーブを繋げているのが上手いです!!
 詳しく調べると、14曲目は+5.5のピッチアップでプレイしており、テーマであるOld Schoolを踏まえつつも、Disco的なグルーブが前に出た選曲になっています・・・うん、こういう曲、いや、こういうノリがB-Boy Discoですよね!!


【15曲目~18曲目】

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 そして、15曲目、16曲目と、Disco的な流れの谷(たに)を作るため、BPM早めなMiddle~Cut Upの流れに展開し、17曲目では、この作品のインスピレーション元と言える「Double Dee & Steinski / Lesson 2 (James Brown Mix)」を選曲します!!

 まず、Lesson 2で「Lesson 2 (James Brown Mix)」を選曲しているのは偶然だと思いますが、改めてDouble Dee & Steinskiが広めた「Cut Up」がこの作品のインスピレーションになっているんだなぁと思います。

 例えば、17曲目はイントロ付近から選曲し始め、「James Brown / Sex Machine」ネタが終わって、「Incredible Bongo Band / Apache」のブレイクネタになる部分を狙い、Apacheネタの18曲目(Busy Bee / Old School)にカットインしています。
 普通に「Double Dee & Steinski / Lesson 2 (James Brown Mix)」を知っている、いや、体に馴染むぐらいこの曲が好きな人であれば、18曲目にカットインしたことを気付かないぐらいのDJミックスです・・・気づいたら首を振っています。

 ただ、ここで思うのは、「Double Dee & Steinski / Lesson 2 (James Brown Mix)」をダラダラとかけるのではなく、この曲ですら「Cut Up」の一部として選曲とDJミックスしてくるところに、MUROさんなりのリスペクトがあるのだと思います。

 そう、それは、MUROさんの選曲とDJミックスが織りなす「ミックステープ」でCut Upを表現していることに他なりません。


【19曲目~20曲目】

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 そして、このあたりからOld School感とDisco感、つまりB-Boy Disco感を高めていき、ピークタイムに進んでいきます!!

 まず、18曲目の最後の歌詞で「♪Old School, I'm Outta Here~」と終わりを宣言したところで、スクラッチカットインでスピーディーに19曲目「Grandmaster Flash and The Furious Five / Superappin'」のMC陣のハーモニーが素敵なイントロに繋ぎます。
 そして、約6小節のハーモニーが終わり、本来は「Whole Darn Family / Seven Minutes Of Funk」のループが始まるところで、スクラッチカットインで鬼クラシックな20曲目「Freedom / Get Up And Dance」に繋ぎます・・・またもや大爆発です!!

 まず、19曲目も20曲目もド定番でありながら、選曲の組み合わせとDJミックスの巧みさで曲を盛り上げていき、20曲目でピークタイムを作るのが上手いですね。
 特に、両方の曲とも+6以上のピッチアップをして、BPM117程度まで上げており、普通に聴いたら凡庸なOld School~Discoの曲に躍動感を与えています。

 それも「Freedom / Get Up And Dance」ですよ・・・ド定番ではないですか!!

 MUROさんの選曲を考えた時、決して堀りの深い曲ばかりを執着して選曲はしておらず、こういった定番曲を「カッコよく」プレイすることも魅力だと思います。
 それこそ、Diggin' Ice 96における「Patrice Rushen / Remind me」の選曲は神ですよ・・・優秀なDJは、定番曲の使い方が本当に上手いです!!

 特に、このLesson 2におけるFreedomの選曲で特筆したいのは、曲全体が良い点、MUROさんが求める「B-Boy Disco」の要素が強い点を強調していることで、気づいたらで「踊ってしまう」感じに仕上げていることです。
 それは、イントロでドッカンと盛り上げるのではなく、曲全体を使って盛り上げることです・・・これはクラブの現場を知っているからこそできる技ではないでしょうか?


【21曲目~22曲目】

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 そして、20曲目で作ったB-Boy Discoのグルーブは、エンディングに向けて上手く演出していきます。

 20曲目「Freedom / Get Up And Dance」の中盤にあるブレイクを使い、まずはショートミックスで21曲目「Bumblebee Unlimited / I Got A Big Bee」に繋ぎます。

 一時期はカルトディスコの代名詞であったPatrick Adams作によるDisco曲で、ここでは「次」を盛り上げるための谷(たに)として選曲しています。
 曲の少し哀愁を帯びたメロディーで谷(たに)を作りつつも、ピッチは+4.1でアッパーなDiscoのグルーブを維持し、聴いている人をしっかりと踊らさせます。

 そして、21曲目のサビが終わり、ブレイクになる部分を狙って渾身のロングミックス・・・
 21曲目のスペーシーな効果音を活用したロングミックスで、ロングミックスのフェーダーを閉じたら感激の涙を誘うストリングスが流れます・・・

 22曲目「Risco Connections / Ain't No Stopping Us Now」です・・・最後の大爆発です!!

 まず、この曲は言わずと知れた「McFadden & Whitehead / Ain't No Stopping Us Now」のレゲエ・ディスコカバーで、Risco Connectionsの素晴らしさを体現した1曲ではないでしょうか?

 Risco Connectionsは、1979年~1980年頃に活動していたグループで、独特なレゲエ・ディスコ感による名曲カバーを得意としていたことから、この曲を始め、多くの名曲を残したグループになります。
 ただ、相当カルトなグループで、知る人ぞ知るグループだったと言われています・・・そのため、当時のオリジナル盤は万越え当たり前で、今も昔もDisco系のレア盤になるかと思います。

 そして、MUROさんはこのカルトな名曲をピッチ+4で躍動感を与えつつ、この曲の哀愁を帯びたメロディーを前面に出して、聴いている人を踊り泣りさせます!

 私自身、Riscoのこの曲はMUROさんから教わりました・・・

 そして、この盤に出会うまで厳しい道のりを歩みました・・・

 個人的な話で恐縮ですが、そもそも高額なレコードなため、最初は買うこと自体にハードルがありました・・・
 そして、プレスの都合から盤質が良いのがあまりなく、コンディションが良いレコードに出会うまでにも結構な時間がかかりました・・・

 ただ、ただ・・・今持っているレコードと出会い、家で聴いた時の喜びと言ったら「最高」でした・・・

 MUROさんや多くの掘り師達は、背中で厳しく語っていました・・・

 良い曲と出会うためには苦労をしなさい・・・そして、出会った曲は大切にしなさい・・・

 私にとっては、この曲からこの格言を学んだのかもしれません。


 最後はだいぶ脱線をしましたが、Lesson 2は「Old School」をテーマとしつつも、本テーマである「B-Boy Disco」の良さを捉えた好ミックスです!!





5.Lesson 3

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【トラックリスト】
01 The Boogie Boys / Rappin' Aint No Thing
02 Kurtis Blow / Do The Do
03 Little Royal & The Swingmasters / Razor Blade
04 Pharcyde / Soul Flower (2 tha 3 Remix Inst)
05 Michael Jackson / Remember The Time
   [Blend Mix : Run-D.M.C. / Sucker M.C.'s (Inst)]
06 MC EZ & Troup / Just Rhymin'
07 Boo-Boo "B" / Boo-Boo's Break
08 Greg Nice & Smooth Bee / Dope On A Rope
09 The Sunshine Band / Black Water Gold
10 United 8 / Getting Uptown (To Get Down) [Play : Disco-Trek LP (Tom Moulton Mix)]
11 Trickeration / Western Gangster Town
12 Pleasure / Joyous
13 Super-Wolf / Anybody Can Do It
14 Denise LaSalle / I'm So Hot
15 Sugar Hill Gang / The Lover In You (Inst)
16 Kurtis Blow ‎/ The Breaks
17 Terri Gonzalez / Caught Up (In One Night Love Affairs)
18 Mel Brooks / It's Good To Be The King Rap (Inst)
19 Sylvia / It's Good To Be The Queen
20 The Universal Robot Band ‎/ Dance And Shake Your Tambourine
21 General Johnson / Can't Nobody Love Me Like You Do
22 Silvetti / Spring Rain [Play : Salsoul Jam 2000 LP (Grandmaster Flash Mix)]
23 R.E.M. feat. KRS-One / Radio Song (Monster Remix)
24 Seville feat. Jazzy J and Shameek / Make It Funky
25 Aleem / Release Yourself [Play : Mix-Trix #3 The Break Mixer (Kut-Up Records)]
26 Think Tank/ Hack One
27 Pigbag / Papa's Got A Brand New Pigbag


【1曲目~4曲目】

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 次はLesson 3です!!

 こちらは、あるジャンル~テーマに特化した選曲とDJミックスではなく、パーティーを盛り上げるための「MUROさんの十八番(おはこ)の選曲とDJミックス」が炸裂しており、この作品において「B-Boy Disco」を一番体現しているミックスとなっています。
 
 それこそ、BPMは110ぐらいからスタートしており、最初からパーティーモードになっています!!

 まず、1~2曲目ではOld School~Breakbeatsをゆっくりと選曲しながら、3曲目「Little Royal & The Swingmasters / Razor Blade」の熱いFunkを選曲し、雰囲気を盛り上げます。
 
 この3曲目だったり、10曲目の「United 8 / Getting Uptown (To Get Down)」だったり、このLesson 3では不思議とDeep Funk(ディープ・ファンク)が選曲されています。

 私自身、Deep Funkに凄い詳しくはないので明確な説明ができないですが、Super Disco Breaksがリリースされた1998年の次の年である1999年にはDJ ShadowとCut Chemistによる「Brainfreeze」がリリースされており、Deep FunkがDJシーンで注目され始めた頃かもしれません。
 MUROさん自身、Deep Funkにも造詣は大変深く、その後、Superシリーズで2001年に「Super Funk Breaks 1-4」、そして、2002年には「Super Funk Breaks 5-8」をリリースしていることから、この作品ぐらいからDeep Funkに馴染みがあったことが伺えます。

 ただ、選曲的に凄いなぁと思うのは、その次の4曲目「Pharcyde / Soul Flower (2 tha 3 Remix Inst)」(※4)で、Cut Up的にネタが変わるレアRemixのインストを、Deep Funkの流れで余裕で繋いでくる点です!!
 70年代初期のFunkと90年代初期のHip Hopをこうも簡単に繋げてしまう技、それもCut Upと認識されていない曲を、あえてCut Upの曲として選曲してしまう剛腕にグッときます!!


(※4)Pharcyde / Soul Flower (2 tha 3 Remix Inst)
 写真のレコードは、2001年に日本の独自企画で作られた再発12inchです。
 ただ、この曲の「インスト」は私の中では謎の1曲になっています。写真の12inchにもインストは入っていません。
 もちろん、このRemixが入っているUSプレスの12inchはあるのですが、このRemixのインストがどれに入っているかは、私の調査不足で分かりませんでした。オリジナルのアメ盤、気づくのが遅く、探しきれなかったなぁ・・・
 そこで、もし、このRemixのインストがどの盤に入っているかをご存知の方がおられましたら教えてください・・・テストプレスでLPのインスト盤とかもあるので、その辺なんでしょうか??


【5曲目~11曲目】

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 そして、4曲目で動きを加速させたと思ったら、おもろに聴き覚えのある美声のアカペラをスクラッチでカットインし、その後、B-Boyの血肉でもあるBreakbeatsが流れてきます。

 5曲目は「ブレンド」でのプレイで、なんと「Michael Jackson / Remember The Time」(※5)のアカペラに、あの「Run-D.M.C. / Sucker M.C.'s」のインストをオンタイムでミックスします!

 まず、ブレンドを知らない方もいるので簡単に説明すると、既存のインスト曲の上に既存のアカペラを乗せるDJ技術で、両方のBPMが合っていれば成立するものになります。
 ある意味でDJにおける飛び道具なのかもしれないですが、このMUROさんによるブレンドはパーフェクトの一言です・・・ミックスの流れ的にもさらに躍動感が増すので、素晴らしいアイデアだと思います。

 そして、5曲目のインスト(Sucker M.C.'s)の流れを受けて、6曲目には「MC EZ & Troup / Just Rhymin'」を選曲し、その後10曲目には前述した「United 8 / Getting Uptown (To Get Down)」(※6)を選曲し、上手くMiddleとDeep Funkを混ぜながら、段々とBPMを115ぐらいまで上げていきます。
 その中では、余裕でスーパーレアなNice & Smoothのデビュー曲(8曲目:Dope On A Rope)を選曲する等、掘りの深さを出している点も素晴らしいです。


(※5)Michael Jackson / Remember The Time
 この曲のアカペラは、よく見かける写真の正規12inchには収録されておらず、プロモの2×12inchにのみ収録されています。こういう細かい掘りもMUROさんの素晴らしいところです!!

(※6)United 8 / Getting Uptown (To Get Down)
 こちらもレコードが買えてないので確実な実証ができませんが、このLesson 3では一般的に知られている45ではなく、イントロに声が入っていないTom Moulton Mix(コンピレーションのLPに収録)を選曲しているようです。このLP、何度か遭遇したのですが、コンディションが良いのと巡り合えませんでした・・・


【12曲目】

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 そして、12曲目からは、このLesson 3の肝となる選曲とDJミックスが爆発します!

 私自身、12曲目以降の展開はメチャクチャ好きなので、この部分は詳しく紹介します!

 まず、11曲目まではMiddleとDeep Funkを混ぜながら、上手くBPMを上げていき、12曲目では「Pleasure / Joyous」を選曲し、ファンキーに躍らせます。

 あのDJ HarveyもRe-Editしたことで有名な1曲ですが、この曲を選曲したことでダンスフロアーの空気感が変わります・・・

 なんでしょう、「DJが本気を見せはじめた」みたいな空気が流れ、ダンスフロアーで踊っていると「次は何かボムがくる」と期待してしまいます・・・

 このことも上手く表現できないけど、私としては「フロアーで踊っているからこそ感じる期待感」をこの選曲から感じます。
 それこそ、それまでの選曲が盛り上げているようで、そこまで盛り上げていないからこそ「そろそろ何かくる」と思ってしまいます・・・


【13曲目~14曲目】

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 そして、13曲目以降で「何か」が来ます・・・

 14曲目では、MUROさんクラシックな「Denise LaSalle / I'm So Hot」を選曲し、フロアーが大爆発します!!

 それも、14曲目のシンガーDenise LaSalleの旦那さんであるSuper-Wolfがラップカバーした13曲目「Super-Wolf / Anybody Can Do It」(実際のラップ曲のインスト)を先にプレイし、そこから14曲目「Denise LaSalle / I'm So Hot」のイントロをロングミックスしていく「MUROさんの十八番(おはこ)」とも言えるミックスで爆発させます!!

 この選曲とこのDJミックスにヤラれた方は多いはずです!!

 まず、Lesson 3の流れを整理すると、この曲まではそこまで盛り上がりがない流れがあり、この流れの中で「待っていました!」とばかりにこの曲を選曲して、ガッツリと盛り上げる展開になっています。

 特に、先に13曲目の実質的にインストな曲を挟み、そこで期待感を高めて、そのままロングミックスでパワフルに本編に進める選曲とDJミックスは、この14曲目を盛り上げるために必要な技となっております。
 また、14曲目のファンキーで高揚感があるグルーブは、まさにB-Boy Discoを象徴し、Denise LaSalleの歌声と曲の素晴らしいメロディに乗せられ、聴いてて「熱く(Hot)」になります!!

 私自身、この選曲とDJミックスを最初はラジオ(Da Cypher)で聴いて大好きになり、今でもこの部分が来るたびに「来たー」となってしまいます。
 今となっては良い思い出ですが、実際にクラブでMUROさんがこの選曲とDJミックスをした際は、気付いたら泣きながら喜んで踊っていました・・・うん、軽く失神するぐらい、衝撃的な瞬間でした・・・

 不思議なのは、これらの曲は「MUROさんのDJ」を通して聴くから「最強」なんですよね。

 両方の曲とも軽くピッチアップはしていて、同じピッチにすればきっと同じように聴こえるのでしょうが、MUROさんの選曲とDJミックスがあるからこそ、この曲達が「最強のB-Boy Disco」になるんだと思います!!

 なお、横道な話ですが、MUROさんのDJ30周年の記念本「真ッ黒ニナル果テ 30 years and still counting」に私が参加させていただいた際、MUROさんを代表する1曲の紹介において、私は真っ先に「Denise LaSalle / I'm So Hot」を挙げさせていただきました!!


【15曲目】

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 13曲目~14曲目でピークタイムが初めてありましたが、このLesson 3の特徴は「ピークタイムが長く続くこと」になります。

 それはまるで「ピークタイムの連続攻撃」のように、盛り上がる曲を連続で入れてくる選曲とDJミックスになっています。
 実際には約15分間、13曲目から22曲目までが該当し、BPM115~118ぐらいでガンガンと盛り上げながらも上手く流れをコントロールしており、流石の手腕です。

 この点を踏まえ、15曲目以降も詳しく紹介します!! 

 14曲目「Denise LaSalle / I'm So Hot」は、長めのプレイでしっかりと曲を聴かせつつ、印象的なサビの途中で絶妙なカットインで15曲目「Sugar Hill Gang / The Lover In You」を選曲します。

 まず、このカットインが絶妙で、15曲目の「♪This Is For The Lover In You~」と歌うサビでカットインするのですが、14曲目と15曲目のメロディーが完全にシンクロしており、14曲目の盛り上がりをしっかりと引き継いでいます。
 また、14曲目のグルーブを繋げつつも、そのグルーブをさらに広げるためか、サビだけが強調されている「インスト」をあえてプレイし、15曲目のもつ「夜の華やかさ」みたいなグルーブを軽く演出している点が上手いです。

 そして、もっともビックリするのが、この曲の「強烈なピッチアップ」で、前後の曲の流れとBPMを踏まえ、この曲はピッチ+7ぐらいまでピッチアップしています!

 ここまでピッチアップをすると原曲の印象がだいぶ変わってしまうのですが、ピッチアップしたことで生まれる躍動感が素晴らしすぎます!!
 Lesson 2で指摘した「Old Schoolの曲のピッチアップ」において最もピッチアップした曲がこの曲で、原曲のもたーっとした感じをピッチアップすることでシャープになり、かつ「夜の華やかさ」を演出しているのが上手いです!!


【16曲目~17曲目】

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 そして、15曲目が間奏になったタイミングで、Old Schoolの名口上「♪Clap Your Hands Everybody, If You Got What It Takes・・・」から始まる16曲目「Kurtis Blow ‎/ The Breaks」(※7)を選曲し、今度はOld Schoolのグルーブを伸ばします。

 同曲の快活なOld Schoolは気持ちよく、かつ、ド定番曲なのでみんなが楽しめる選曲も上手いですね・・・
 考えてみると、Lesson 3では定番曲があまりないので、このような定番曲を1曲でも挟むと場が和む効果があると思います。

 ただ、この16曲目は、次の曲を盛り上げるための「谷(たに)」にしていたようです。

 実際に16曲目のイントロのファンキーなギターリフが終わった後は1番の歌に入るのですが、わずか3小節で次の曲にカットインします。
 ちょうど「♪Break It Up, Break It Up, Break It Up~」とラップした直後に、印象的なキックとメロディーが流れます。

 はい、17曲目「Terri Gonzalez / Caught Up (In One Night Love Affairs)」です!!

 もー、これにも「来たー」と手が上がりますよね!!

 それも、こんな「マニアックな曲」で盛り上げている点には驚愕します・・・

 この曲はDiscoの大名曲「Inner Life / I'm Caught Up (In A One Night Love Affair)」の元曲になり、少しだけアレンジや歌い方が違うバージョンとなっています。
 ただ、相当なレアDiscoではあるものの、作者の1人であるPatrick Adamsらしい可憐なメロディーが最高で、市場では人気な1枚となっています・・・私も、これを買うまで苦労しました。

 ただ、1998年の時点でこの曲を選曲し、この曲で盛り上げているのが素晴らしいです!!

 ちょっと涙を誘うメロディーとダンサンブルなDiscoグルーブが最高で、MUROさんはこれらを理解して絶妙なタイミングで選曲してきましたね・・・
 14曲目「Denise LaSalle / I'm So Hot」が「お昼のB-Boy Disco」であれば、こちらの17曲目は「ミッドナイトのB-Boy Disco」という感じで・・・気づいたら泣きながら踊っている自分がいました!!

 それにしても、この曲のPatrick Adamsだったり、Risco Connectionsだったり、その後、Discoの世界で人気となる曲(アーティスト)を、先取りとばかりに選曲している指の黒さ・・・MUROさんの掘りに狂いはないです!!


(※7)Kurtis Blow ‎/ The Breaks
 これも調べきれなかったことですが、MUROさんはどうやら写真のオリジナルではないバージョンでプレイしていた可能性があります。 
 Lesson 3では、同曲のイントロの部分から入るのですが、同曲のイントロのクラップ音ではない「ベース音」のようなものが聴こえます。それは、16曲目「Sugar Hill Gang / The Lover In You」にはないベース音です。そして、このことを踏まえて、25曲目「Aleem / Release Yourself」がマスターミックスのレコードでプレイしていたことを考えると、同曲もオリジナルではなく、マスターミックス~メドレー等のレコードからプレイしていた可能性が高いと判断してしまいます。
 なお、この曲を詳しく調べてみると、当時の人気曲だけあってマスターミックス~メドレーでよく利用されていて、Kurtis Blowの曲だけのメドレーもあるぐらいなので、この線のレコードでプレイしていると妄想してしまいます・・・もし、ご存知の方がおられましたら教えてください!!


【18曲目~21曲目】

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 そして、17曲目で盛り上がったところで、次の展開に進めるための「谷(たに)」を18曲目から21曲目あたりで演出しています。

 まず、17曲目のサビ終わりを狙った、スクラッチカットインで「♪It's Good To Be The King」のフレーズとともに、華やかな18曲目「Mel Brooks / It's Good To Be The King Rap」を選曲します。

 ただ、MUROさんらしいのは、18曲目はインストをプレイし、華やかなメロディーで空気感を盛り上げたら、クイックで19曲目「Sylvia / It's Good To Be The Queen」に優しくカットインします。
 そう、18曲目の元ネタである19曲目に繋ぐ、聴いてて「ニヤっ」とする選曲を行っています!!

 このKing & Queen繋ぎはMUROさんの中では鉄板で、この2枚の曲をセットにして持っている方が多いのではないでしょうか?

 MUROさんは、この2曲がもつ「ミッドナイトの華やかさ」を上手く演出し、ピークではないもののB-Boy Discoのダンサンブルな一面を強調させています。
 少し脱線しますが、このLesson 3ではOld Schoolのド本命レーベル「Sugar Hill(シュガーヒル)」の曲をピッチアップして使うことで、この「ミッドナイトの華やかさ」を上手く演出しており、これもMUROさんの技ですね!!

 そして、次の20曲目もLesson 3の華ではないでしょうか?

 華やかでダンサンブルなグルーブを引っ張りながら、ビートの送りを入れながらのスクラッチカットインで20曲目「The Universal Robot Band ‎/ Dance And Shake Your Tambourine」を選曲します。

 もー、この「てん、とん、たん、てぃん・・・」と入るスクラッチカットインは、皆さん、真似しましたよね!
 20曲目のイントロメロディーを音階ごとにスクラッチを入れながら、最終的にはカットインする手法で、ほんとカッコいいDJミックスです!

 また、ピッチも+6程度にピッチアップしてて、18曲目以降のダンサンブルな雰囲気をさらに伸ばしてて、選曲的にも絶妙です。
 うん、Patrick Adamsっぽい優しいエレピ音が踊っている気分を盛り上げ、気づいたらB-Boy Discoらしい華やかな空気を伸ばしています。

 ただ、もう少し深堀りすると、これらの選曲は、ダンサンブルなグルーブを作ることによって「淡々と躍らせる」ことをイメージしているようにも思えます。

 それは、常にハイテンションなピーク曲を選曲するよりも少しの谷(たに)を作ることで、次のピーク曲を盛り上げることを意識しているのだと思います。

 そのため、次の21曲目「General Johnson / Can't Nobody Love Me Like You Do」はファンキーな曲ではあるものの、ピークに繋げるための谷(たに)として選曲しています。
 特に、この曲のちょっと哀愁を帯びた歌声とメロディーが絶妙で、拳を握りながら歌ってしまうのですが、次に「何かある」という期待感も生まれます。

 そして、Lesson 3のピークタイムのオーラスに向かいます・・・


【22曲目】

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 21曲目の熱いサビが終わったタイミングで、歯切れのよいOld School調のMCの声をスクラッチカットインし、バックにはSalsoulクラシックである「First Choice / Love Thang」のブレイクが聴こえます・・・
 そして、味のあるMCが入ってきて気分を盛り上げつつ、気づいたら印象的なピアノリフが鳴り始め、絶妙なタイミングで22曲目はスタートします。

 そう、Salsoulクラシックである「Silvetti / Spring Rain」です!!

 まず、選曲的には、これまでも維持していた「華やかでダンサンブルなグルーブ」をパッと開花させるような展開で、ダメ押しのピークタイムにもってこいな選曲となっています。
 
 そして、この選曲で最も素晴らしいのは、同曲をそのまま使うのではなく「DJのミックス作品の音源」を使っていることでしょう!!

 まず、このことを詳しく紹介すると、Old SchoolのレジェンドDJである「DJ Grandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)」が1997年に発表したミックスCD「Grandmaster Flash / Salsoul Jam 2000」において、MCの掛け声やFlashのDJミックスが入った音源をMUROさんは使用しています。
 実際には写真のLPを使っており、ある意味でMUROさんがこの音源をCut Up的な視点で見抜いて選曲しています!!

 このアイデアには完敗ですよね・・・

 私自身の話をすると、Super Disco Breaksがリリースされた1998年には、ラジオでもこの盤を使った選曲をしていて、当時はこのLPからプレイしていることに気付きませんでした。
 特に、このミックスCDが醸し出す「Old Schoolっぽい古臭さ」があり、このミックスCD自体を当時はスルーしていましたが、あるタイミングでこのLPから使っていることを知り、買ってみたらメチャクチャカッコよく、MUROさんの凄さを知りました!

 うん、Old Schoolの曲のピッチアップを始め、DJの曲の使い方1つで「プレイした曲」は光るのです・・


【23曲目~27曲目】

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 Lesson 3はだいぶ詳しく紹介をしましたが、22曲目をもって約15分のピークタイムは終わります。

 ただ、その後もダンスは終わらず、ピークは作らなくともBPM120程度の流れを維持し、聴いている人をさらに躍らせながらLesson 3を閉じていきます。

 25曲目には、Garageクラシックとしても有名な「Aleem / Release Yourself」(※8)を選曲し、少しだけ4つ打ちを意識した、踊りやすいグルーブを演出しています。
 そして、26曲目「Think Tank/ Hack One」では、Middle~Cut Up的な要素を含ませつつも、さらに4つ打ちを意識した展開を進め、最終曲の27曲目(Pigbag / Papa's Got A Brand New Pigbag)に至っては、BPM130まで一気に上げ、フロアーで踊っているダンサーをマッドに躍らせます。

 どのミックスを聴いてもそうなのですが、Super Disco Breaksは「終わった後の選曲」が気になりますよね・・・

 このLesson 3であれば、クラブのフロアーを意識して徐々に4つ打ちを強めていることから、例えば「Houseに行くのかな」と思わせます。
 また、最後の27曲目がラテンやサンバの要素もあるので、ダンサンブルなSambaやLatinに行くかもしれないですね・・・

 うん、MUROさんはその後、2000年にHouseやSambaをテーマにした「Super Samba Breaks」をリリースすることから、もしかしたらLesson 3はこの作品に繋がっていくのかもしれませんね・・・


(※8)Aleem / Release Yourself
 この曲は、実際には「Mix-Trix #3 The Break Mixer」というマスターミックス~メドレーのレコードに収録された同曲を使用しているそうです。
 なお、この事実は、当時で回ったトラックリストにこのレコード名が記載されていることから分かりました。どう聴いてもAleemなのに、こう表記してくるところもMUROさんらしいですね。





6.Lesson 4

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【トラックリスト】
01 Fantasy Three / It's Your Rock
02 Cloud One / Patty Duke
03 Troy Rainey / Tricky Tee Rap
04 Super 3 / When You're Standing On The Top
05 Risco Connection / Sitting In The Park
06 Trilark / Check It Out
07 Melba Moore / Standing Right Here
08 Radiance feat. DJ "R.C." / The Micstro
09 Robin Beck / Sweet Talk
10 Positive Force / We Got The Funk
11 Cerrone feat. Jocelyn Brown / Hooked On You
12 Edwin Starr / I Just Wanna Do My Thing
13 Solo Sound / Get The Party Jumpin
14 Blondie / Rapture (Guru's Fly Party Mix)
15 Brenda & The Tabulations / Let's Go All The Way (Down)
16 T.J. Swann & Peewee Mel & Barry B. / Are You Ready
17 Millie Jackson / I Had To Say It
18 The Urban All Stars / It Began In Africa


【1曲目~5曲目】

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 さあ、最後のLesson 4です・・・

 こちらは、私としては「アフターアワーズ」というのでしょうか、ピークタイムの余韻を上手く引き継ぎつつ、気持ちよく躍らせる選曲を重視したミックスになっています。

 まず、序盤の選曲で目を引くのは、2曲目と3曲目はPatrick Adams絡みのレアなOld School等を選曲しつつ、4曲目「Super 3 / When You're Standing On The Top」で、気持ちいい空気感を演出しています。
 4曲目は「Maze / Before I Let Go」を引き直したトラックに、「Keni Burke / Risin' to the Top」のサビを引用した曲となり、なんとなく朝方に近い空気感を醸し出し、素敵な出だしとなっています。

 そして、この気持ちいい流れを少し上向きにする意味で、5曲目には「Risco Connection / Sitting In The Park」をゆっくりと選曲します。

 言わずと知れた名曲のカバーで、今回のSuper Disco Breaksで大活躍なRisco Connectionによるレゲエ・ディスコカバーですね・・・
 朝方の雰囲気にトロピカルな雰囲気も加え、まるで綺麗な朝を迎えたような印象を作り、大変素晴らしい選曲です!


【6曲目~7曲目】

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 そして、5曲目以降はゆっくりとグルーブを進ませつつも、選曲で色々な表情を出し、後半のピークに向けてグルーブを高めていきます・・・

 まず、6曲目から7曲目は少しセンチなグルーブも入れ、ミックスの流れの中で谷(たに)を作っています。

 それこそ、6曲目「Trilark / Check It Out」は、80年代前半のマイナーなR&B~Dance Classicsで、MUROさんの選曲によりシーンに知れ渡った1曲かと思います。
 1~5曲目までの気持ちいい空気感を引き受けながら、歌とメロディーのちょっと切ない感じが大変よく、踊りながらちょっとウルっとなります・・・

 また、DJミックスの面においても、Lesson 3で見せていたアグレッシブなカットイン等は控えめになり、5曲目から6曲目では優しいショートミックスで繋げており、DJミックスの面でも谷(たに)を意識していることが伺えます。

 そして、次の7曲目「Melba Moore / Standing Right Here」も哀愁的な歌とメロディーを前に出した選曲になります。

 ただ、この7曲目は、歌の中にMelba Mooreの力強い歌唱もあるので、聴いているとどこかで「次は何かあるのかな」という期待感も高まる選曲です・・・


【8曲目~9曲目】

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 そして、8曲目は「Radiance feat. DJ "R.C." / The Micstro」で、今度はOld Schoolを選曲します。
 しっかりとしたドラムブレイクとシンプルなメロディーが素敵な楽曲で、徐々に体が動いてしまう、そんな選曲となっています。

 なお、この曲自体はかなりディープなOld Schoolですが、個人的にはグッときたエピソードがあります・・・

 まず、「DJ Cash Money / Now & Then - In Search of Disco Breaks」という2004年ごろに発表された作品で、この作品の製作者であり、Hip Hop界のレジェンドDJであるDJ Cash Moneyが、この曲をDisco Breakとして熱く2枚使いしていたことから、私の中で「この曲は由緒正しい曲なんだよな~」とある時期から思うようになりました・・・
 そして、最近になり改めてSuper Disco Breaksを聴き込んだら、Lesson 4でMUROさんがこの曲をDisco Break的な要素も含めて選曲していたことに、かなり驚きました・・・それは、MUROさんは、このCash MoneyのミックスCDを聴いて刺激を受けたことから、アンサー作品を作ってしまったという逸話があり、その上で、このLesson 4で既にRadianceを選曲していたからです。

 かなりマニアックなエピソードにはなりますが、選曲を通して「DJがDJをリスペクトすること」を象徴したエピソードかもしれないですね・・・ちょっと脱線しました・・・

 なお、この8曲目の選曲を深く調べると、実は「動きがある」ことが分かります。

 それは、BPMの流れをみると、1曲目は102からスタートし、この8曲目ではBPMは116になっていることです。

 そう、ゆったりとした流れの裏では緻密なBPM操作が行われ、徐々にBPMを上げていたのですね!!

 もちろん、このBPM操作の裏では目立たないように各曲をピッチアップしており、この8曲目も少しピッチアップをしてプレイしていました・・・MUROさんのこういった細かい調整が上手いですね!!

 そして、9曲目には「Robin Beck / Sweet Talk」を選曲し、哀愁がありつつも力強い歌声が印象的なこの曲をゆっくりとプレイします。

 ただ、ここでも「次は何かな」という期待を引っ張りながら、裏ではグイグイとグルーブを引っ張っていました・・・

 それは、まるでジェットコースターのように、来たるべきピークタイムに向けて徐々に上へ登っていくようです・・・


【10曲目~11曲目】

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 そして、9曲目のサビの切れ目を利用して、9曲目のグルーブを上手く引き継ぐカットインで10曲目「Positive Force / We Got The Funk」を選曲します。

 Old School~Discoの大定番曲で、9曲目までの哀愁さを若干残しつつも、ポジディブさがあるファンキーな曲を選曲することで急に空気感が変わります。
 この曲もそうですが、MUROさんのSugar Hill使いの上手さといったら最高ですね・・・この曲も少しピッチアップをし、ファンキーに彩っています。

 ただ、実は次の11曲目を盛り上げるための「フリ」だったことに気付きます・・・

 10曲目の後半では、間奏となり、ブレイクダウンしながら「♪We Got The Funk~」というサビを繰り返します・・・この瞬間は、まるでジェットコースターが地上に向かって滑空する前に、頂上であたりをウロウロしている状況のようです。

 そして、この間奏に合わせて別の曲のドラムブレイクがロングミックスされます・・・数小節後、可憐なフォーンフレーズとともにジェットコースターは急に地上に向けって滑空し、ジェットコースターに乗っている人のグルーブを爆発させます・・・

 そう、11曲目「Cerrone feat. Jocelyn Brown / Hooked On You」をカッコよく選曲します・・・このLesson 4の決めの1曲です!!

 まず、聴いている人によって見解が分かれるかもしれませんが、私としてはLesson 4はこの11曲目を光らせるために1曲目から戦略的に選曲を行い、徐々にBPMを上げる手法をとっていたと考えています。
 特に指摘したいのが、聴いている人の「待ってました」という期待感を煽りながら、ピークとなる曲をバシッと決めてくる手法を取っていることで、これはLesson 1~3にはない手法だったと思います。

 それも「Cerron(セローン)」ですよ・・・

 個人的には、こんなカッコいい曲があるとは知りませんでした!!

 Cerronは、フランスのDisco系ドラマー/プロデューサーで、可憐なストリングスやピアノを駆使した名曲を多く残し、いまだにDisco~Houseシーンでは愛されるアーティストでありますが、MUROさんは実質的にシングルカットをされていないこの曲を決め球にもってくる訳です・・・当時としては、正直、パッと聴くと地味な曲だと思います。
 ただ、MUROさんは+5のピッチアップを行い、10曲目までの展開を利用しつつ、絶妙なタイミングでこの曲に繋ぐDJミックスを行うことで、この曲の魅力を最大限に爆発させました。

 うん、これも「B-Boy Disco」ですよね・・・

 曲自体の華やかさはもちろんですが、DJの選曲とDJミックスで既存の曲をさらに盛り上げること、これこそが「B-Boy Disco」なんだと思います!!


【12曲目~15曲目】

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 11曲目でピークを作りつつ、曲が最高潮な絶妙なタイミングで、次の12曲目「Edwin Starr / I Just Wanna Do My Thing」にカットインします。

 おっ、ピークタイムをスパッと終わらせるようだ・・・なんでだろう??

 まず、12曲目はイントロのブレイクと、そのブレイク開けのフォーンフレーズが印象的な曲で、MUROさんは好んで2枚使いしているDiscoの1曲です。

 当然ながら、このLesson 4でも、矢継ぎ早にイントロのブレイクを上手く2枚使いし、ファンキーな空気を盛り上げますが、すぐに13曲目(Solo Sound / Get The Party Jumpin)にカットインしてしまいます。

 んっ、ここではサクサクと選曲を進めている・・・今までのLesson 4では見せなかった展開だ・・・

 これらの展開は、私としてはCerroneで作った空気感をスパッと終わらせ、「次の展開」に進めるための「谷(たに)」だと考えています。

 12曲目~13曲目あたりでは先が分からない展開ではありますが、この後もさらにBPMを少しづつ上げていき、15曲目「Brenda & The Tabulations / Let's Go All The Way (Down)」ではBPMが117まで上げています。

 もしかしたら、段々とダンサンブルな空気感を作っているのかな・・・

 さて、次の展開とはなんだろう・・・


【16曲目~18曲目】

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 16曲目でレアなOld Schhol(T.J. Swann & Peewee Mel & Barry B. / Are You Ready)を挟みつつ、17曲目では女性シンガーがOld School Rapに挑んだと言われる「Millie Jackson / I Had To Say It」を選曲し、Old School~Discoの両方の良さを引き出した展開に進めます。

 そして、頃合いの良い頃に、高らかなフォーンフレーズのカットインで18曲目「The Urban All Stars / It Began In Africa」を選曲します。
 Norman Cook(Fatboy Slim)作のCut Upの名曲で、James BrownやJackson Sisters等を活用したファンキーな1曲ですね。

 そして、18曲目を聴くと「次は何だろう」と思いながら、踊っている足が止まりません・・・

 ただ、これでLesson 4は終わります・・・

 えっ、終わっちゃうの? 次の曲はないの??

 あっ、そうか、次の曲は「みんなの心の中で想像すれば」いいんだ・・・

 最後は意味不明な説明になりましたが、12曲目以降の展開は、ある意味で「聴いている人の想像力に委ねる」展開をしていて、この終わり方も含めて、素晴らしいをストーリーを描いています!

 MUROさん自身がこういったストーリーを考えて終わらしたのかは分かりませんが、最後の18曲目が優しくフェードアウトしながら曲が終わっていく姿を見ると、聴いているリスナーに「この次の展開を想像させる」ように思えます。

 うん、これも「DJの技」でしょう・・・

 最後の最後でこういった終わり方を演出するMUROさんの選曲とDJミックスの上手さに、改めて驚きます!!





7.おわりに

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 久しぶりの大ボリュームな記事になりましたね・・・

 とりあえず、脳内にあったこの作品に関する思いは全て出し切りました・・・ただ、上手くまとめらなかった部分も多いので、そこは残念です・・・
 うーん、まだまだ買えてないレコードも多いし、もっと研究すべきところも多いし・・・私の修行の旅はまだまだ続きます。


 そして、冷静にこの作品のことを考えると、この作品が作られたのは1998年です・・・

 そう、今から24年前です・・・

 うん、四半世紀前に20代の若者が、ここまで掘りを極めた選曲に最強のDJミックスを施し、誰しもが踊ってしまう「B-Boy Disco」という世界観を「ミックステープ」という形で表現したことに驚きを隠せません!!

 そして、このミックステープを聴いた多くのDJは「ジャンルに関係なくカッコいい曲を自由に選曲し、カッコよくDJミックスする」ことを覚え、様々なミックステープを発表し、DJ活動を広げていきました。

 それは「オールジャンルミックス」というジャンル/DJスタイルになるのかもしれませんが、この作品が無ければ成立しなかったものと考えられます・・・うん、これって日本だけの動きで、もっと評価されるものだと思います!


 これらのことを踏まえると、MUROさんには感謝の言葉しかありません。

 今回、この感謝の気持ちを込めて、この記事を作成しました・・・

 そして、この記事を読んで、この作品を愛してくれる人が増えてくれれば本望です。
 

 最後にMUROさんへ・・・

 素晴らしい作品を作っていただき、ありがとうございました!!





<Release Date>
Artists / Title : DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 1-4」
Genre : Hip Hop、Disco、Soul、Funk、Rare Groove、R&B・・・
Release : 1998年
Lebel : KODP/Savege No Number



Notice : トラックリストについて

muro_sdb_tl_001.jpg

 この作品はトラックリストが付属していない作品となりますが、発売時に上記のようなトラックリストが一部のお店で配られたり、販売店の店頭に掲示されたとされています。
 ただ、このトラックリストは掲載内容に若干の誤りがあったり、テープの収録内容に従うとLesson 3はD、Lesson 4はCと逆に表記されており、何とも言えない内容になっています。

 そのため、この記事では、私が独自に作成したトラックリストに準じて作品紹介を行いました。予めご注意ください。

 なお、トラックリストに関することは、2010年に公開した下記の記事で紹介しています。

 ・「Super Disco Breaks 1-4 & 5-8」トラックリスト公開


Notice : 続編について

IMG_2188.jpg

 この作品は、続編として「Super Disco Breaks Lesson 5-8」が2000年にリリースされています。
 以下の記事で、この再紹介記事と同じように詳しく紹介しております。2年後の進化が素晴らしいです!

 ・DJ MURO 「Super Disco Breaks Lesson 5-8」(詳細版)




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コメント

原題

B-Boy Discoに大賛成
はじめまして、いつも楽しく拝見しております B-Boy Discoの定義はストリートダンスのバトルやショーケースで使用される曲にも通じてる気がしました(私はもっぱら観る専門ですが…)

MTTさんの再考察回は、当時スルーしていた作品の購入や所持しているが改めて聴き込む発見になりますので大変感謝してます ありがとうございます

mixtapetroopers

Re: B-Boy Discoに大賛成
>原題さん

コメントをいただき、ありがとうございます!!

「B-Boy Disco」という、なかなか定義が難しいものを提案してみましたが、気に入っていただき、ありがとうございます!
ぜひ、作品も聴いてみてくださいね~

また、ストリートダンスの部分は、これも確かに重要ですね!!
アップテンポな曲は踊りには最適・・・こういった流れも、この作品に影響し、この作品がダンスシーンに影響したこともあり得そうだ・・・重要なご指摘をいただき、ありがとうございます!!

では、今後とも宜しくお願いします!!
次回をお楽しみに~♪



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mixtapetroopers

HipHop,R&B,Soul,Funk,RareGroove,DanceClassics,Garage,Houseなど、私が気に入っているMixTape,MixCD,その他もろもろを紹介するブログです。

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